マーターズ/MARTYRS
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| 最後の最後で原点回帰? |
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以前から何度も書いている通りホラーは大の苦手です。とはいえフライヤーの金属製の貞操帯やら目隠しをした女性に何やら良からぬ興味を誘われたのは事実。更に、お世話になっているブロガーmigさん(『我想一個人映画美的女人blog』)のおススメもあり、文字通り怖いもの見たさでのこのこと鑑賞に出かけたのでした。そしたらまあ、満席ですよ。全く人の好みは多種多様ですね…。

で、まあ結果から言いますと、もう一回観るかと聞かれたら「もう二度と観たくない。」って答えるでしょう。とにかく鑑賞後にずっと後を引くこのえもいわれぬ不快感、これは怖いとか気持ち悪いという表層的な感情の類ではなく、人間の本能的な深層部分に浸透してくるものでした。ひょっとしたら一生忘れない作品となるやもしれません。最も気分爽快なホラーなどあるわけもないですから、これはこれで作品にとっては褒め言葉なんでしょうが。ただ、相当な問題作だと事前に聞いていたせいもあり、心のATフィールド全開で観たせいか、“恐い”と言う意味ではそれほど感じませんでした。実はこの作品、言ってみれば“表”と“裏”の二部構成に分けられます。

“表”パートの主人公はリュシー(ミレーヌ・ジャンパノイ)。物語は、幼い頃に監禁・虐待を受けていた彼女が奇跡的に脱出し保護され、15年後に彼女が虐待をしていた犯人を見つけて復讐するストーリー。妙にお手本的に幸せな犯人家族の家庭に突如現れたリュシーは問答無用に全員を射殺します。彼女を復讐に駆り立てたのは、もちろん自分自身のためもあるけれど、逃げるときに置き去りにしてきてしまった同じ被害者の女性の為でもありました。“表”と書いたのは、この復讐劇は表現こそ控えめであるものの、これまでも良く観てきたいわゆるホラー作品と言えるものだから。時折リュシーの前に登場する不気味な全裸の女性は、得体の知れないものとしての怖さを持つものの、置き去りにしてしまった罪の意識から生まれる彼女の幻覚だと解った段階で「幽霊の正体見たり枯れ尾花」といった具合です。
本作が問題作たる所以はこの後、子供の頃からリュシーの面倒を見てきたアンナ(モルジャーナ・アラウィ)に主人公が移った“裏”パートに入ってから。アンナはリュシーを監禁・虐待していたカルト組織に囚われの身となります。そしてその後延々とスクリーンに繰り広げられるのはアンナに対する拷問の様子。この組織は若い女性に極限の苦痛を与え、死の淵に立ちマーターズ=殉教者となった者を崇拝する集団だったのです。拷問シーンとはいいつつも、実はひたすら拳で殴っているだけで、例えば『24』のジャック・バウアーが受けているほうが余程派手で痛そうではあります。
しかし本作から伝わってくるのはそんな表面的な痛みではなく、まさしく人間が壊れていく心の痛みでした。捕まった当初は脱出を試み、それが出来ないとなると部屋の住みで怯え、しかし毎日毎日鎖に繋がれひたすら殴られ続けるうちにやがてアンナの心は折れてゆきます。誰でも経験があると思うのですが、人間は未来に楽しい事柄が待っていると、それが起こるまでの時間も楽しいもの。逆に未来に恐怖が待っていれば、同じようにそれが起こるまでの時間も恐怖に感じるようになるのです。そして恐怖を感じなくなった段階で体は生きていても人間は死にます。はっきり言って殺されるほうがましですね…。

本作を観るとき、「得体の知れない悪魔や霊の類よりも人間の方がよほど怖い」そういう捕らえ方もあるでしょう、私も最初はおう思いました。例えば『チェイサー』のラストで感じたのは人間の持つ底知れない闇の部分に対する恐怖心でした。しかしこの作品は、そういう恐怖は感じません。そこにあるのは狂信的な何か。正直言うと、監督がどんな想いを表現したかったのだとしても、その手法としてこの映像を撮ったのは理解に苦しみます。しかしながら中世ヨーロッパ美術にはローマ帝国時代に代表されるキリスト教徒に対する拷問を描いた作品が数多く残っており、また殉教者を聖なる存在としてあがめるキリスト教圏にあっては、この手の作品を芸術だと胸を張って言える文化的素地があるのかもしれません。

既存のホラー映画のあり方とは異なる問題作という意味では、評価できる作品だとは思いました、ラストの衝撃的なシーンさえなければ。ラストは個人的には悪趣味だと思っていますし、あの映像でよくあるグロ系作品に戻ってしまったように感じます。ところで、何故か本作は年齢制限がないようですが、人によってはPTSDにすらなりかねない作品ですから、鑑賞される方は注意が必要でしょう。
個人的おススメ度
2.5
今日の一言:さすがにちょっとおススメはし難い。
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