私の中のあなた

ジョディ・コピーのベストセラー小説「わたしのなかのあなた」の映画化作品。主演は『ベガスの恋に勝ルール』のキャメロン・ディアス。共演に『幸せの１ページ』のアビゲイル・ブレスリン、アレック・ボールドウィン、ジェイソン・パトリック、ソフィア・ヴァジリーヴァらが出演。監督は『フェイス／オフ』に出演していたニック・カサヴェテス。プロデュースサーは「ナルニア国物語」のマーク・ジョンソン。この秋一番の感動物語です。
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交錯する親子の気持ちが切ない

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ひたすら泣けました。あまりに切なく悲しくて。普通、死を前提とした作品は、観る前から既に泣いてしまうのが解っています。しかしこの作品の場合は、予告編から受ける印象が少し変わっていました。どうも白血病に冒された少女がいて、その子を取り巻く家族の物語らしい…。しかし一方では、あの可愛らしいアビゲイル・ブレスリンが何故か両親を訴えるという、なにやらちょっとコミカルなイメージすら感じられます。しかし鑑賞後に改めて予告編を観ると「私の身体は姉さんの物じゃない。」「私の病気のせいで家族が壊れる。」「誰にでも死は訪れる」といった、作品のキーワードが多々含まれているのが解りました。物語は、“身体の提供を拒否するアナとそれを説得しようとするサラ”を軸に家族の様子が描いた現在進行形のシーンと過去の家族の様子を描いた回想シーンを交互に観せてくれます。

フィッツジェラルド一家の長女・ケイト（ソフィア・ヴァジリーヴァ）は２歳で白血病を患い、彼女の命を救うためサラ（キャメロン・ディアス）とブライアン（ジェイソン・パトリック）は遺伝子操作で子供をもうけます。それがアナ（アビゲイル・ブレスリン）でした。つまり悪く言えば、アナはケイトのパーツ取りのためにこの世に生を受けたのです。実際にこんなことが行われているとは思いませんが、両親に特に母親のサラにしてみたら悪魔に魂を売り渡してでもケイトを助けたかったのでしょう。アナが１１歳の時ケイトの病状は更に悪化し、腎臓移植が必要なほどになりますが、そこでキーワードの１つ「私の身体は姉さんの物じゃない。」というセリフが出てきます。

ところで私は小生意気な子供が大嫌いで、グダグダ理屈をこねる子供が映画に登場すると堪らなくイライラします。正直言って最初にアナのこの行為を観たときはイラッとしましたし、そういう話なの？とちょっと暗澹たる気持ちになったのでした。言っていることは正しくても、感情を無視した正論は腹立たしいものです。が、結果的にそれは大間違いだったことが後々判明するのですけれど。いずれにしろ、元々弁護士のサラは法廷闘争の道を選択します。１１歳の娘と母親が娘の身体の利用の是非を問うて法廷で争うとはあまりにもやるせない事態…。何故こんなことになってしまったのか…。それは即ち「誰にでも死は訪れる」というもう１つのキーワードが意味するところにありました。

つまり本作はケイトの死を家族が受け入れられるのかという究極の、そして私たちの誰しもにいつかは必ず降りかかってくるであろう命題を突き付けているのです。本線の合間に入ってくる回想シーン、それは家族それぞれがケイトに対する想いを少しづつ固めていく、言い換えれば否応なしに迫ってくる“その時”に対する覚悟を固めていく様子を描き出したものであったように思います。そしてそれにはもちろんケイト本人も含まれていました。病院で知り合った、同じ白血病患者のテイラー（トーマス・デッカー）との最初で最後の恋は、お互いに未来に希望が持てない中での悲しい恋。本当の意味での刹那的な恋ゆえにこの２人の姿はとても美しかったのが印象的です。

テイラーと病院のダンスパーティーに出かけるエピソード。素敵なドレスとウィッグで変身したケイトを見るブライアンの目は、美しい娘の成長を喜びながらも哀しい想いを称えています。決して大げさではなく、父ゆえに内に秘めた哀しさが、それでも漏れてきてしまうその表情に胸が締め付けられて堪りません。パーティーの夜、ケイトはテイラーと結ばれるもそれが最期になるとは、あまりにも無慈悲。この時ケイトは心を固めたのではないでしょうか。日一日と悪化していくケイト病状、そして劇中では家族がそれぞれ自分なりに覚悟を決めていく中、しかし運命に逆らい続けるサラのせいで家族の中に軋轢が生まれます。これが最後のキーワード「私の病気のせいで家族が壊れる」の意味するところ。

もちろん、誰がそれを責められるでしょうか。そもそもアナを“創った”時から、彼女の心は「どんな手を使ってもケイトを助ける」と決まっていたのですから。しかし事ここに到って彼女の想いが空回りになってしまっていることが浮き彫りになってきます。ケイトをビーチに連れて行くエピソードではそれが如実に現れていました。死んでしまう！と大反対するサラに「邪魔するなら離婚する。」とまで言い切って連れて行くブライアン。そう、サラ以外の家族はアナやジェシーたちも含めて全員がもうケイトの死を受け入れる覚悟が出来ていたのです。ビーチで遊ぶアナとジェシーを見るケイトとブライアンの脳裏には何が浮かんでいたのか…。私は特に父親ブライアンの気持ちを想うと涙が止まりませんでした。

（ここからネタバレ含む。）
裁判の席上、サラはアナに「あなたはこんなことを言い出す子じゃない。何を隠しているの？」と問います。実は彼女に身体を提供したくないと言わせていたのはケイト本人でした。自分の死を受け入れた彼女は、もう自分のために誰かを犠牲にしたくなかったのです。サラだけがその彼女の想いに気付いていなかった…。いや気付きたくなかった…。最期の夜、サラと２人きりになったケイトの表情はようやく肩の荷が下りたような安堵感に溢れていました。静かな病室の中で進むサラとケイトの大切な大切な最期の時間。どうしようもなく哀しく切ないです…しかし私たちも静かに見守ってあげたいと思える優しいシーンでもありました。

原題「MY SISTER'S KEEPER」は直訳すると私の姉の保護者、つまりサラのことを指していると思われますが、「私の中のあなた」という邦題では“私”は家族の誰でも、もっと言えばケイト本人とも受け取れます。ラストシーン、家族みんなの中に確かにケイトはいました。深みのあるとても良いタイトルで、私はこの邦題の方が好きです。

個人的おススメ度4.5
今日の一言：地味だけどジェイソン・パトリックが本当にいい。

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