USB
監督は『カインの末裔』、『ドモ又の死』の奥秀太郎。主演は俳優・監督・脚本家の3足の草鞋を履く渡辺一志。共演に桃井かおりや『ハゲタカ』がヒット中のい大森南朋、大杉漣、野田秀樹ら実力派が勢揃いです。原発の臨界事故で汚染地域が存在するという、どこかで聞いたような設定ながらも、予告編で感じた微妙な雰囲気がどうしても気になり観てきました。
>>公式サイト
子供から大人への退化?
あらすじへ
←クリックお願いします

全編に漂うこの重苦しい閉塞感、その源は行き場のない想いを内包しながら毎日を過ごす主人公・祐一郎にだけ求めるわけにはいかないでしょう。原発の臨界事故で汚染地域が徐々に拡大していくという、現代と近未来に境目のような舞台は茨城県筑波という設定。この町の名士で医者だった父親が亡くなり、いよいよ本気でその跡を継ぐために浪人中の祐一郎は、ヤクザに800万もの借金を抱え、半ばレイプ同然に関係をもった(と思われる)彼女は妊娠し、もはや個人ではどうにもならない状態に追い込まれています。


こうやって文字で書くと祐一郎が最低の人間に聞こえますが、何故か祐一郎がそこまで悪人には見えません。母親に対する言葉使いは丁寧で家を出るときには「いってきます。」の挨拶をし、持たされた弁当を残したのがばれない様に捨てる。腐れ縁の友達に呼び出しにも文句を言いながらも応じて、挙句に紹介されるままに被爆の治験とは知らずに応募する。実はお人よしにも程があるって性格だったりします。即ち祐一郎はヒゲ面老け顔の外見とは裏腹に、中身は子供なのでした。そう考えると祐一郎の行動が理解出来ます。


祐一郎の恋人・恵子はどれだけ無視されても授業をビデオに撮り続け、しかも彼の子供を宿している…。こんな駄目な男のためになんでそこまで?単純に彼の子を妊娠してしまったから?いや、彼女は彼のことを愛していたから、というより彼女にとって祐一郎は放っておけない子供だったからではないのか…そう感じました。しかしそんな祐一郎の内面が変わり始めるのは、唯一心から慕っていた映画監督の藤森(野田秀樹)が死んでから。


正常な花にわざと放射線を当てて退化させることで、次世代に新たな花の品種を作り出す、そんな映像を観た祐一郎は思います。自分も被爆治験で大量の放射線を浴びている…。大橋に甲斐から連絡があったら知らせろと言われても、友達を売らなかった祐一郎。その祐一郎が大橋の部下に命令されるがままに友達を撃ち殺す。そこには相手がヤクザであっても嫌な事は嫌だと臆面も無く言っていた時の彼の姿は無く、現実を見る大人の彼がいました。


さて、いずれにしても非常に哲学的な作品故に、捕らえようがなく、いわゆる“感じる”作品ともまた違う印象を受けました。それでも、最近良い人役が多い大杉漣のヤクザの親分役は凄みを感じさせ、桃井かおりの母親役はそのおせっかいさが本当に煩わしく感じ、野田秀樹の監督姿はさすがにハマっています。ベテランの堅実な演技に身を委ねる方が楽に鑑賞できるような気がしました。
個人的オススメ度3.0
今日の一言:大人になるって退化することなのかもしれない…。
| 固定リンク
最近のコメント