Sweet Rain 死神の精度
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完成度の高い一つのドラマに- |
あらすじへ
←おかげさまで好位置キープです

今まで観ていなかったのを後悔するぐらい良かった作品でした。伊坂幸太郎の同名の原作をベースにしてはいますが、実は物語の主人公たる死神・千葉(金城武)を巡る6つの短編集から3本を抜き出して映画化したものです。原作は未読ですが是非読んでみたいですね。伊坂作品といえば監督は『アヒルと鴨のコインロッカー』や『フィッシュストーリー』の中村義洋か『重力ピエロ』の森淳一が合っていると思っていましたが、本作の筧昌也もこの輪の中に加えるべきでしょう。


物語は、不慮の死が予定されている人間と、その死の最終的な決定権を持つ死神・千葉との交流を描いています。まず面白いのが千葉のキャラクター設定。人間ではないけれども、いわゆる一般的に抱かれている死神のイメージとはあまりにずれたそのキャラクターでした。この物語はある時点まではコメディかと思うほど笑いのポイントが多かったりしますが、その原因は言葉を“文字通り”に受けとる死神・千葉にあります。


登場人物・藤木一恵(小西真奈美)の「私醜いですから。」というセリフに「見にくくなんかないよ。」と返し、ヤクザの藤田が「あんたが鼻(水)垂らしてたころだ。」というセリフに「鼻って垂れるのか?」と返す。このなんともとぼけた会話に思わず笑ってしまったら、もうあなたはこの物語に引き込まれているでしょう。それは会話そのものと言うより、金城武の演じている死神・千葉の魅力に惹き込まれているから。


そして千葉は何故だか音楽好き。「俺はミュージックが好きなんだ。」と音楽ではなく敢えてミュージックという言い方をするところが如何にも伊坂幸太郎っぽくていいです。実はこれも物語の重要な伏線の一つだったりするのですが…。そもそも私は金城武の日本語での演技をはっきり下手糞だと思っているのですが、本作に関してはその朴訥なしゃべり方や、どうも日本語慣れしていない感じが、人ならぬ存在とマッチしていたように思います。


さて、本作は3部構成で、それぞれに千葉と交流する主人公がいます。藤木一恵と阿久津伸二そして老齢の美容師の3人なのですが、この3人は一見無関係ながら実は繋がっているのでした。3本の短編小説を映画化するにあたって、単なる3本のオムニバスにしてしまっては、何のための伊坂原作かわかりません。伊坂作品の特徴の一つは多彩な登場人物の意外な繋がりと結末に向けてそれが収束していくところにありますから、その意味で、実に上手い繋がりの描き方をしていました。


物語は全体の3分の1程度進んだあたりで、観ている側に主人公が繋がっていることを解らせるような構成になっており、そこからはコメディタッチがハートフルタッチにフェードしていきます。先に書いたある時点とはこのタイミングのことなんですね。いずれにしても時系列な部分を含めた実に巧みな繋がりの描き出し方ですが、これ以上書くと作品のキモの部分をばらしてしまうので止めておきます。他にも死神仲間の登場の仕方に唸らされたり、千葉の相方とも言える犬との会話が面白かったり、と見どころは色々。
原作に近い良さは『アヒルと鴨のコインロッカー』や『重力ピエロ』に一歩譲りますが、映画としての完成度では決して引けはとっておらず、個人的には一番好きな作品かもしれません。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:いいセリフが多い作品でした。
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