すべて彼女のために／Pour elle

冤罪で投獄され懲役２０年の刑を受けた妻を救うために奔走する夫。万策尽きた彼がとった手段は何と妻を脱獄させることだった…。果たして家族三人の運命は！監督は本作が初の長編作品となるフレッド・カヴァイエ。主演はフランス人俳優のヴァンサン・ランドンと『イングロリアス・バスターズ』のダイアン・クルーガー。ポール・ハギス監督にによるハリウッドリメイクも決定済みだ。
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それは肯定したくない…

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タイトルからイメージしていたのは感動のヒューマンドラマだったのですが、実はどきどきのサスペンスドラマでした。簡単に言ってしまうと無実の罪で投獄された妻リザ（ダイアン・クルーガー）を夫ジュリアン（ヴァンサン・ランドン）が脱獄させるお話です。ただし脱獄ありきの話ではなく、やむを得ずそうした手段を取らざるを得ない様に追い込まれていく夫を描いたものでした。物語は平凡な家族の朝のひと時から始まるのですが、それもつかの間。あっという間に警察に踏み込まれ、リザは逮捕されてしまいます。

正直言うとちょっと面食らいました。まだこの家族がどのぐらい幸せなのか、夫婦がどれだけ愛し合っているのか、一人息子をどれだけかわいがっているのか…そんな前提となる部分が殆どないままにいきなりです。この部分、もうちょっと丁寧に描くべきでしょう。夫ジュリアンの執念ともいえる妻への愛情があってこそ脱獄させるなどという通常では考えられない手段を取るのですから。そこが浅いおかげでその後のジュリアンの行動に今ひとつ感情移入しにくくなってしまいました。もっとも、観続けていくうちに少しづつ引き込まれてはいくのですけど。

観客は真実の映像を見ることで、早々にリザが冤罪であることは解るようになっています。それにしてもあんな程度で有罪になってしまうとは恐ろしい限り。しかも弁護士らしき女性もジュリアンに「刑に服したほうが良い」と話すなど、一体どちらの味方なんだと。結局３年も費やした結果が２０年の禁固刑。リザは自殺未遂をしでかしたりと、もはや精神的にも限界が近づいていくのでした。誰も頼れないならもう自分で何とかするしかない。万策尽きたジュリアンはリザを脱獄させようと考える訳です。でもその理由が脱獄経験７回を誇る男の本というのはどうなんでしょう…。

ここから一気に物語りはサスペンス調になってゆきます。壁に何枚も貼られた写真や刑務所の図面、出入りする車の調査など、とても国語の教師とは思えない工作員っぷりには驚かされますが、これも全て妻への愛情のなせる業ですね。が、偽造パスポートを手に入れようとして売人にボコボコにされたりするあたりが、妙に素人の詰めの甘さを感じさせたり。（苦笑）ところが！神はなんと無情なのか。ある日突然、３日後に妻が別の刑務所に移送されることが決まります。このままではこれまでの苦労が全て水の泡に…。あせるジュリアン、ある意味物語はここからが本番に突入していきます。

（ココからネタバレ含む。）
ジュリアンは兼ねてからの計画を実行に移すわけですが、ここで一つ問題が。それはお金。脱獄した後逃げるためのお金が必要なのが、当初当てにしていた家の売却代金はとても３日では入らない…。思い余ったジュリアンはとんでもない事に手を染めることになります。即ち、クスリの売人を殺してその金を奪います。最初から殺すつもりは無かったのは見ていれば解りますが、血を見ないですむはずがない訳で…。正直いってこのシークエンス、私はあまり好きではありません。綺麗ごとだとしても、これを認めてはいけないと思うから。

病院からリザを連れ出し空港の税関を抜けるまでのドキドキ感はかなりのものがありましたが、やっぱりその前の部分が引っかかってしまいました。自分のものなら全てを捨てても良いと思いますが、人の命を奪っては…。それも全て自分で背負うとかそういう問題ではないですし。結末までは書きませんが、いずれにしてもスッキリしない後味になってしまったように思います。

個人的おススメ度3.0
今日の一言：ジュリアンの父親がまたいいです。
総合評価：63点

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