いとしい人
『恋愛小説家』でオスカー女優となったヘレン・ハントの監督デビュー作。と同時に主演・脚本と一人3役を務めた。ヘレン演じるエイプリルの子持ちの恋人役は『マンマ・ミーア!』での父親役が記憶に新しいコリン・ファースが演じています。相変わらずこの手の作品はミニシアターでしか公開していないため、今回も仕事帰りに恵比寿ガーデンシネマに寄り道してきました。(笑)
>>『いとしい人』公式サイト
心温まる、何だか懐かしい恋物語
監督、主演、脚本の一人三役を務めるということは相当に熱が入っている証拠。そう思ったら案の定、ヘレン・ハントはこの作品の企画を10年も温めていたというじゃないですか。『おくりびと』の本木雅弘さんもそうでしたが、作り手側のその作品にかける想いというのは、それが大きければ大きいほど観客に伝わるものですね。“ハートウォーミングなラブストーリー”のコピーどおり、じんわり心温まる良作でした。
しかし実は物語冒頭はそんな感じとは全く正反対に始まります。なんというか、とにかくエイプリルが“重い”女性なんですね、これが。彼女は自分が養子だったこともあり、何としても自分で子供を産み育てたいと願っているのですが、その思いが度を越していたため、結婚10ヶ月にして夫ベンに家を出て行かれてしまいます。
象徴的だったのが、彼女の帰宅を待って別れ話をしようとしていたベンの前に、エイプリルが何故かコートを脱がずに現れるシーン。ベンが再三「何故コートを脱がないんだ。」と尋ねた末にコートを脱ぐと何と下は下着!帰宅したらベンに愛してもらおうとしていたんでしょう。しーんとしてはユニークなのですが、事ほど左様に子供を欲しがる気持ちが強すぎるが故に、ベンにとって彼女はかなりの重荷になっていたであろうことは想像に難くありません。
さて、そんなエイプリルが徐々に変わっていくのは、実母を名乗るバーニスが彼女の前に現れてから。スティーブ・マックイーンがエイプリルの父親だと告白するバーニスはテレビタレント。彼女の存在があってこその本作だといって良いほど、彼女の登場以後、ストーリーはユーモアと暖かさに包まれて行きます。ベッド・ミドラーの演じるある種自己中心的なまでのポジティブシンキングと肝っ玉母さん風の笑顔は素晴らしく魅力的でした。
突然現れた実母の存在に混乱するエイプリルの前に現れたのがフランク。フランクは3ヶ月前離婚したばかりで似た境遇の2人は出会った瞬間恋に落ちます。ところが世の中上手くいきません。2人が始めて体を合わせた翌日、エイプリルはベンの子供を身篭っていることが判明します。これにはフランクもベンも双方複雑な想いでした。エイプリルの付き添いでベンとフランクの2人が病院を訪れるシーンは、3人の微妙な気持ちの距離感が良く現れていたシーンです。よりエイプリルに近い位置に立っているのがフランク、離れているのがベン…これは計算づくなんでしょうか?(笑)
エイプリルは念願の妊娠が叶った喜びも手伝って、ベンと寝てしまいます。それを知ったフランクは激怒して彼女の前から去ってしまうのでした。当然ですね。ところが!結局エイプリルは流産してしまいます。つまりこの結果彼女は、子供の父親という一点でのみ繋がっていたベンとは完全に関係が切れ、フランクは既に去っており、挙句子供も失うという、最悪の結果に陥ります。
さて、物語の結末はここには書きません。ただ言えるのは、今回の邦題『いとしい人』は短いですがとても良いタイトルだということ。エイプリルにとっての“いとしい人”はフランクでありバーニスであり、ベンでもありました。その意味でポスターに映っている人物は彼女にとって全て“いとしい人”なんですね。彼らとの関係がどうなったのかは観てのお楽しみということで…。
個人的オススメ度(恋していた自分が懐かしくなりました。)
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