明日への遺言
陸軍中将・岡田資が戦犯として裁かれる法廷の様子を描いた作品。岡田資役は藤田まこと、監督は『博士の愛した数式』の小泉堯史。ちょっと重い作品かと敬遠していたのですが、『私は貝になりたい』を観た方々のブログに頻繁とタイトルが出てくるのでコレを機会にと鑑賞してみました。
>>『明日への遺言』公式サイト
何と高潔な人物か。
太平洋戦争終了後、米軍捕虜処刑の罪に問われ戦犯裁判にかけられた東海軍司令官・岡田資中将(藤田まこと)の法廷での戦いからその最期までを描く。処刑の罪は部下にはなく、全ては司令官たる自分の責任であると訴え、さらにその処刑に関しても、B29による無差別爆撃は国際法違反であり、米兵は捕虜ではなく戦犯だと論じた。
その堂々たる論陣は時に自分に対する好意的な質問すら拒絶する。そんな岡田の姿は次第に弁護人だけでなく、敵であるはずの検察官、そして中立であるはずの裁判委員長の心をも揺り動かした。しかし、岡田の法に対して公平な発言は、彼に対して残念な判決をもたらさざるをえなくなるのだったー。
本作品は大岡昇平の小説『ながい旅』を原作に制作されたそうですが、公式サイトを見ると小林監督は「岡田資中将の最後の姿を事実に則し、虚心に描かんとするものです。」と書いています。まさに事実に基づいた圧倒的な説得力を感じさせられた作品でした。
そもそも私が本作を観るきっかけになった『私は貝になりたい』とは主人公が丁度対照的になっています。方や当時のエリートで知的教養が豊富な陸軍中将、方や一般庶民で床屋の主人。『私は貝になりたい』の豊松が死にたくない、私はなにも悪いことはしていないと思うのは当然の感情です。
しかし、岡田中将は全ての責任を自らが負おうとするだけでなく、米軍による無差別爆撃の非までも問おうとしました。彼曰く“法戦”です。彼の頭の中には“法戦”に勝利することが全てであり、己の命のことなど顧みてはいませんでした。どちらが良い悪いではなく、それぞれの立場の違いです。
岡田中将は判決が出た後、裁判委員長にとうとうと感謝の気持ちを述べます。当時の軍事法廷では、殆どが米軍の無差別爆撃に関する主張は許されなかったものの、この法廷ではそれが許された。将来日本人がこの事実を知った時、米国と日本の友好に寄与するはずだと。
それを聞いた裁判委員長、検察官の何とも複雑な表情。仕事として、法に照らして、岡田中将に死刑を宣告せざるを得なかったこと、それが何とも残念でならないといった彼らの表情を見るにつけ、当時の軍事法廷でこのようなことがあったのかと愕然とさせられます。
岡田中将が命を懸けて妻に、息子に、孫に、そして現在を生きる我々に残したかった“心”。本作は私たちが日本人である以上、必ず知っておかなければならない事実を取り上げた作品だと思います。必ず観て欲しい、そしてそれぞれが感じたことを忘れずに心の引き出しにしまって欲しい、そんな一作だと思いました。
個人的オススメ度(映画作品としてでなく、史実として。)
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