カラヴァッジョ 天才画家の光と影
バロック絵画の先駆者として知られ16世紀のイタリアを代表する画家・カラヴァッジオの生涯を描いた伝記映画。その作風と同様に、光と影のコントラストや豊かな色彩に彩られた映像表現が印象的だ。主演は『輝ける青春』のアレッシオ・ボーニ。監督はアンジェロ・ロンゴーニ、撮影監督は『ラスト・タンゴ・イン・パリ』や『地獄の黙示録』の撮影監督を務めたヴィットリオ・ストラーロ。 |
光と影のコントラストに富んだ映像美 |
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絵画には全く詳しくない私で、カラヴァッジョといわれても「誰?」てなモノなのですが、予告編で観た映像の美しさに惹かれて鑑賞してきました。一人の画家カラヴァッジョの伝記映画として非常に良くできた作品だったと思います。実際観終わってから色々と調べてみるにつけ、かなり史実に忠実に描いているように見受けられました。カラヴァッジョを知らなくても、16世紀イタリアの歴史を感じられる作品であり、そのコスチュームを含め見所は様々あると思います。余談ですがカラヴァッジョを演じたアレッシオ・ボーニが肖像画にそっくりなのに驚かされました。


カラヴァッジョ本人は知らなくとも、人間関係を辿るうちに知った名前が登場するのがヨーロッパ歴史モノの面白いところ。本作でもカラヴァッジョの最初のパトロンとなるデル・モンテ枢機卿はメディチ枢機卿の取巻きとなりますが、このメディチ枢機卿は言うまでもなくルネサンス期の多くの芸術家のパトロンとして名高いメディチ家の人間であったりします。さて、話を本線に戻しますが、カラヴァッジョの生い立ちを含め細かいことは鑑賞時には知らないで観ていました。が、何故か帯剣しているその姿はあまり画家らしくはありません。


しかしその画家らしくない彼の新しい才能がこの時代の貴族やカトリックの指導者層の目にとまることとなります。バロック絵画と呼ばれるこの新しい絵画の潮流は非常に力強く美しいもので映像もそれを極力ありのままに表現しようとしているように観えました。そもそも、タイトルにもあるように光と影のコントラストはバロック絵画の特徴でもありますが、それは本作の映像そのものにも言えることで、いうなればこの作品はバロック映画とでも言うべき描き方をされています。カラヴァッジョは絵を描くのにモデルを使い、そのモデルに対する光の当たり方をとても気にするのですが、それはとりもなおさず映像的に見た光の当たり方ということになるんですね。


光という意味で言えば、例えば「聖マタイの召命」を描いている時、行き詰っていたカラヴァッジョが目覚めると、天窓から朝日が差し込んでいるというシーンも印象的。絵に対する実際の光と、絵に描かれた窓からの光がシンクロするという映像は幻想的かつ荘厳な美しさを持ったカットであり、それを見てカラヴァッジョは閃きを得るのでした。更に言えば投獄されているシーンですら、ぽっかり開いた天井から雨と光が同時に差し込むというこだわりぶり。面白いのはカラヴァッジョの人生が、こうした彼自身の絵と同じくコントラストがはっきりとした、いやむしろよりキツイものだったことです。


才能はありながらもすぐに激情に流される彼は再三にわたり問題を起こし、その度にパトロンのデル・モンテ枢機卿に尻拭いをしてもらいます。しかし殺人事件を起こしてしまってはさすがにそれももう無理。欠席裁判で死刑判決を言い渡されたかれは、ナポリ、そしてマルタ島のマルタ騎士団に身を寄せます。現代に実存する数少ない騎士団、彼らのコスチュームを含む様式美がまた美しく、カトリック教会の歴史の深さを感じさせられました。しかしここでも問題を起こしたカラヴァッジョはシチリアへと逃げ延びます。何故こうなってしまうのか…。


徹底したリアリズム表現にこだわったカラヴァッジョは、自身の生き方すら偽りを嫌ったのではないでしょうか。よく言えば自分に正直なのかもしれませんが、それは逆に言えば敵を多く作ることに繋がります。そして、彼は見えない敵に対して怯えていました。劇中では黒ずくめの騎士の姿でその恐怖は表現されていますが、彼を支える多くの人々のおかげでかろうじて保たれていた精神の均衡はその逃避行の中で崩れていったのでしょう。一人の画家というより一人の男の壮絶な生き様に圧倒された作品でした。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:黒騎士がロード・オブ・ザ・リングのようで…
総合評価:76点
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