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2009年11月 5日 (木)

わたし出すわ

Photo 織田裕二版『椿三十郎』の森田芳光監督が1996年公開の『(ハル)』以来13年ぶりのオリジナル脚本で送るヒューマンドラマ。登場人物のお金に対する価値観や使い方を通して人間の生き方を問いかける問題作だ。主演は『ラスト・ブラッド』『カムイ外伝』の小雪。共演に『砂時計』の井坂俊哉、『まぼろしの邪馬台国 』の黒谷友香、『僕の初恋をキミに捧ぐ』の仲村トオルといった多彩な面々が顔を揃えている。
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情けは人のためならず?

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ドキュメンタリーフィルムを除く映画は全てフィクションであり、それはつまり“if”を意味します。本作は誰しも一度は考えたことがある“if”を映像化し客観視した作品と言えるでしょう。即ち、「もしいきなり大金を手にすることが出来たら人はどうするのか?」という大テーマに基づいて、登場人物のお金に対する価値観であるとか、その使い方を、さらにはそれらがもたらす結果について淡々と描いています。当然その中には上手く行く人もあれば悲惨な末路を遂げる人もあり、この作品自体がそのまま現代社会の縮図のようでとても興味深い作品に仕上がっています。そんな悲喜こもごもを見せてくれる登場人物というのが、主人公・山吹摩耶(小雪)の高校時代の同級生とその家族。

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東京にいたはずの摩耶があるひ突然田舎に舞い戻ってきたところから物語は始まります。まずは引越し業者にチップを10万円。四の五の言わずにタイトルずばりに「わたし出すわ」を見せてくれるところが潔いです。ただ引越しのチップと言う一応の理由付けあるならばともかく、いきなり旧友の女性と話をしていて、大金をあげると言われた時の気持ちってどんななんでしょうか。もちろん嬉しいには違いないのでしょうけど、全員が全員素直に受け取ってしまうことに若干の違和感をおぼえたのも事実。まあ“if”モノにそんな突っ込みは無粋なのでしょうけど。

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友人たちのとその家族は貰ったお金を様々なことに使おうとします。「世界の路面電車巡り」の夢を果たしたい道上保(井坂俊哉)、「マラソンランナーとして復帰するための治療」を受けたい川上孝(山中崇)、「魚の養殖の研究」を続けたい保利満(小澤征悦)、「箱庭協会の会長になりたい」平場まさる(ピエール瀧)、「自分がイイ女でいるための投資」として使う魚住サキ(黒谷友香)などなど、硬軟取り混ぜた実に面白いお金の使い道です。しかし、使い道が多彩でも必ずしもそれで本人が幸福を掴めるかと言うと、それは別問題。サキや道上の妻・かえで(小山田サユリ)のように寧ろ不幸を掴んでしまう者もいれば、中にはお金を使わず返す者もいます

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それにしても、幸福を掴んだ者とそうでない者の差は一体なんだったのでしょうか…。考えるに、本作では「人のためにお金を使った」者には幸せが訪れ、「自分のためにお金を使った」者には不幸が訪れているように思えました。道上は、「世界の路面電車巡り」の結果をレポートで会社に報告する約束をし、川上孝(山中崇)応援してくれる皆のために復帰を目指し、まさるに到っては会長就任の席で箱庭が人間にとって如何に有用であるかを説き、その普及に務めると語ります。そして何よりも、皆のために「お金を出した=使った」摩耶に最後の最後で大きな幸せが訪れているのが象徴的でした。

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もちろんこの法則が実際の全て当てはまる訳はありません。劇中で摩耶の原資は東京にいる時に株で大儲けしたお金らしいのですが、マネーゲームで得たお金を自分のために、あるいは次なるマネーゲームの資金としているのが現代社会。森田監督はインタビューで「誰もが『わたし出すわ』って気持ちになっていたら、ずい分違う世の中になっているはずなんですよね。」と話しています。聞いてふと思ったのは「情けは人のためならず」ということわざ。“人に情けをかけると巡り巡って結局は自分のためになる”という意味のこのことわざの、「情けをかける=わたし出すわ」という意味に置き換えられないでしょうか。

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そう考えると、格差社会といわれ、自己責任論が幅を利かせる現代社会で、少しだけ立ち止まって人のことを思いやってあげる余裕を持って欲しい、本作はそんなことを訴えているように感じました。小雪の放つ不思議な雰囲気と森田監督の持つ独特のテイストが上手く絡み合った一作です。

個人的おススメ度3.5
今日の一言:摩耶はどこから情報仕入れてるんだろ?

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森田芳光監督の作品だというのは知ってましたけど、これがあの『(ハル)』以来のオリジナル脚本だというのはつい最近知って驚きました。そうなんだ、『(ハル)』以降はオリジナルってこれまで無かったんですね。『(ハル)』は邦画ではネット社会を初めて描いた作品として公....... [続きを読む]

受信: 2009年11月 5日 (木) 21時17分

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受信: 2009年11月 5日 (木) 21時29分

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受信: 2009年11月 5日 (木) 21時35分

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-----あらら。もう、今日もあと少し。 更新が間に合うのか、フォーンはハラハラ。 というのも、今日は火曜日。 「シネマのすき間」の日。 翌日回しにするわけにはいかないのニャ。 それなのに、飲んで帰ってくるなって。 ヤバい。そんなこと言っている暇はないよね。 『わたし出すわ』のお話をしなくっちゃ。 これは森田芳光監督作品。 『(ハル)』以来、久しぶりに自分で脚本を書いたことが話題に。 このタイトル、よく意味分かんなかったけど、 お金で大成功した人がそのお金を 昔の友人たちに惜しげもなくあげちゃうって... [続きを読む]

受信: 2009年11月 5日 (木) 21時36分

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受信: 2009年11月 5日 (木) 22時28分

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受信: 2009年11月 5日 (木) 22時57分

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受信: 2009年11月 5日 (木) 23時39分

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受信: 2009年11月 5日 (木) 23時44分

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受信: 2009年11月 5日 (木) 23時45分

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受信: 2009年11月 6日 (金) 12時08分

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受信: 2009年11月 7日 (土) 01時36分

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受信: 2009年11月 8日 (日) 12時48分

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受信: 2009年11月 8日 (日) 12時54分

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 「わたし出すわ」を恵比寿ガーデンシネマで見ました。  予告編を見て大変面白い着眼点だなと思い、また「カムイ外伝」で好演した小雪の主演作でもあるというので、映画館に出かけてきました。  劇場に入るまでは、森田芳光監督の作品であり、かつ小雪が主演なのですから大勢観客が集まって見やすい座席が確保できるだろうかと心配したのですが、あにはからんや入りは全然よくありません。事前の映画評論家の評価が芳しくないことも影響しているのでしょうか?  「映画ジャッジ」の評論家諸氏は、それほど酷い評価をしていません... [続きを読む]

受信: 2009年11月19日 (木) 05時48分

» わたし出すわ [七海見理オフィシャルブログ『映画評価”お前、僕に釣られてみる?”』Powered by Ameba]
摩耶が、突然、東京から故郷に帰ってきた 彼女は高校時代の友達の”夢”や”希望”を実現しようと大金を差し出す… 独りじゃないから きっと なんとも意味深なタイトルだが・・・(笑)... [続きを読む]

受信: 2009年11月24日 (火) 01時02分

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受信: 2010年12月 3日 (金) 14時27分

» わたし出すわ [いやいやえん]
すみません、あえて言いませんがなんか別のものを出すのかと勘違いしてました^; 出すのはお金でした。小雪さんが次々とお金をだしていく謎の美女を演じていました。 舞台は函館。旧友達の夢や希望を叶えるためのお金を「私がそのお金、出すわ」と次々と大金をつぎ込んでいく摩耶。彼女の真意は一体…?と謎めいていて物語に引きこまれていきます。 ストーリー途中で何度かそれぞれの友達の高校時代の摩耶にとっての思い出の言葉が映し出されます。それはきっと、彼女が彼らに特別な感情を抱いたときの言葉なんでしょう。羨ましい... [続きを読む]

受信: 2011年7月 3日 (日) 08時41分

» わたし出すわ [ゴリラも寄り道]
わたし出すわ [DVD](2011/06/08)小雪、黒谷友香 他商品詳細を見る<<ストーリー>> 高校時代の友人の夢や希望の実現のために、次々と大金を差し出していく謎の女、摩耶。 女が本当にあげたかったものに気...... [続きを読む]

受信: 2011年7月 4日 (月) 07時37分

» ご利用は計画的に(笑)〜「わたし出すわ」〜 [ペパーミントの魔術師]
わたし出すわ [DVD]角川書店 2011-06-08売り上げランキング : 20804Amazonで詳しく見るby G-Tools わたっしだ〜す〜わっ、いくらでもだ〜す〜わっ♪ ・・・って「待つわ」の替え歌を歌いたくなるくらいに ある意味湯水のごとく親友にポーンとお金わたしちゃう摩耶...... [続きを読む]

受信: 2011年7月10日 (日) 14時48分

» わたし出すわ [パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ]
もし突然大金をもらったら、どうしますか?突然昔の友人から大金をもらったら、どうしますか?『間宮兄弟』『椿三十郎』など、コンスタントに話題作を発表し続ける森田芳光監督が ... [続きを読む]

受信: 2012年5月13日 (日) 17時41分

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