四川のうた
『長江哀歌』のジャ・ジャンクー監督が震災前の四川省・成都にある「420工場」をテーマに、変わり行く中国、変わらない人民を描いたドキュメンタリーフィルム。完全ドキュメンタリーではなく、所々俳優を使ったノンフィクションも織り交ぜています。実は今から14年前、私は成都に行ったことがあります。作品を通して今の成都を見たいということもあり鑑賞です。
>>『四川のうた』公式サイト
変わるもの、変わらないもの
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14年前、私が成都を訪れた際には、大都市ではあったものの城壁が残る古式ゆかしい街並みといった雰囲気でした。映像を通じて観る成都の様変わりした様子に驚きを禁じえません。本作はドキュメンタリーフィルムですが、成都で2007年に閉鎖された軍需工場「420工場」の工場職員やその家族・関係者の証言を通じて綴る人間ドラマでもあります。


この「420工場」ですが50年に渡って操業し、働いていた職員は3万人、その家族を含めると10万人に及ぶ人々がこの地に住み着いていました。冒頭、いきなり50代前後と思われる男性の顔のアップが暫く続きます。何事かと思いますが、実際に工場で働いていた方でした。彼の証言から本作はゆっくりとスタートします。初めて工場に来た時のこと、その時ベテラン工員に教えられたことなどを、ゆっくりとかみ締めるように話してくれました。彼の言葉で印象に残っているのは、「今の若者は“惜しむ”ということを知らない。私はそれを先輩に教わった。」というもの。日本でも中国でも同じなんですね。


さて、実は鑑賞後に知ったのですが、本作は完全ドキュメンタリーではなく一部は俳優によるフィクションだそうです。観ている間は全く気付きませんでしたが。この後、そうした人も含めて多くの人が出てきては自分の半生を語ってくれます。俳優を除いてはいずれも「420工場」閉鎖で失業した人たちでした。ところが、正直に言うと作品公開のタイミングが悪すぎと感じました。100年に1度の不況と呼ばれる昨今、10万人の失業者と聞いてもそれほどとは思えないのです。日本も含め世界中で失業者が溢れている今、彼らの半生そのものはとても興味深かったのですが、失業したこと自体には特別な感慨は抱けませんでした。


宋衛東さんは社長室の副主任、彼の話は私のみならず恐らく鑑賞していた人たちにとって一番感慨深かったのではないかと思います。彼は16歳の時に付き合っていた彼女がいました。工場が斜陽となったことで、彼女の家族に交際を反対され別れることになります。その当時大ヒットしていたテレビ番組というのが山口百恵の「赤い疑惑」でした。分かれた彼女は当時、山口百恵演じる幸子がしていた髪型“幸子ヘア”だったそうです。ここで山口百恵の歌がBGMとして流れました。日本から遠く離れた成都、意外なところで日本との繋がりが感じられ、感慨に浸りながら次のエピソードに進むのでした。


最後に登場した蘇娜さんは26歳の女性。今回登場した中では一番若い関係者です。彼女は家にいるのが嫌で仕方なく男との同棲を繰り返していました。ある日役所に出す書類に戸籍が必要だったため帰宅するのですが、両親共に不在。彼女は工場に母親を探しにいったのだそうです。やっと見つけた時、母親は男か女かもわからない姿で一生懸命働いていました。そんな母親をみて彼女は涙がを流します。彼女は言います「初めて両親を想うことができ、このとき初めて私は大人になったと思った。」と。


工場は潰され、近代化したビルが立ち並び、彼らを取り巻く環境は大きく変わりました。それは14年前に実際に目にした私にもはっきりと分かります。しかし、そんななかでも彼らの人間としての自然な心、それは変わっていなかった。そう感じました。翻って日本はどうなんでしょうか。日本とて50年前から比べたら大きく変わりました。彼らと同じような気持ちを持ち続けているだろうか、自問自答しながら帰途につきました。
個人的オススメ度3.0
今日の一言:「長江哀歌」も観に行きたいです。
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