コトバのない冬
高岡早紀の素の魅力に引き込まれる |
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俳優の渡部篤郎の初監督作品だということと、『ゲキ×シネ「蜻蛉峠」』で良い芝居を見せてくれた高岡早紀の主演作品ということで鑑賞したのですが、これは意外に掘り出し物かもしれない。これほどまでに俳優の素が見えるのも珍しい作品だと思います。もともと高岡早紀は18歳の頃から渡部篤郎とは交流があったそうで、今回もその流れでのパーソナルオファーだったんだとか。自分が好きになった作品でなければ良いものが出来ないとインタビューに答えている彼女ですが、劇中の彼女の発する透明で静かで、ともすればまだちょっと少女が残るような表情は見ている者を魅了します。
北海道のとある小さな町を舞台にした物語は、(実際には夕張近くの町で撮影は行われたそうですが)そこに住む黒川冬沙子(高岡早紀)の何気ない日常を描いています。家族は薬局を営む父・遼一(北見敏之)と東京でモデルをしていた妹・早知(未希)。牧場で働き、恋人はいるものの札幌に住んでいる彼とはちょっと疎遠になっています。始まってしばらくはセリフが全くありません。「コトバのない」ってそういうことなの?と思いきや、早知が東京から帰省してくる辺りから会話劇がスタートするのでした。しかし恐らく見た人は演技というにはあまりにも自然すぎる会話とその内容に「え?」となるでしょう。
それもそのはず、ポイントとなる会話の流れは決まっているものの、セリフ自体は全てアドリブなのでした。しかも、リテイクは一切なしの長回し。更に、全編を通してカメラは全て手持ちゆえに、まるでホームビデオで撮影した映像を見ているかのような錯覚に陥ります。高岡早紀を始め俳優も女優もナチュラルメイク、限りなくスッピンに近いですが、雪に埋もれた町のなかに透き通るような色白な肌の高岡早紀が溶け込むかのようです。ちなみに本作では彼女の顔のアップがとにかく多く、下手をしたらアップだけでカットが繋がることもあるほど。ある意味、高岡早紀観察映画と言っても良いぐらいです。
しかしそれでも決して不快にならないのは、彼女の持つ魅力故でしょう。さて、そのあまりに自然な会話劇は家族だけに留まりません。折に触れて登場する渡辺えり、彼女は近くの食堂のおばさんという役ですが、これがもう本当におばさん。どうでもいいことをベラベラと延々喋り続けるという、誰が見ても「ああ、こういうおばちゃんっているよね!」という役回りです。でもそれがまた面白い。アドリブなだけに、その俳優の持っている素の話の上手さがモロに出るんですね。話の上手さは人間的魅力に繋がります。静かな町のごく普通の会話劇に登場する、強烈な毒が作品の良いアクセントになっていました。
ある日、冬沙子は閉鎖された遊園地の近くで門倉渉(渡部篤郎)に出会います。彼は耳は聞こえるものの声が出ません。単調な日常、疎遠となっている彼、そんな状況の冬沙子は渉に惹かれていくのでした。これまでの会話劇から一転、2人のシーンは会話無劇に変わります。しかし、表面上のコトバはなくとも2人の心が繋がっていく様子は見ていてよく伝わって来るのでした。ところが、皮肉なことにそんな小さな幸せは突然終わりを告げます。冬沙子が仕事で落馬し、渉とであったことも含め直近10日ほどの記憶を失ってしまったのでした。
心配して駆けつけた彼・ 水田繁 (鈴木一真)は退院した彼女にプロポーズし、彼女もそれを受けます。彼の元に引っ越す当日、通りかかった遊園地の前で観覧車を見ながら涙する彼女…。話はそれで終わり。思い出して渉とどうこうといった劇的な展開はありません。しかしそれが良いと思うのです。そんなことはあくまでドラマでの話。本作はあくまで自然な表情、自然な会話、とある女性の自然な佇まい切り取った作品です。ですからこの終わり方は極々自然な流れとして受け止めることがでしました。良い年齢の重ね方をして素敵な女性になった高岡早紀を一目見て欲しい作品です。
個人的おススメ度3.5
今日の一言:渡部篤郎は高岡早紀が好きなんだと思う
総合評価:66点
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