« インフォーマント! | トップページ | ヴィクトリア女王 世紀の愛 »

2009年12月 9日 (水)

カティンの森

Photo 2008年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。第二次世界大戦中にポーランド軍の将校がソ連軍に虐殺された「カティンの森事件」の映画化。監督はポーランド人監督のアンジェイ・ワイダ。監督の父親もこの事件の犠牲者であり、ソ連支配下の共産主義時代には語ることすら許されなかったこの事件の真相が今初めて語られる。戦争の歴史の闇の一つがまた明らかになった問題作だ。
>>公式サイト

もうこんな作品が作られないことを願う。

 あらすじへ 

にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブ
ログランキングへみなさんの応援クリックに感謝デス

01

驚くほど日本とよく似た状況に改めて、ソ連とはそういう国だったのだと思いました。1939年9月、ポーランドは西からナチスドイツ、東からソ連の侵攻を同時に受けて事実上消滅する訳ですが、これが第二次世界大戦の引き金となります。ソ連はこれより7日前にポーランドとの不可侵条約を結んでいたにも拘らずの侵攻であり、これは大戦末期に満州に対して一方的に侵攻してきたソ連と驚くほどにダブります。そしてこの際に、ソ連はポーランド軍将を捕虜とし強制収容所に送り込みますが、後にこのうち1万5千人とも言われる人々が行方不明となり、数千人が虐殺されていたことが判明するのでした。そして虐殺された場所に程近いカティンの名前をとり「カティンの森事件」と呼ばれるようになります。

02 03

本作では、この虐殺された将校と残された家族の幾人かに焦点をあてて、残された家族の苦悩を描いています。そもそもはアンジェイ・ワイダ監督の父親がこの虐殺の犠牲者であり、家族の苦悩は即ち監督ご自身の苦悩でもあるのでしょう。実際劇中でメインとなり登場する大尉の名前はアンジェイと言います。ところが、東西冷戦下では事実上ソ連の支配下にあったポーランドは社会主義国であり、ソ連によるこの虐殺の事実を公に語ることは絶対のタブーでした。第二次世界大戦の虐殺といえば何よりユダヤ人のホロコーストを思い出しますが、冷戦終結から約20年、もう一つのホロコーストに焦点をあて、世界に対してそれを映画という形で訴えたという意味では非常に意義深い作品だといえるでしょう。

04 06

ただ、事実としての出来事を知った衝撃と言うものはありましたが、戦争ドラマという意味での映画としては、もっというと家族の苦悩といった部分ではそこまで心に訴えかけるものを感じられませんでした。それはひとえに登場人物の人間関係が解りにくかったから。物語にはいくつかの家族とその周辺の人物が登場します。“アンジェ大尉と妻アンナ”、“大将と妻ルジャ”、“ピョトル中尉と妹アグニシェカ”、“アンジェ大尉の部下イェジ”、“アンナの甥タウデシュ”、“アンジェイの父ヤン教授とその妻”、主にコレだけの人々が登場し、それぞれのシチュエーションが当然ながらパラレルに描かれるのですが、誰かを軸に進むわけではなく完全に各シークエンスごとに独立しており、それらを結び付けているのは「カティンの森事件」のみ。

07 08

いきなり登場してくる人物の人間関係は会話の中から類推するほかなく、そこを考えているうちにシーンはどんどん進む…。いましゃべってるのはどの将校の家族で、そもそもその将校はどこに出てきたっけ?というように、関係を把握するのに頭をフル回転させている状況では、その人物に対する感情移入は難しいといわざるを得ません。従ってどうしても把握しやすい出来事、先に書いた衝撃の事実だけを認識する作業になってしまいました。これならば、思い切ってNHKスペシャルのようなドキュメンタリーにしたほうが説得力を感じられるというものです。冷たい言い方をするならば、ドラマ仕立てにしても私にご遺族の感情が解るなどとは到底言えないですし、むしろ監督が本作を制作したのもそこに目的があるとは思えないのです。

09 10

とまあ、いまひとつ釈然としない想いのままに観進めてきたものの、流石に虐殺シーンにはただただ呆然。特にエモーショナルな映像ではありません。身元の確認をされる恐らく上級将校たちは、狭い部屋の中に連れ込まれ次々と一人づつ後ろから頭を打ちぬかれていきます。撃ち殺す係、流れた血をバケツで流す係、死体を外に運び出す係…それはまるで動物の屠殺場のよう…。アンジェたち下士官はトラックから降ろされるとそのまま穴の前で同じように後頭部を打ち抜かれて殺されていきます。口々にみな祈りの言葉を口にしますが、それとてほんの数秒間。人の命とはかくもあっけないものなのか……。こんな行為に意味を求めること自体無意味ですが、それでも何故?が頭の中を駆け巡りました。

11 12

アンジェイ監督は今年83歳。失われ行く戦争の記憶を後世に残すこと、それだけでこの作品には価値があります。しかしながら先日観た『戦場でワルツを』では46歳のアリ・フォルマン監督が、20年前レバノンで起こった「サブラ・シャティーラの虐殺事件」を描いていました。「カティンの森事件」は70年前、50年間で人間は何も進歩していなかったということなのでしょうか。この2人の監督が残してくれた人間の大きな過ちの記憶とともに、これから50年後の世界では、同じような作品が作られなくなっていて欲しいと切に願わずにはいられません。

個人的おススメ度3.5
今日の一言:映画として観ないほうが良いのかも

にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ
↑いつも応援して頂き感謝です!
今後ともポチッとご協力頂けると嬉しいです♪

|

« インフォーマント! | トップページ | ヴィクトリア女王 世紀の愛 »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: カティンの森:

» カティンの森 (第22回東京国際女性映画祭にて) [風に吹かれて]
またひとつ歴史を知りました公式サイト http://www.katyn-movie.com12月5日 [続きを読む]

受信: 2009年12月 9日 (水) 20時52分

» カティンの森 [とりあえず、コメントです]
第二次世界大戦中の1940年に起きた“カティンの森”事件を描いた作品です。 二つの国に攻め込まれ、それぞれの国の理由で多くの国民の命を奪われたポーランドの歴史が 監督の真摯な想いを込めて創り上げられていました。 ... [続きを読む]

受信: 2009年12月10日 (木) 12時47分

» カティンの森 [だらだら無気力ブログ]
第二次世界大戦下、ナチスドイツとソ連両国から侵攻され、両国に分割統治 されることになったポーランド。ソ連側の捕虜となったポーランド軍将校の 多くがソ連によって虐殺された「カティンの森事件」を、ポーランドの巨匠 アンジェイ・ワイダ監督によって映画化。 長らく真..... [続きを読む]

受信: 2010年1月 9日 (土) 23時18分

» 「カティンの森」 [お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法]
(2007年:ポーランド/監督:アンジェイ・ワイダ) ポーランドの巨匠、アンジェイ・ワイダ監督が、戦後封印されて来た、「カティンの森事件」と呼ばれる、第二次大戦中のソ連兵士によるポーランド軍将校虐殺事... [続きを読む]

受信: 2010年2月 9日 (火) 21時56分

» カティンの森 [★試写会中毒★]
満 足 度:★★★★★★★★☆☆    (★×10=満点)      岩波ホール にて鑑賞    監  督:アンジェイ・ワイダ キャスト:マヤ・オスタシェフスカ       アルトゥル・ジミイェフスキ       マヤ・コモロフスカ       ヴワディスワフ... [続きを読む]

受信: 2010年2月20日 (土) 20時45分

» カティンの森 [Diarydiary!]
《カティンの森》 2007年 ポーランド映画 -原題 - KATYN 西からドイ [続きを読む]

受信: 2010年2月22日 (月) 19時28分

» カティンの森 [心のままに映画の風景]
1939年、ポーランドはドイツ軍とソ連軍に侵攻され、ポーランド軍将校たちはソ連の捕虜となった。 アンジェイ大尉(アルトゥール・ジミエウス... [続きを読む]

受信: 2010年3月 3日 (水) 18時31分

» 「カティンの森」ワイダよ、これで終わるな [再出発日記]
霧の晴れた橋の上で、二つの集団難民が行きかう。1939年、ドイツがポーランドに侵入し、10数日後にソ連が進入した。二通りの難民が同時に発生したのである。「こちらに行くと危険だぞ」と両方とも言う。まさにそのとおり、ポーランドの50年にも及ぶ悲劇の始まりであった。...... [続きを読む]

受信: 2010年4月 1日 (木) 10時51分

» カティンの森 [迷宮映画館]
見るべき映画、見なければならない映画、語り継がなければならない映画だ。 [続きを読む]

受信: 2010年4月 1日 (木) 21時24分

» 「カティンの森」みた。 [たいむのひとりごと]
久しぶりに「これはキツイ」と思う戦争映画だった。1939年ソ連のポーランド侵攻から”カティンの大虐殺”の真実が描かれたこの作品。情けないことに、”ポーランド侵攻”について不勉強な私は実は”カティン”の... [続きを読む]

受信: 2010年4月 8日 (木) 20時02分

» 普天間問題県民大会の日に映画「カティンの... [映画と出会う・世界が変わる]
アンジェイ・ワイダの渾身の作品である。アンジェイ・ワイダ自身、カティンの森事件では父親が犠牲者の一人であり、母親も失意の中で亡くなっている。この事件の映画化はワイダ監督... [続きを読む]

受信: 2010年4月26日 (月) 00時16分

» カティンの森■連合赤軍事件を想起させる [映画と出会う・世界が変わる]
何の感情もなく、無表情で銃を捕虜の頭につきつけ淡々と殺害していくソ連兵。そして、ブルトーザーによって土砂に埋められていくその光景に国家というものが持つ無慈悲さと残酷さを... [続きを読む]

受信: 2010年4月27日 (火) 07時44分

» 映画「カティンの森 」人間は、こんなこともしてしまうのだ [soramove]
「カティンの森 」★★★★DVDで鑑賞 マヤ・オスタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ、ヴィクトリャ・ゴンシェフスカ主演 アンジェイ・ワイダ監督、122分、 2009年12月5日公開、2007,ポーランド,アルバトロス・フィルム (原題:Katyn )                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りたい← 「アンジェイ・ワイダ監督が80歳を超えて監督した 1万5千人のポーランド人将校捕虜の殺害の事... [続きを読む]

受信: 2010年5月 8日 (土) 01時15分

» 映画「カティンの森」では、人は国家の命令... [映画と出会う・世界が変わる]
「カティンの森■連合赤軍事件を想起させる」というエントリーに対して明彦さんからコメントをいただいた。ありがとうございます。そのコメントの中で、「人は『国家の命令』『思想... [続きを読む]

受信: 2010年5月 8日 (土) 08時55分

» 戦場・・・ [Akira's VOICE]
「カティンの森」 「ディファイアンス」 「戦場でワルツを」  [続きを読む]

受信: 2010年5月24日 (月) 10時33分

» DVD:「カティンの森」 凄まじく「重い」 そこに価値がある。 [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
122分にわたって、巨匠アンジェイ・ワイダ(84才)が監督としての最後の戦い?を挑んだ力作。 (実際には新作Sweet Rushが待機中、たいしたものだ!) 演出は極めてスムース。 自然、街などの風景が美しい中、個々の登場人物たちも、それぞれとても魅力的。 が、内容が凄まじく「重い」。 タイトルのように、カティンの大虐殺そしてその後ポーランドが陥った苦境が全編通して描かれているからだ。 エンディング・ロールが出る前、鎮魂歌が流れるが、ここでその「重さ」がピークに達する。 劇場でこれを観たら溜... [続きを読む]

受信: 2010年5月27日 (木) 03時40分

» mini review 10472「カティンの森」★★★★★★★★☆☆ [サーカスな日々]
第二次世界大戦中、ソ連の秘密警察によってポーランド軍将校が虐殺された「カティンの森事件」を、ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督が映画化した問題作。長い間明らかにされてこなかった同事件の真相を、ソ連の捕虜となった将校たちと、彼らの帰還を待ちわびる家族たちの姿を通して描く。父親を事件で殺された過去を持つワイダ監督が歴史の闇に迫った本作は、第80回アカデミー賞外国語映画賞ノミネートをはじめ、世界各地の映画祭で高く評価された。[もっと詳しく] 80歳のアンジェイ・ワイダ監督が、執着したこと。 まだ... [続きを読む]

受信: 2010年7月23日 (金) 23時06分

» カティンの森 [☆彡映画鑑賞日記☆彡]
 『明日を生きていく人のために そしてあの日 銃身にさらされた 愛する人のために』  コチラの「カティンの森」は、第二次世界大戦下、一万五千人の将校が忽然と行方不明となり、ポーランドの人々が半世紀にわたり沈黙をしいられた知られざる真実を描いたアンジェイ・....... [続きを読む]

受信: 2010年7月31日 (土) 09時11分

» 『カティンの森』'04・仏 [虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映...]
あらすじ1939年、ポーランドはドイツ軍とソ連軍に侵攻されすべてのポーランド軍将校はソ連の捕虜となった。アンジェイ大尉は、彼の行方を探していた妻アンナと娘の目前で、東部... [続きを読む]

受信: 2010年10月 6日 (水) 21時04分

» 喪中映画評「カティンの森」 [プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]]
☆☆☆★(7点/10点満点中) 2007年ポーランド映画 監督アンジェイ・ワイダ ネタバレあり [続きを読む]

受信: 2011年5月 2日 (月) 09時52分

» カティンの森 Katyn [映画!That' s Entertainment]
●「カティンの森 Katyn」 2007 ポーランド 122min. (R15+) 監督:アンジェイ・ワイダ 原作:アンジェイ・ムラルチク 『カティンの森』(集英社刊) 出演: マヤ・オスタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ、マヤ・コモロフスカ他。 <評価:★★★★★★★☆☆☆> <感想> それとなくは理解していたつもりの「カティンの森事件」の背景がこんなに深く、残忍で 陰謀渦巻くものであったと、恥ずかしながらこの映画を通してしった。 ラストシーンがあまりにも衝撃的なので... [続きを読む]

受信: 2011年5月14日 (土) 20時48分

« インフォーマント! | トップページ | ヴィクトリア女王 世紀の愛 »