チェイサー／추격자

既にレオナルド・ディカプリオでのリメイクが決定しているというこの作品、監督・脚本はなんと本作がデビュー作のナ・ホンジン。主演の元刑事役・ジュンホにはキム・ユンソク、犯人役のヨンミンにはハ・ジョンウが出演しています。前評判もかなりの良いということもあり、劇場は満員でした。最近韓国映画を観る機会が多いですが、良い作品が多いです。本作はどうでしょうか…。
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密度の濃い人間力に圧倒される！

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観終わってから暫くの間、余りに圧倒されて声がでませんでした。何かを考えようとするのですが、頭が麻痺してしまったようで…。何と言ったら良いのか、この衝撃は『チェンジリング』を観た時に受けたものとは異なるものの、ある種の強烈なインパクトを私の心に残しました。“素晴らしい作品”、“傑作”、“名作”…どれも本作を言い表すのに適切とは言い難いです。そう、“凄い映画”でした。予告編を観る限り、元刑事が経営するデリヘルの女の子たちが次々失踪し、どうもある特定の客がそれに関わっている、故にタイトル『チェイサー』らしく犯人追走劇なのかと思いきや、そんな単純な作品ではありませんでした。

元刑事のジュンホは経営するデリヘルの女たちが次々と失踪することに頭を抱えていました。女の子の数が足りなくなった彼は、客の注文に答えるために、風邪で臥せっていたミジンまで無理やり呼び出します。彼女を送り出した直後、ジュンホは失踪した女たちが最後に会っていた客の電話番号が全部同じで、その番号がたった今送り出したミジンが向った客のものであることに気付きます。ここからジュンホの追跡が始まるのでした。
ところが！とある事故のおかげでジュンホは意外にもあっさりと犯人を捕まえてしまいます。犯人の名前はヨンミン。そしてヨンミンは警察でこれまた意外なほどあっさり自分が殺人を犯したこと、ただし最後の女、即ちミジンは生きているということを自白します。

韓国では逮捕状なしで逮捕した場合、１２時間しか拘束出来ないんですね。要はヨンミンはその１２時間以内に証拠が見つけられるはずが無いと、殺人の自白はするものの証拠のありかは吐かなかった訳です。警察はさっそく証拠捜しにとりかかりますが、ジュンホだけはミジンを捜し続けます。ところがどうもこの時点ではジュンホの捜索にそれほど熱を感じません。いや、もちろん激走して犯人を捕らえボコボコにしたりしてるんですが…。それは、彼が捜していたのが“稼ぎ手である女の子”＝“お金”であって、人間そのものではなかったせいでしょう。（ここからネタバレ含む）

実は観ている我々はその時点で彼女に降りかかった惨劇を目の当たりにしており、更に彼女がまだ本当に生きていることを知っているだけに、ジュンホとの間の妙な温度差が気になります。しかし彼はミジンの娘と出会う辺りから次第に様子が変わっていくのでした。娘を連れてミジンの行方を捜すジュンホ、彼の中でいつしか“稼ぎ手である女の子”捜しから“娘の母親”捜しへと変わっていきます。元刑事の手腕を生かして独自に捜査を進める彼ですが、それは即ち絶望的な事実の積み重ねでもありました。古巣の警察は役に立たないどころか、ヨンミンを拷問して供述を得たとして、彼を捕まえようとします。

しかしこれほどまでに先の見えない、そしてリアルな人間を感じた物語も久しぶりです。観ている私たちは、ミジンが無事に逃げられること、というより生き続けられることを心から期待し、必死に捜し回るも中々彼女を見つけられないジュンホに不安や苛立ちを覚え、そして冷酷無比、まさに虫を殺すかのように人間を殺すヨンミンに恐怖する。特にヨンミンの持つ心の闇の深さは今思い出しても恐ろしい程で、ハ・ジョンウはどうやってあんな人間を表現できたのか…。機会があるなら一度聞いて見たいです。

やっとの思いで脱出したミジンにホッと心緩むのも束の間、再び彼女の前に現れるヨンミン。絶望という言葉では表現しきれないぐらいの絶望感。心が締め付けられて言葉も無く呆然とスクリーンを注視するしかなかった無力感。実話がベースの物語の中で、ミジンが最期の瞬間に脳裏に思い浮かべた映像は当然フィクションですが、それ以外にはありえないことでした。そしてミジンが最期にジュンホの携帯に残したメッセージ、ジュンホにとっても私たちにとっても余りにも切なくて言葉になりません…。“凄い映画”です。

個人的オススメ度5.0
今日の一言：リメイクでコレを越えられるのか？

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