ワカラナイ
少年も私たちもワカラナイ |
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究極のマスターベーション作品『白夜』の小林政広監督が、またぞろ独特の雰囲気を漂わせる作品を世に送り出してきた――。そんな感じの本作、タイトルがこれまた直球ど真ん中の『ワカラナイ』。登場人物は例によって極端に少なく、主人公・川井(小林優斗)以外は友達の木澤(柄本時生)、母親の伸子(渡辺真起子)ぐらい。他にも多少出ますが殆どエキストラのようなものです。それじゃ何がワカラナイのかと言えば、実は何もワカラナかったり。というのもナレーションは一切無く、セリフも極端に少ない、即ち観る側が必死で推測しないと本当に何も解らなくなってしまう。そんな作品でした。
前作でやたらとロングショットを多用した反動なのか、今回は赤シャツの痩せた川井少年に完全密着したドキュメンタリータッチな104分でした。いきなりコンビニのレジをちょろまかしてお握りとサンドイッチを盗む川井少年。バイトなのに何で?自宅でそれをむさぼるように夢中で食べ、1.5Lサイズのペットボトルに入っている水をラッパ飲みする…。ここまででも何かがおかしい、一体どうなってるんだ?と興味を惹かれますが、数少ない川井少年のセリフから電気・ガス・水道全てを止められていることが解ります。
どうやら相当の貧乏らしい、だからコンビニで食料を盗んだりむさぼるように食べたりしていたのか…。それじゃ親はどうした?と次は至極当然の疑問が湧いてきます。いました。但し病院に。しかし母親の説明は全くありません。母はクスリが聞かなくて痛みで寝れないと訴えます。恐らく末期がんの患者であると推測できます。っとまあ、全てがこの調子で、作品の側から具体的な説明が無いまま物語は進みます。しかし川井少年の行動やたまにあるセリフは、其れそのものが凝縮された情報源であり、それらによって彼の今置かれている状況が“ワカル”のでした。その意味で、スクリーンから目が離せません。
生活保護は申請したけれどもまだ降りない、そうこうするうちに母親は亡くなり、治療費40万円と葬儀代20万円などどうやっても工面できない、それでなくても母親を亡くしたショックが大きいのに…。途方にくれる川井少年はまさにもうどうしたらいいのか“ワカラナイ”状態。それにしても高校生の少年がここまで追い詰められる程、今の世の中は冷たい世の中になってしまったのか。これが東京ならまだしも、舞台は東北の田舎町なところが余計ショックです。必死に考えた川井少年が出した結論は、母の遺体を自分で葬ること。
この後、なけなしの最後のバイト代を使って、自分と母を捨てた父を訪ねて東京に行きます。ちなみにそれも一切の説明はありません。川井少年が昔の写真の挟まった東京の地図を眺めていたことから“ワカッタ”ことです。繁華街で補導された彼は母の遺体を勝手に葬ったことが犯罪だと詰問されます。ここで本作を通じて唯一の感情の篭ったセリフが飛び出すのでした。それはキャッチにも使われている「じゃあ、僕はどっちにすればよかったんですか?」。治療代や葬儀代を踏み倒しても犯罪、母の遺体を勝手に葬っても犯罪、それじゃ一体どうすりゃよかったっていうんだよ!それがこのセリフの真意でした。
あまりにやり場の無い不条理を全面に描き出し、社会で翻弄される高校生を描き出した作品でしたが、安易に自分の命を断ったり、他人を傷つけたりしない分、それでもまだ“ワカラナイ”と言っている川井少年はましなのかなと思わずにいられませんでした。
個人的おススメ度3.5
今日の一言:キツイ言い方をすればひ弱な気もする。
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