4ヶ月、3週と2日
第60回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを初めとして多数の映画賞を獲得したルーマニア映画。ルーマニア映画なんて観たことがありませんが、時代背景はチャウシェスク大統領による独裁政権時代。チャウシェスク大統領の公開処刑はショッキングな出来事として私の記憶に残っています。
>>『4ヶ月、3週と2日』goo映画
力強い映像力に魅かれる異色作
オティリア(アナマリア・マリンカ)とガビツァ(ローラ・ヴァシリウ)は大学の寮のルームメイト。オリティアはガビツァの頼みで彼女が予約したホテルへと向かう。しかし、ガビツァが予約を入れたはずのホテルは、予約がとれていなかった。何とか別のホテルを手配しガビツァをそこに呼ぶと、彼女は更にベベ(ヴラド・イヴァノフ)という男に会ってホテルまで連れてきてくれるように頼む。お互いに顔も知らない者同士ではあったが、何とかベベとオリティアは落ち合い、ガビツァの待つホテルに向かった。実は男は医者だった。ガビツァは妊娠しており、違法中絶をするためにベベに依頼したのだ。しかし、用意した金では足りず2人はベベからある条件を突きつけられる・・・。
この作品は予習が必要です。チャウシェスク政権時代末期という時代背景、これは非常に重要なファクターです。つまり、東西冷戦が崩壊に向かう過程で、当時ソ連を中心とする東側の国民は非常に貧しい生活を強いられていました。それが故に、大学生のガビツァは違法な中絶をしようとします。作品のタイトル『4ヶ月、3週と2日』はガビツァの妊娠期間のことだったんですね。
そもそもルームメイトのオティリアは最初はあくまで手伝いというつもりだったはずが、ガビツァのあまりのいい加減さに苛立ちながらも能動的に彼女の中絶を手助けするようになります。それにしてもオリティアとはどういう人物なのか・・・。謎という意味ではありません。悪く言えば“お人好しもたいがいにしろ!”と。
ガビツァはベベという男に中絶を依頼しますが、それは友人が依頼した医者ではなくただ料金が安いからという理由でした。結果としてこのガビツァのいい加減さが2人に“足りない分の料金を体で払う”という悲劇をもたらします。大体、お金が足りなくなったのも、本来はベベとガビツァが会って相談するはずだったものを、勝手に友達に聞いた額で出来ると思い込んでいたから。更に堕胎後の胎児の始末までオリティアにしてもらう始末。
ところで、自分のためにベベに抱かれたオリティアにガビツァがかけた言葉、それは「ありがとう。」でした。この辺りちょっと日本人の感覚では理解しにくいです。日本人的感覚だと「ごめんなさい。」ですから。謝罪ではなく感謝、文化の違いが生み出す正反対の言葉、文字通りちょっとカルチャーショックでした。
本作は日本風に言うなれば“オリティア密着24時”という感じ。友達の中絶を手伝うために街中を移動し、人と会い、恋人の母親の誕生日に参加し、友達の胎児の始末をし、再び友達のところに戻る。その間、手持ちカメラでの撮影が非常に多いのですが、それがよりドキュメント感を醸し出していて、その映像力に思わず引き込まれます。ちなみに、手持ちといっても『クローバー・フィールド』のような素人のハンディカム撮影もどきのチープな映像ではありません。
胎児をかばんに詰め、バレたら逮捕の緊張感に押しつぶされそうになりながら、それでも何とか始末をして戻ったオリティア。そんな彼女の緊張感を全く顧みることなくガビツァはレストランでパーティーメニューを注文しています。「おなかペコペコだったんだもの。」苛立ちを通り超えて呆れるオリティア・・・そこで密着は終了。「ハイここまで!」とばっさりブラックアウトで終わる潔さが却ってストーリー全体を引き締めていました。
個人的オススメ度(ルーマニア語にもメルシーてあるのね・・・)
| 固定リンク
最近のコメント