ポー川のひかり
カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた『木靴の樹』の監督、エルマンノ・オルミの最後の長編作品。別に監督が亡くなったわけではなく、自身が最後だとおっしゃっているそうです。主演は『アレキサンダー』でダリウス王を演じたラズ・デガン。イタリア映画なんですが、もしかしたら初めてかもしれません。知人からの紹介でマスコミ試写会に参加させてもらっての鑑賞です。
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個人的オススメ度
3.5
静かで穏やか。だから余計耳を傾ける。
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何とも穏やかで温かい気持ちにさせてくれる作品でした。物語に含まれる聖書からの引用も、特にキリスト教徒ではない私の頭に無理なく浸透してきます。聖書からの引用などと書くと小難しい印象を受けるかもしれませんが、物語はとても短くシンプルであっという間に終わってしまったという感じ。しかし短い中にもしっかりと私たちの心に訴えかけるメッセージ性があります。
舞台となっているのはイタリア。ある日大学の図書館で大量の釘で打ちぬかれた本が発見されます。釘と言っても普通の釘ではありません。キリストを磔にするときに使ったのではないかと思われる太い釘です。これらの本をこよなく愛していた司教は「本の大虐殺だ!」などと嘆きますが、図書館の床や柱、机の上に所狭しと並べられた本に釘が刺さっている様は、ある種の様式美すら感じさせるものでした。
件の司教は「これらの書物は私の親友だ。」と言って憚らない人物で、毎日図書館に通っては日がな一日読みふけっています。確かに本は英知の結晶ではありますが、人間を見ないで本だけを見る宗教家というのもいかがなものなのか?と思わずにはいられなかったり。ちなみに、この事件の容疑者…というより犯人は哲学科の教授でした。彼が忽然と姿を消し、ポー川のほとりの廃屋に住み着くあたりからが物語りのメインストーリーです。
ポー川の辺には既に老人たちが住み着いており、彼らから教授は“キリストさん”と呼ばれます。確かに見た目はキリストそっくり。この老人たちと老人たちのもとにパンを配達するパン屋の娘ゼリンダ、そして郵便配達の青年ダヴィデ、彼らと教授のほのぼのとした交流が描かれているのですが、そこに流れるテーマは「人間と自然の共生」でした。「科学と自然の共生」と言っても良いかもしれません。自然の中で人生を謳歌する老人たちと付き合ううちに、教授の顔が朗らかになっていく様子が印象的でした。
思えば冒頭の事件も「科学と自然」を象徴しているものでした。“書物に収められた英知”と“人間性の象徴である宗教”とのいびつな関係が表現されています。このテーマの対比表現は、物語中で度々登場します。アコーディオンで奏でる曲にのせてダンス楽しんでいた時、全く同じ曲を流しながら川を行く豪華客船をだまって見送る村人たち。川辺の砂浜で日光浴を楽しむ人々のそばを砂煙を上げて走り去るモトクロス。村人たちの請願書を書くために教授がとりだしたノートパソコン。艶かしくエロティックな太ももで原付バイクに跨るゼリンダですらその対比のひとつかもしれません。
老人たちと教授の住む川辺に港を作るために立ち退きを要求されたことがきっかけで、教授は警察に捕まります。そして何故自分の全てを捨て去るような行為をしたのかを話し始めるのでした。釈放された教授、いやキリストさんを村人たちは待ちますが、彼は二度と現れません。物語はそれで終わりです。特に壮大でもなく淡々と過ぎ去る時間のなかで、強烈ではないけれど何か気にかかる…、静かな訴えが心に残りました
個人的オススメ度
3.5
今日の一言:ポー川に反射する太陽の煌きが美しいです。
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