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2009年3月 3日 (火)

シリアの花嫁

Photo_6ハリウッドで製作される中東を舞台にした作品はよくありますが、これは今最も注目を集めている国・イスラエルが占領し続けているゴラン高原に住むとある家族の物語です。主演ヒアム・アッバス、監督はエラン・リクルスという一般的な日本人には無名な2人。2004年のモントリオール世界映画祭グランプリ受賞作品です。
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予想外のユニークさ

あらすじへ

『シリアの花嫁』というタイトルですが、物語は姉アマルを中心にした一家の物語です。自分の結婚生活が上手くいっていないアマルは、妹モナにはどうしても幸せを掴んで欲しいと願っていました。しかし結婚したらモナは恐らく二度と故郷には戻れません。その点だけがアマルの唯一の心配でした。

Photoイスラエル占領下のゴラン高原に住む少数派イスラム教徒のアマルたちは国籍がありません。これは実際そうした人々がいるらしいのですが、どうしてそうなってしまったのかは不勉強なため解りません。もっとも、イスラム教とユダヤ教という宗教の違いとイスラエルが強引に占領してしまったという事実を考えると、簡単に国籍を与える話にはならなそうだとは推測できます。いずれにしろモナはシリア領内に入った時点でシリア国籍が与えられ、同時に国交のないイスラエルには入国できなくなる、そういういことです。

さて、こんな風に書くといささか湿っぽい話に感じるかもしれませんが、実はそんなこともないんです。厳しい環境に置かれているのは事実ですが、そんな環境に負けないだけのタフな精神を彼らは持ち合わせていました。そんな彼らを描き出したこの作品にはユニークなシーンも多く、劇場内に笑い声が響くこともしばしばでした。もちろんそのユニークなシーンには現在まで続くシリアとイスラエルの関係に対する皮肉も多分に含まれているとは思います。

Photo_3さて、ここでふと思ったことがあります。確かにモナたちの置かれた状況は非常に厳しいもので、我々のように単純に結婚を喜べる環境にはないでしょう。ですが、結婚式前の新婦は多かれ少なかれ不安を抱いているものではないでしょうか。すなわち“マリッジブルー”というやつですね。私は男ですのでいま一つ実感がないですが、世の既婚女性であればおおよそその気持ちは理解できるのではないでしょうか。この作品が割とライトに観えるのは、我々でも理解できる身近な感覚を扱っているからというのもあるのでしょう。

ことほど左様に、この作品では悲壮感を前面に出さないユニークな描き方をしています。フランス人のジャンヌがイスラエル側とシリア側を何度も何度も往復する様子は、まるでイスラエルとシリア間で振り回されるフランス=欧米諸国を象徴しています。ゴラン高原は元々フランスの委任統治領だったこともあるのですから、ある意味この苦労は自業自得ですね。(笑)また、両国の出入国担当官もいかにもお役人然とした頭の固い対応をするイスラエル側、引継ぎもせず帰ってしまうアバウトなシリア側と、両国の国民性の違いも見られてこれもまた面白いです。

Photo_4境界線のゲートの前でポツンと一人座る花嫁モナの姿はとても異質なもので、我々にはおよそ現実感のない光景です。座りながら彼女は何を考えていたのか…。しかし覚悟を決めて歩き出した彼女の表情はとても素敵な笑顔でした。その笑顔をみると、彼の地に住む人々の心の強さを感じます。イスラエルとパレスチナの話題はニュースを賑わしていますが、イスラエルとシリアの話題はパレスチナのそれに比べるとずっと地味です。その意味で、大変勉強になる作品でもありました。知名度は低いですが良い映画だと思います。

個人的オススメ度(ゴラン高原はりんごが特産?)

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» シリアの花嫁 - 僕の生まれた国 [風を見たくて]
久しぶりにいい映画を観た。映画館で映画を見るのは何年ぶりだろう。 昨日封切になったばかりの「シリアの花嫁」、神保町の岩波ホール。行ってみたらなんとも小さな劇場だったが、... [続きを読む]

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Syrian Bride◆プチレビュー◆政治的な要素と共に、家族の普遍的な愛を描く物語。隠れた名作に出会う喜びを得た。 【75点】  イスラエル占領下の小さな村。モナは、今日結婚するというのに浮かない顔だ。嫁ぐ先はシリア。一度国境を超えると二度と村には戻れない。決意を...... [続きを読む]

受信: 2009年3月 3日 (火) 23時32分

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シリアの花嫁 HP   http://www.bitters.co.jp/hanayome/ すばらしい映画! 最高の名画の一つに数えたいと思う。 「境界」という人間が作ったものに翻弄されながらも、強い意志で、一 [続きを読む]

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なかなかご覧になれない映画だろうと思いますので、映画の内容をできるだけたくさんの画像を交えてご紹介しております。 さて、国境に着いた花嫁一行。まずはイスラエル側でシリアに行くための事務手続きを取ります。 問題なくスタンプを押してもらって、まずは一安心。普通ならスタンプを押されたパスポート(?)を持参して花嫁本人がシリア側で手続きを取ればいい場面ですが、モナのパスポート(?)は国連管轄の事務官の女性が受け取ります。 イスラエルとシリアが領有を争っているゴラン高原なので、両国の和平のために... [続きを読む]

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» *『シリアの花嫁』* ※ネタバレ有 [〜青いそよ風が吹く街角〜]
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» 映画 【シリアの花嫁】 [ミチの雑記帳]
映画館にて「シリアの花嫁」 2004年モントリオール世界映画祭グランプリ作品。 おはなし:イスラエル占領下のマジュダルシャムス村ではモナ(クララ・クーリー)が結婚の準備をしていたが、姉アマル(ヒアム・アッバス)は境界線を越えるとシリア国籍が確定してイスラエルへの入国が不可能になる妹を案じていた・・・。 映画は、花嫁モナの嫁ぐ日一日を切り取った物語なのですが、その歴史的背景はあまりに複雑なものがありました。 舞台となっているゴラン高原はもともとはシリア領でしたが、1967年の第三次中東戦争でイ... [続きを読む]

受信: 2009年7月29日 (水) 20時26分

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『シリアの花嫁』 ---THE SYRIAN BRIDE--- 2004年(イスラエル/フランス/ドイツ) 監督:エラン・リクリス 出演: ヒアム・アッバス、マクラム・J・フーリ、クララ・フーリ イスラエルに占領されて以来、シリア側と分断状態にあるゴラン高原の小さな村を舞台に、政治に翻弄される花嫁とその家族の運命を描くヒューマン・ドラマ。 主演は「パラダイス・ナウ」のヒアム・アッバス。 監督は「カップ・ファイナル」のエラン・リクリス。 イスラエル占領下のゴラン高原、マジュダルシャム... [続きを読む]

受信: 2010年5月26日 (水) 21時16分

» 『シリアの花嫁』 [シネマな時間に考察を。]
軍事境界線を巡る、花嫁一家の悲喜交々。 嫁ぎゆく者が国の境遇を越えて運命を選択する、 自立と自決の物語。 『シリアの花嫁』 THE SYRIAN BRIDE 2004年/イスラエル、フランス、ドイツ/97min 監督・脚本: エラン・リクリス 出演:ヒアム・アッバス、マクラム・J... [続きを読む]

受信: 2010年12月 3日 (金) 10時43分

» 【映画】シリアの花嫁 [【@らんだむレビューなう!】 Multi Culture Review Blog]
『シリアの花嫁』(2004年・監督:エラン・リクリス) 2004年モントリオール世界映画祭のグランプリ作品ということだが、これが存外面白かった。 製作がイスラエル・フランス・ドイツ [続きを読む]

受信: 2011年1月13日 (木) 22時20分

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