子供の情景
監督はイランのモフセン・マフマルバフ監督の娘で弱冠19歳のハナ・マフマルバフ。アフガニスタンの幼い子供たちの視線を通して、彼らが生きる日常を描き出した問題作です。主演のバクタイを演じるのはぷくぷくのほっぺが可愛らしいニクバクト・ノルーズちゃん。ただ学校に行きたい・・・そんな少女の小さな願いは叶うのでしょうか。
>>『子供の情景』公式サイト
自由になりたかったら死ね!

今週から春休み・ゴールデンウィークに向けた話題作が多数公開されます。私もかなりの数の鑑賞を予定していますし、そのレビューも順次UPしようと思っていますが、その一番最初に私はこの作品を選びたいと思います。そもそもこの作品と出会ったのは『シリアの花嫁』を観に行った時の予告編が最初でした。短い予告編ながら、あまりのショックに胸が締め付けられたことを覚えています。その日以来、今日を心待ちにしていたと言う訳です。


上映開始から13秒間の黒味。演出上だということでしたが、それが明けるとバーミヤンの山肌に彫られた大仏の爆破映像というショッキングな映像から物語は始まります。そんな場所に住んでいる少女バクタイは、出かける母親に留守番と赤ん坊の妹の世話をするように言いつけらるのでした。世話といっても彼女もまだ6歳。哺乳瓶で粉ミルクを飲ませたり、一生懸命あやしたりする様子はおませなお姉さんそのもので、少女らしい可愛らしさに観ていて頬が緩みます。ところがせっかく寝かしつけた妹の眠りを妨げるのが、隣の家の少年アッバスの声でした。彼は大きな声を出して文字を読んでいます。最初は「妹が起きちゃうわ!」と文句を言いに行ったバクタイですが、聞いているうちに自分も学校に行って勉強したいと思うようになるのでした。ひとつことに気が向くと、それまでのことを忘れてしまう子供らしさをよく捉えたシーンです。


さて、ここからバクタイの小さな冒険物語が始まります。まずはアッバスに学校に行くにはノートが必要だと言われ、それを手に入れようと計画。しかしこれがもう実に健気なんです。我々にとってみればたかがノート1冊です。いやさすがにバーミヤンの人々にとっても我々ほどではないにせよそこまで大ゴトではないはず。ですが出かけたお母さんを見つけられなかったバクタイは卵を売って自力でお金を調達しようとします。トテトテと卵を持って歩くバクタイはとても愛らしく、それだけに健気で、私がそこにいたら即買ってあげるのになんて思わずにはいられません。ですが現実は厳しく、子供だから買ってくれるほど甘くはありませんでした。犬に吠えられておびえたり、卵を落として割ってしまったり、散々苦労した挙句にやっと手にした10ルピーを手にノートを買いに行きます。


嬉しそうにノートを手にするバクタイの笑顔には、学校への期待が溢れていました。ノートを持って学校向うバクタイが歩く様子は、日本人の子供が小学校にに向う様子と同じでほんとに微笑ましい。鉛筆は買えなかったからお母さんの口紅で代用です。なんと子供らしい発想でしょうか。しかし、アッバスと一緒にいった学校は男子校で、バクタイは追い出されてしまいます。仕方なく女子も通える学校に向う彼女を、戦争ごっこをしている男の子たちが取り囲み、ノートは取り上げられてしまうのでした。彼らは大切なノートを破り紙ヒコーキにして飛ばしてしまいます。青い空に飛び交う紙ヒコーキの白さが心に痛いシーンでした。そして目に涙を溜めながら「お願いだから学校に行かせて!」と哀願するバクタイの姿に思わず涙を誘われます。と同時に少年たちに対する怒りがふつふつと…。

しかし私は大切なことを忘れていました。つまりコレは「子供の情景」だということ。少年たちに悪気はないんですね。彼らは男の子らしく“戦争ごっこ”をしていただけなんです。木の枝を銃に見立てて、口で銃声を発している少年たち。つまり撃たれたら死ななきゃいけないんです“ごっこ”だから。女の子であるバクタイはそんなことには気付きませし、むしろ「戦争ごっこは嫌い!」と言い放ちます。そんなバクタイに言ったアッバスはこう言います。「バクタイ、自由になりたかったら死ぬんだ!」子供の“ごっこ”あそびでの話ですが、大人の世界にも通じてしまう恐ろしさを感じました…。
あくまで子供の視点から見た世界を描いている本作ですが、子供の純粋な視点だからこそ、そこに真実が鮮やかに描かれていると言えます。バクタイのような子供はきっと沢山いるんです。“戦争ごっこ”をし木の枝で人を撃っていた少年たちは、今のままなら大人になったらきっと本物の銃で人を撃つんです。ハナ監督は本作でだからどうして欲しいとは語っていません。ただ知って欲しいという気持ちはしっかりと伝わって来ました。いかに私たちの当たり前が当たり前ではないのか、理屈では解っていてもこうして映像で見せられると改めて痛感させられる一作でした。
個人的オススメ度4.0(是非観て欲しい・・・。)
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