アライブ -生還者-
1972年に起こった飛行機事故を題材にしたドキュメンタリーフィルム。監督のゴンサロ・アリホンは個人的にこの事故の生還者との親交が深いそうです。当然の事ながらドキュメンタリーフィルムなので俳優は存在しません。この事故に関して私は当然リアルタイムで知る由もないのですが、歴史的事実としては知っていました。今回初めて映画という形で何をどう見せてくれるのでしょうか。
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その時頼れるもの…
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ただひたすら驚きを禁じえませんでした。よくここまでまとめあげたものです。一切の虚飾を省き、ただ証言による事実のみを私たちの目の前に差し出してくれた。そんな作品でした。そもそもこの手のドキュメンタリーフィルムに対して、面白いとかつまらないという判断は出来ません。ただ提示されたものを私たち個人個人がどう受け止めるのかだけの問題で、人に対して勧められはしないです。ということで今回は★による評価はしません。あくまでも私が受けた印象を書きたいと思います。ちなみに事故にまつわるほぼ全てがこの作品を観ることで解るように作られています。


作品の構成はいたって簡単。事故の生還者が当時の様子を事細かに語り、途中に弱冠の再現映像が挟まれる形で進行していきます。細かいと書きましたが、これがまた実に詳細なんです。飛行機に乗る前の段階から、その時の心情、背景、夫婦であればお互いの話した事など、聞いているだけでその時の情景が目に浮かんできます。ふと思い出したのは、沖縄の「ひめゆりの塔」でお話をされているご老人の話し方でした。時々感極まる方もいましたが、ただ静かに淡々と語る様子に却って現実の重み・生々しさを感じます。

この事故では10日で捜索が打ち切られてしまうのですが、やりきれないのはそれを彼ら自身はラジオで聞いて知っていたということ。そしてそこから本当の地獄が始まります。食料が無くなった彼らの取った方法は一つ、遺体を食べることでした。この件に関しては過去いくつも似た事例は世に紹介されています。何れも賛否両論ありますが、この事故に関してもそれは同じだったようです。しかし、彼らの詳細な証言を聞いた今私ができるのは、彼らの取った行動を尊重することだけです。


無事救出され記者会見の席上で彼らはこの件に関しての質問を受けます。その時の答えは、「主は自らの血と肉を与えた給うた、それと同じで自分たちにとっての聖体拝領だったのです。」でした。キリスト教てき倫理観の中で最大限の理論構築なのだとは思います。事実、会場は大きな拍手に包まれました。しかし、証言の中では弱冠ニュアンスの異なることを言っている方もいます。その方は、「あそこは自分たちの世界ではない。価値観の違う世界がそこにはあった。」と言っていました。私はこちらの方が正直な気持ちを語っているのではないかと感じます。


当時彼らが遺体を食べたという事実は、マスコミの手によって遺族に伝えられることとなりました。理解してもらえなくてもいい、出来れば自分の言葉で遺族に伝えたかったと語っていたのが印象的でした。本作で感動したのは、その遺族と彼ら生還者が共に遭難現場のアンデスを訪れたシーン。遺族の方は「父はあなた方の中で生きている。」と涙ながらに言います。そう「歴史に変わるには30年が必要だった。」と。当時19歳だった生還者たちは、今19歳を迎えるそれぞれの家族を連れて現場を訪れていました。一体個々で何があったのかを、自分たちがどうやって生き抜いたのかを、正確に伝えるために。
今日の一言:欧米の報道資料の多さに脱帽
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