ヴィクトリア女王 世紀の愛
19世紀イギリスの黄金時代を築き、様々な権謀術数渦めく王室に身を置きながらもアルバート公との愛を成就させたヴィクトリア女王の若かりし頃を描いた歴史恋愛ドラマ。主演は『プラダを着た悪魔』のエミルーブラント。共演に『プライドと偏見』のルパート・フレンド。ほかにポール・ベタニー、ミランダ・リチャードソンらが出演している。プロデューサーは『ギャング・オブ・ニューヨーク』のマーティン・スコセッシ。
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イギリスが最も輝いていた時代・その名をとってヴィクトリア朝とも呼ばれる時代の物語。原題『THE YOUNG VICTORIA』にあるように、即位直前から即位後、まだ女王としては未熟な時期のヴィクトリアを描いた作品で、西洋史映画好き、英国史映画好きには堪らなくロマンを掻き立てられるものがありました。ヴィクトリアと夫アルバートをエミリー・ブラントとルパート・フレンドが演じるのはあまりに美男美女過ぎるという気もしないではないですが、荘厳なバッキンガム宮殿とその調度品の数々、更にオスカーを2度獲得したサンディ・パウエルが当時を再現した素晴らしい衣装には非常にマッチしていたと思います。
ただ、歴史映画の常として事前に時代背景と人間関係の予習はしておいたほうが確実に面白く観ることが出来るでしょう。何しろ本作は非常に忠実に歴史をなぞっています。つまり表面的な出来事の裏には必ず人間の企みがあり、この作品の場合はそれが、王室のみならず政治家にも言えるので、それを含めて鑑賞するのが面白い訳です。実際“世紀の愛”などというと、熱烈なラブロマンスを主体に描いているように思えますが、それを中心に楽しみたいと考えるならば、本作にはちょっと物足りなさを覚えるかもしれません。
そもそもアルバート公はヴィクトリアの母ケント公爵夫人の弟にしてベルギー国王の次男。要はヴィクトリアの母方の従弟。つまり上手く2人が結びつけば、ベルギー国王は当時隆盛を誇ったイギリス女王の叔父ということになる訳で、そのためにアルバートはヴィクトリアの元に送り込まれたのでした。当時のヨーロッパ王室の人的繋がりがもたらす面白さがここにあります。もっとも、きっかけはどうあれ2人は本当に愛し合い後々結婚するのですから解らないものですね。アルバート公が父国王の手紙に政治的な話は一切返さないのが純愛の証拠です。
更に、即位直前にヴィクトリアの個人秘書となるメルバーン卿(ポール・ベタニー)。彼は政治家で、ヴィクトリアの母ケント公爵夫人(ミランダ・リチャードソン)とその個人秘書コンロイ(マーク・ストロング)が彼女に女王即位を辞退させ、摂政として権力を握ろうとしたのを憂えた現国王ウィリアム4世が送り込んだ人間ですが、それは将来女王を彼の所属するホイッグ党びいきにするためというメルバーン卿の思惑と合致していました。ちなみにちょっとネタバレすると、予告編を観た方は「I am KING!!」と激怒するウィリアム4世を覚えているかと思いますが、あれはヴィクトリアの母ケント公爵夫人に向けられた怒声だったのです。
王や当人の思惑は思惑として、実際メルバーン卿はヴィクトリアの良き教師だったのですが、後々これがまた問題となってきます。既に議院内閣制が確立していた英国において、彼が政争に敗れて首相を辞任すると、ヴィクトリア女王との仲を噂され、かつそれまでの政治手法に疑問を抱く民衆によって、ヴィクトリアまでもが民衆から非難の的となってしまいます。この辺り、かねてから民衆のための政治をしたいと願っていたヴィクトリアではあったものの、当時の英国王は「君臨すれども統治せず」が大原則。メルバーン卿に協力を得られなければ実際には何もできないもどかしさがよく伝わってきます。
ところが、ここでアルバートは違いました。民衆のための施策をヴィクトリアに熱く提言する彼。ヴィクトリアが自分の中に抱えるジレンマを理解してくれるアルバートのことを愛するのは当然でしょう。ところが、その女王としての彼女の責任感がアルバートとの愛より優先してしまうところに彼女の哀しさがあります。私が本作を好きな理由の1つは、こうしたヴィクトリアの微妙な心情の変化が実に解りやすく伝わってくるところなんですね。ただ残念なのが、ちょっと時間が短く、全体として駆け足になってしまっているところ。104分という長さはコンパクトにまとめたともいえますが、欲を言えば2時間はあってもよかったと思います。
政治的なエピソードはコンパクトでも良いのですが、愛情的なエピソードを描くにはもうちょっとじっくり時間をかけて欲しかったのが本音。終盤アルバート公が暴漢に撃たれても、あっという間に治ってしまい、2人がお互いを信頼しあうようになるシークエンスもそう。あまりに短く、彼が死んでしまう事への危機感も薄いとあっては、こちらの感情が劇中の2人の感情の変化に追いつけず乖離してしまい、単なる傍観者となってしまうのでした。そうはいっても歴史を歴史としてみる面白さ、特にヨーロッパ史・英国史の深遠な繋がりも感じられる面白さは十分に堪能させてくれる作品だったと思います。
最後に余談。コンロイがマーク・ストロングだとは気付きませんでした。カツラ被ってると解りません…。それはさておきヴィクトリア女王が即位した1837年は日本だと何があったのか調べたら「大塩平八郎の乱」…。既にイギリスでは議院内閣制で2大政党制が確立していたのですからその差に驚きです。
個人的おススメ度3.5
今日の一言:イギリス議会の様子が面白いョ
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» ヴィクトリア女王 世紀の愛 (試写会) [風に吹かれて]
政略結婚のはすが結婚公式サイト http://victo [続きを読む]
受信: 2009年12月10日 (木) 23時16分
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受信: 2009年12月11日 (金) 03時15分
» ヴィクトリア女王 世紀の愛 [とりあえず、コメントです]
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受信: 2009年12月13日 (日) 00時08分
» 作品レビュー:ヴィクトリア女王 世紀の愛 [INTRO]
『羨ましいこと限りなし!完璧なまでの理想の幸福を見せつけられる』 / およそ1000年に及ぶ英国王室の歴史において最も有名な王は誰かと問われれば、私見であるがエリザベス1世(1533~1603)とヴィクトリア女王(1819~1901)の名前を挙げる。「英国は女王の時代に繁栄する」という言葉があるとおり、まさに2人の女王はそれぞれの時代に英国を世界のトップへと押し上げた。国家のために一生独身を貫いたエリザベス1世が生きたテューダー朝...... [続きを読む]
受信: 2009年12月17日 (木) 21時57分
» ヴィクトリア女王 世紀の愛 [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。原題:The Young Victoria。ジャン=マルク・ヴァレ監督、エミリー・ブラント、ルパード・フレンド、ポール・ベタニー、ミランダ・リチャードソン、ジム・ブロードベンド、マーク・ストロング、トーマス・クレッチマン、イェスパー・クリステンセン、ハリエット....... [続きを読む]
受信: 2009年12月26日 (土) 22時26分
» ヴィクトリア女王 世紀の愛 [池内ひろ美の 映画大好き!]
(原題 The Young Victoria)2008年アメリカ/2009年12 [続きを読む]
受信: 2009年12月27日 (日) 18時53分
» ヴィクトリア女王 世紀の愛 [映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子公式HP]
19世紀、英国は「太陽の沈まない帝国」と呼ばれるほどの黄金期だったが、その時代に国を治めていたのがヴィクトリア女王である。彼女の若き日を描くこの歴史劇は、真実の愛で結ばれた夫婦の物語だ。英国の王位を継ぐヴィクトリアは窮屈な暮らしにうんざり気味だ。旧態然とし....... [続きを読む]
受信: 2009年12月28日 (月) 23時54分
» 『ヴィクトリア女王世紀の愛』(2009)/イギリス・アメリカ [NiceOne!!]
原題:THEYOUNGVICTORIA監督:ジャン=マルク・ヴァレ出演:エミリー・ブラント、ルパート・フレンド、ミランダ・リチャードソン、ポール・ベタニー、ジム・ブロードベント観賞劇場 : TOHOシネマズシャンテ公式サイトはこちら。<Story>18世紀の英国。ウィリアム...... [続きを読む]
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12月8日(火)九段会館にて観劇。
この映画は試写会が少なかった。
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しかたない!
半年後にギンレイホールで見よう!と思っていた。
TOHOシネマズシャンテで上映される作品はギンレイホールで上映されることが多い。
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「18世紀のイギリス、ウィリアムの姪で王位継承者のヴィクトリアはまだ若く、実母の公爵夫人やその恋人コンロイの画策で摂政政... [続きを読む]
受信: 2010年1月14日 (木) 18時35分
» ヴィクトリア女王 世紀の愛(2009)THE YOUNG VICTORIA [銅版画制作の日々]
京都シネマにて初日に鑑賞。
18歳で即位し、英国を最強の国家に導いた若き女王。その愛と真実の物語。この国と、あなたを守る。
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受信: 2010年1月19日 (火) 10時47分
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【ヴィクトリア女王 世紀の愛】 ★★★☆ 映画(6)ストーリー 19世紀のイギリス。ウィリアム国王の姪ヴィクトリア(エミリー・ブラント)は、 [続きを読む]
受信: 2010年2月 2日 (火) 22時02分
» 『ヴィクトリア女王 世紀の愛』'09・英・米 [虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映画 ブログ]
あらすじ18世紀の英国。ウィリアム王の姪ヴィクトリアは王位継承者として権力争いの真っ只中にいた。実母であるケント公爵夫人は、愛人のコンロイと共に娘を操ろうとするが・・・。感想本年度アカデミー賞美術賞衣装デザイン賞メイクアップ賞ノミネート目を奪われる絢爛...... [続きを読む]
受信: 2010年3月 9日 (火) 22時02分
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《ヴィクトリア女王 世紀の愛》 2009年 イギリス/アメリカ映画 - 原題 - [続きを読む]
受信: 2010年3月22日 (月) 21時44分
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イギリス史上最も輝かしい時代であったヴィクトリア朝。その時代を作り上げたヴィクトリア女王。その在位は64年という長さ。この映画の原題は「TheYoungVictoria」で、そのヴィクトリア女王の若き時代を描いたもの。イギリスの黄金時代を築いたその手腕や思想の若き日の原...... [続きを読む]
受信: 2010年3月28日 (日) 18時17分
» ヴィクトリア女王/世紀の愛 [パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ]
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これは面白い。よく出来ている。お見事! [続きを読む]
受信: 2010年4月24日 (土) 22時02分
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ヴィクトリア女王 世紀の愛 '09:イギリス◆原題:THE YOUNG VICTORIA ◆監督:ジャン=マルク・ヴァレ ◆出演:エミリー・ブラント、ルパート・フレンド、ミランダ・リチャードソン、ポール・ベタニー、ジム・ブロードベント ◆STORY◆18世紀の英国。ウィリアム王の姪ヴィクト....... [続きを読む]
受信: 2010年6月10日 (木) 13時33分
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「ヴィクトリア女王 世紀の愛」
「プリンセスと魔法のキス」 [続きを読む]
受信: 2010年7月28日 (水) 10時40分
» 映画「ヴィクトリア女王 世紀の愛」 [Andre's Review]
the young Victoria イギリス 2009 2009年12月公開 DVD鑑賞 英国王室は映画のネタに事欠きませんねぇ。 自分が英国好きだということはこのブログでも何度も書いていますが、その中でも19世紀のビクトリア朝の英国は一番好きな時代なので、ヴィクトリア女王を描いた作品となったら観ないわけにはいきません。 19世紀ロンドン。ウィリアム国王の体調が思わしくなく、王位継承者となっている王の姪、若きヴィクトリア(エミリー・ブラント)を自らの手中におさめ、権力をつかもうとする人々の争い... [続きを読む]
受信: 2010年9月 9日 (木) 01時10分
» ヴィクトリア女王 世紀の愛 [いやいやえん]
ヴィクトリア女王とアルバート公といえば、その時代にしては仲睦まじくて子だくさんで、ラブラブな印象が強い夫婦です。その2人をメインにした作品。時代ものはコスや美術設定がいいよね〜。
王位継承をめぐって策略がめぐらされてるなか生まれた恋。でもアルバート公も最初はその陰謀の1つだったんだね。
母親との確執、王室の権力争い、政治家との駆け引き、そしてスキャンダル。監視下に置かれた自由のきかない日々、母の愛人のコンロイと母親に摂政認証のサインを求められているヴィクトリア。色々と縁談や恋をしかけられたり... [続きを読む]
受信: 2010年9月16日 (木) 14時35分
» ヴィクトリア女王 世紀の愛 [だって興味があったから 【映画と本と、日常日記】]
18歳で即位し、英国を最強の国家に導いた若き女王。その愛と真実の物語。
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2009年 イギリス/アメリカ 日本公開日 2009/12/26
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監督 ジ... [続きを読む]
受信: 2010年10月24日 (日) 22時41分
» 映画評「ヴィクトリア女王 世紀の愛」 [プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]]
☆☆★(5点/10点満点中)
2009年イギリス=アメリカ映画 監督ジャン=マルク・ヴァレ
ネタバレあり [続きを読む]
受信: 2011年1月12日 (水) 18時19分
» ヴィクトリア女王 世紀の愛 [Recommend Movies]
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なにも食べれなくなっちゃうよー あんなに締めちゃえば
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