花と兵隊
終戦記念日に是非紹介したい本作。第二次世界大戦で現地に残った未帰還兵を追ったドキュメンタリー。彼らは何故日本に帰らず現地に残る道を選んだのか。松林要樹監督は2005年から3年間に渡って取材し、未帰還兵から真実の言葉を引き出します。終戦から64年を経た今明らかになる真実とは…。
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異国の地で語られる戦争の真実
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本日は64回目の終戦記念日。本作はそれに相応しい作品と言えるでしょう。太平洋戦争中にビルマで戦い、戦後日本に帰還しなかった水島上等兵を描いた名匠・市川崑監督の『ビルマの竪琴』は余りに有名ですが、本作には6人の水島上等兵が登場します。即ちビルマ・タイ国境付近で敗戦を迎え、日本に帰らなかった未帰還兵6人が本作の主人公となります。劇中では6人の未帰還兵の方々が戦争中のこと、戦後日本に帰らず現地でどのように生き抜いてきて今があるのかということなどを語ってくれます。


戦後64年、人々の記憶も薄れ、戦争経験者も次々とお亡くなりになっている現在、彼らの話を記録することはそれそのものが今の我々にとって必要なことでしょう。実際に2005年から3年間に渡って松林監督が取材をした中で、2人の方がお亡くなりになっています。そのうちの1人、坂井勇(享年90歳)さんのお葬式から映像は始まります。坂井さんは日系ブラジル2世。つまりブラジルで産まれ日本に育ちタイに暮らした人生でした。坂井さんのお話で印象的だったのが、お墓の準備をしに行った時のこと。


こじんまりとした墓よりも高台にある集合墓地を好んだ坂井さんは、「これなら死んでからも家族皆で話が出来るじゃないか。」と言います。そしてブラジルの方向を、日本の方向を指し示し両手を合わせていました。彼は結局日本には帰りませんでしたが曾孫までいるほどの大家族。映像からは多くの子や孫に囲まれて楽しそうな坂井さんが見て取れます。その幸せそうな姿からは、今の日本では少なくなった家族の絆がが強く感じられました。きっと家族の方が亡くなるたびに高台の墓地に眠り、あの世でまた楽しくおしゃべりするのでしょう…。


中野弥一郎さんは終戦後、日本軍から逃げるように離隊します。どうして軍から逃げる道を選んだのか、その理由については松林監督がどんなに水を向けても最後まで「言えない。絶対に言えないこともある。」と口を噤むのでした。しかし、その時の状況を思い出している表情がつらそうです。戦後、カレン族の奥さんを迎えますが、この奥さんは坂井さんの奥さんと実の姉妹。中野さんは坂井さんの家の近くに住み、よく遊びに行くのですが、そんな時2人はビルマ語で話をします。2人だけにしかわからない想いがそこには感じられました。


6人の未帰還兵の中で坂井さんともう1人にお亡くなりになられたのが藤田松吉さん。彼の口から戦争中に中国人の子供を殺したという話を聞いたときにはドキっとしました。しかし彼は可哀想だとかそういうことは考えなかった、上官の命令は天皇の命令であり逆らえば自分が殺されたのだと語ります。藤田さんの心にも戦争の傷跡は深く残っており、今でも「自分の心が苦しい。」と訴えます。64年の歳月を持ってしても心の傷は癒えてはいませんでした。


彼らの口から語られる言葉は全て本物、良いことも悪いことも、嬉しいことも悲しいことも、楽しいことも怒ったことも、全て本物です。そして彼らは日本にはいません。今この作品で彼らの話を聞かなかったら、私たちはほぼ永遠にいくつかの戦争の真実を聞く機会を失います。貴重なドキュメンタリーです。是非観て欲しい。
個人的オススメ度4.0
今日の一言:この企画を採用しないテレビの未来は暗い。
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