EL CANTANTE/エル・カンタンテ
プエルトリコ人のサルサ歌手、エクトル・ラボーの半生を描いた伝記映画。出演はラボーと同じくプエルトリコの血を引くジェニファーロペスとその夫で14週連続ビルボード誌のラテンチャート1位を記録したこともある現役サルサ歌手のマーク・アンソニー。監督はキューバ出身のレオン・イチャソ。エクトルは知らなくてもその歌は聴いたことがあるはずです。
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←おかげさまで好位置キープです

実は殆ど期待しないで観た作品でした。元々日比谷のシャンテ・シネに『セントアンナの奇跡』を観に行くついでに、近場の銀座で観てこようというぐらいだったんです。これがかなり良かった!伝説のサルサ歌手エクトル・ラボーについて、彼がプエルトリコからアメリカに出てきて成功し、若くして無くなるまでの半生を描いた作品です。何気に伝説とはいってもそんな大昔の話ではなく無くなったのも1993年とほんの16年程前なんですね。作品のタイトルでもある『エル・カンタンテ』はスペインゴで“歌手”という意味ですが、恐らく聞けば殆どの方が知っている曲だと思います。


話の展開はジェニファー・ロペス扮するエクトルの妻・プチにエクトルの死後、彼のことをインタビューするという形式。つまりエクトルの登場するシーンは原則として回想ということになりますが、話しているプチの映像の方がモノクロで表現されるという、一般的イメージとは逆の表現が面白かったりします。ちなみに夫であるエクトル・ラボーを演じるのは、現実にジェニファーの夫であるマーク・アンソニー。しかも本物のトップサルサ歌手ですから当然ながら歌うシーンは完璧です。


プエルトリコからアメリカに渡り瞬く間に成功を収めるエクトルは当にアメリカンドリームの体現者。華やかなスポットライトに照らされて歌う姿、流れてくるサルサのリズムに見ている私たちの心も浮き立ってきます。英語の歌詞字幕まで付いているところを観ると、まるでエクトルのPVのようにも見えますが、歌っているのが本物の現在ナンバー1サルサ歌手なんですから、そりゃその美声に聴き入ってしまうのも無理ありません。ある意味あれは演技じゃないですし。(笑)


しかし同時に華やかな姿の裏ではドラッグに溺れ、心の病を患い、それから逃げるためによりドラッグに溺れるという典型的な破滅型人間としてのエクトルが描かれます。元々ラテン系の彼らは享楽的に今を生きるのが好きな人々ですが、エクトルがドラッグを覚えたのもバンドのメンバーからでした。ドラッグと酒に溺れ、怠惰な生活を送る彼はコンサートに遅刻することも1度や2度ではありません。それが原因でデビュー当初から共に組んできたウィリー・コローン(ジョン・オルティス)とも袂を別つことになります。


ここから先は坂道を転げ落ちるように転落人生。一体何処で何を間違えてしまったのか…。もちろんトップスターが抱える重圧はあると思うのですが、私には原因の一つにプチの存在があるように感じました。気が強く、万事に仕切りたがり屋のプチは家庭でも言います。「私を見て。ティト(息子)と私を愛して。」と。ヤクの売人が父親でプエルトリコ人というマイノリティ層出身のプチにしてみれば、やっと手に入れた裕福な生活と幸せな家庭だったのでしょう。


次第に精神を病んでいくエクトルを観ていると、プチとの出会いのシーンで、彼女の兄が「生半可な気持ちで妹に手を出すのは止めておけ。」と言っていた事が思い出されました。自殺未遂、実の父親との絶縁、息子の事故死、そして自身のHIV感染と晩年のエクトルに降りかかる不幸はアメリカンドリームの代償かのようです。全てを失ったエクトルが、生まれ故郷のプエルトリコで開催したコンサートもあまりの客の不入りで中止に。しかし主催者の制止を振り切ってエクトルは歌い始めます。皮肉にもその歌声は相変わらず素晴らしいものでした…。
ジェニファー・ロペスが自身でプロデュースした本作。自身のルーツに連なる音楽に対する熱い情熱が込められた作品だったと思います。
個人的オススメ度4.0
今日の一言:サントラを買ってじっくり聞いてみよう…
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