バグダッド・カフェ<ニュー・ディレクターズ・カット版>/Out of Rosenheim
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演出・脚本・音楽・俳優いずれもが素晴らしい! |
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オリジナルは未見。しかし予告編で「コーリング・ユー」を聞いて以来必ず観ようと思っていた作品でした。これは素晴らしい!砂漠にある寂れたバグダット・カフェが、文字通りドライバーたちのオアシスへと変貌を遂げていく脚本、ジャスミンやブレンダ、ルーディといった個性的な登場人物たち、今回パーシー・アドロン監督自らが手を加えたという色と構図、そして最初に書いた主題歌「コーリング・ユー」。どれもこれも魅力的過ぎて唯ひたすら見とれつつ聞き入る珠玉の108分間でした。正直何を書いてよいのか解らないです。


砂漠の真ん中でケンカ別れする夫婦。えらくふとっちょのおばさんがスーツケースを引きながらとことこと歩き始めます。彼女の名はジャスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)。ドイツからの旅行者です。これがお世辞にも美人でもなきゃ、言葉は悪いけどデブのおばさん。しかも最初にカフェの主人・ブレンダ(CCH・パウンダー)とであった時には何故か、ドラム缶の入浴シーンまで登場するんです。失礼ながら「うは~…」っといった感じで、正直あんまり観たくない。ところが!こんなおばちゃんが、物語が進むにつれてとても愛すべきミセス・ジャスミンへと変わっていくのだから驚きです。


そしてジャスミンと対になる存在がその女主人・ブレンダ。旦那のサル(G・スモーキー・キャンベル)と大喧嘩し、彼が出て行ってしまってからはそれはもうヒステリーの塊。何かと言うとギャーギャー怒鳴り、しばらく私たちもそれにつきあわされます。カフェの従業員や奇妙な常連客、それにブレンダの子供たちはこのヒステリーにはもう辟易。当然お店の雰囲気も良くないしやる気も起きない、だから店も汚れ放題でした。そんな最悪のバグダッド・カフェにくだんのジャスミンさんがやって来るわけです。しかしながら、お客だからといってヒステリーが治まるような甘いブレンダじゃありません。


お客の彼女にまであたりちらす彼女、しかしジャスミンときたら!その巨体にピッタリの大らかな心でブレンダの怒鳴り声を全て吸収してしまうかのようです。あれ?さっきまであんまり魅力的に感じなかったジャスミンが、ブレンダのヒステリーの前では同情心も相まってなにやら魅力的に見えてきました…。さて、部屋でジャスミンが着替えようとスーツケースを開けると…これがなんと別れた旦那のもの。当然中に入っているのは男物の衣服ばかり。必然的に男物のシャツばかり着ることに。それがヒステリックブレンダの不信感を煽り、ついには保安官を呼ばれるはめに。ちなみにこの旦那のバッグに入っていたあるものが後々のキーアイテムになります。


当然私たちはジャスミンの男物の服の理由を解って観ています。するとあら不思議。今度は不審人物扱いされてしまったジャスミンさんの好感度がまたまたアップしているじゃないですか。ことほど左様にジャスミンがブレンダのヒステリーの犠牲になるたびに彼女の好感度がアップしていくという不思議なストーリー流れが実に面白い。しかしある日、ジャスミンは遂に堪忍袋の緒が切れます。切れた彼女がしたこと、それは「掃除」。元来奇麗好きなんでしょう、ブレンダが町に出かけている間に汚れ放題だった店をピッカピカに磨き上げます。ここから話の流れがぐっと変わるのでした。


戸惑いながらも奇麗な店にまんざらでもないブレンダ。そして勝手に店を手伝い始めるジャスミン。そしてジャスミンは旦那のスーツケースに入っていたマジックの道具で店のお客に簡単なマジックを見せ始めます。これが話題になってバグダッド・カフェは大繁盛していくのですから世の中わかりませんね。人間関係も含めて全てが上手く回り始めると、前半のあの暗く重苦しい雰囲気があるだけにこの明るさが堪らなく嬉しかったりします。押し込められていた心が開放されるかのようでした。いつの間にか家族のような付き合いになるジャスミンたち。


特にジャスミンとルーディの心が通じ合っていく様子の表現は実に面白いです。店の常連で絵描きのルーディがジャスミンを描くのですが、親しくなるに従ってジャスミンは服を脱いで行くんですね。最終的にはフルヌード。だからといってセクシャルなシーンがあるわけではなく、あくまでもルーディに対するジャスミンの気持ちを服を脱がせることで表現している訳です。ブレンダがジャスミンたちと築いてく人間関係、ゆっくりじっくり出来上がっていく絆を丁寧な描写で表現しているので、相対する人間同士の心の動きがとても解り易い、それだけに物語に入っていきやすい作品といえます。


今回、色と構図に関して監督自らが見直した本作。その時々の心象風景なのか、その鮮やかな色合いは心に焼き付いて離れません。いや、むしろそもそもが、その時々の私たちの心の色を的確にスクリーンに映し出しているのかもしれません。ともすれば下品かつ意味不明になってしまいがちなこの色彩センス、しかし見事なほどにしっくりと馴染むんです。BGMにかかる「コーリング・ユー」、ジェヴェッタ・スティール の最高の声に聞き惚れながら、出来たらウイスキーの一杯でも傾けつつ深夜に一人で楽しみたい、そんな気にさせられる一本でした。
個人的おススメ度5.0
今日の一言:とてもその魅力を書ききれないです。
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