美代子阿佐ヶ谷気分
伝説とも言える漫画雑誌「ガロ」に掲載されていた同名の作品を映画化。作品自体が私小説なので登場するのは作者の安部愼一や美代子本人。主演は水橋研二、共演に劇団“毛皮族”の町田マリー。監督は坪田義史。正直言って監督も俳優もまったく聞いたことがない方々。それだけに新鮮な気持ちと先入観ナシで鑑賞してきました。
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凡人には解らない焦燥感
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実にシュールな作品。雑誌「ガロ」は定期的に読んではおらず、たまにパラパラめくる程度、安部愼一の作品も数回読んだことがあるという程度。そもそも「ガロ」に掲載される漫画はおおよそ一般向けではなく、かなり風変わりな作品が多かったと記憶しています。私が“シュール”という言葉を始めて知ったきっかけとなった“つげ義春”もこの雑誌に掲載していた漫画家の1人でした。余談ですがに竹中直人主演の『無能の人』を覚えている方は多いのではないでしょうか。


さて本作の特徴は何と言っても過剰なまでに原作漫画をトレースしている点。構成、カット割り、画の構図、セリフとほとんど寸分たがわぬように撮影された本作はまさに動く漫画といっても良いぐらい。そしてそれは当然のことながらリアルな性描写にも当てはまります。…とまあ、いきなりそういうところに目が行くと、真の安部愼一ファンには怒られるのかもしれませんが、実際印象深かったのだから仕方がない訳で。


町田マリーの文字通り体当たりの演技は素晴らしいというよりも、その内包する静かな狂気が恐ろしく感じました。エロティックという言葉はその描写には似合わない表現で、むしろ昔の日活ロマンポルノを思わせるかの如く、とても肉感的で生々しい。これでR15指定で良いのかはと思ってしまった位。見えている見えていないではなくて、映像のもつ訴求力の問題として。安部愼一はその作品に必ず美代子を登場させていました。というより、彼女との毎日をそのまま漫画にしていたのでした。故に当然、美代子とのSEXすらも彼にとっては漫画のネタです。


ただこれは見方によっては漫画とは言えないのかもしれません。少なくともこれを創造的な行為と呼んでよいのかといえば私は疑問を感じます。私小説的と言えば聞こえが良いですが、事実この後、彼は行き詰まります。その行き詰まりを打開するためなのか、安部は美代子の友達・真知子と浮気をしてしまうのでした。興味深いのは彼の気持ちの中では美代子に対する愛情は少しも変わっていないこと。あくまで創作のため。故に浮気ではない、しかし美代子にしてみたら浮気ではなくても立派な裏切り行為ではあります。


この創作と美也子への愛情の狭間で板挟みになった安部の精神は次第に崩壊していくのでした。終いには自分の浮気を正当化するために、友人の川本に美代子を抱かせます。そしてそれすらも漫画のネタに…。結局精神を病んだ安部は故郷に戻りるのでした。…彼の想いを正確に理解できるとは思わないですし、そのつもりもありません。しかし少なくとも感じられたのは、美代子への深い愛情と、それに負けないぐらい深い漫画・創作活動への愛情でした。その両者のギリギリのせめぎ合いのバランスの中で奇跡的に生み出されていたのが彼の作品なのではないでしょうか。
個人的オススメ度3.0
今日の一言:蛭子さんもガロに描いていたとは…
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