マイレージ、マイライフ／Up in the Air

アカデミー賞作品賞を含む主要５部門で６ノミネート、一時は本命視された作品。世界的な大不況の中、特にアメリカの現代を描く人間ドラマだ。主演は主演男優賞ノミネートのジョージ・クルーニー。共演の女優二人は共に助演女優賞にノミネートされた『エスター』のヴェラ・ファーミガと『ニュームーン／トワイライト・サーガ 』のアナ・ケンドリック。監督は『ＪＵＮＯ／ジュノ』のジェイソンライトマンが務める。
>>公式サイト

人と通じ合うということ

　あらすじへ　

←みなさんの応援クリックに感謝デス

うーん、この作品がオスカーを１つも獲れないですか…。巡り会わせが悪かったのか。１００年に１度の大不況の只中のアメリカ、当然ながらリストラ花盛りな訳で、その対象者に解雇通告をする“リストラ宣告人”ライアン・ビンガムが今回のジョージ・クルーニーの役どころ。実にタイムリーな話であり、ある意味ではイラク戦争よりも一般庶民には身近な出来事と言えるかもしれません。それにしても企業がリストラ宣告を他社に依頼するとは、これまたいかにもアメリカらしい合理主義というかドライというか。もちろんこれは単純に宣告するのが仕事なのではなく、そういった人たちの転職を仲立ちするのが本業らしいのですが。

ライアンはそのために年間３２２日も出張しているいわば旅のベテラン。劇中度々出てくる旅行用カバンに荷物を詰めるシーンは彼の人生哲学の象徴でした。つまり「入りきらないものは持っていかない＝入りきらない人生の荷物は背負わない」という意味において。そんな彼の目標はカードにマイレージを１０００万マイル貯める事。ところがあと僅かでその目標を達成できるというタイミングで２人の女性が彼の前に現れます。一人がライアン同様に出張で全米を飛び回っているアレックス・ゴーラン（ヴェラ・ファーミガ）。同種の匂いを感じた２人は意気投合し、あったその日に一夜を共にします。ヴェラが見せてくれる裸身の後姿、そのプロポーションが素晴らしい！

そしてもう一人がライアンの会社に新卒で入ってきたナタリー・キーナー（アナ・ケンドリック）。社長は出張費が８５％も節減できるという彼女が提案したネットでの解雇通告導入に超ノリ気満々。しかし…このナタリーみたいな新入社員ているんですよね。仕事の何たるかも解ってないクセに机上の空論を振りかざす素人くん。かくしてライアンについて実地に仕事を経験することになるのですが、案の定現実の現場では色んなことが起こる…。しかし彼女はその程度でへこたれない優秀な女性でした。アナは髪を後ろに束ねたキツいイメージの彼女と、髪を下ろした柔らかいイメージ彼女という二面性を演じ分けていましたがどちらも中々捨てがたい魅力が…。

そんなナタリーの描かれ方が現代の若者として若干ステレオタイプではあるものの、彼女の言う仕事だけに価値観を見出すのではなく、人生そのものを計画的に楽しむという生き方はどちらかといえば現代の主流なのも確か。そしてその考えは徐々にライアンにも影響を与えてゆきます。面白いのはナタリーとアレックスの初対面のシークエンス。彼にふられたナタリーの話をライアンとアレックスが聞いてあげるのですが、最初は同じ女性でもナタリーとアレックスのポリシーの違いが明白。もちろんそれは世代の差に起因するのですけども。ところが！「男性に何を求めるのか」という話になった辺りから、何故か意見が近づいてくるのでした。

例えばナタリーは若い女性らしく沢山の条件をだしています。対して最初は大人の意見らしく「この歳になるとそんなに…」なんて話し方をしていたアレックスが、気が付くとナタリーと似たようにいくつもの条件をだしているんですね。この間２人とも何か言うたびにライアンの顔色を覗うように彼をチラ見するのがまた可笑しかったり。極めつけは結局二人とも「笑顔が素敵な人」という条件が一致した点。つまりそれはアレックスが本質的にはライアンの側の人間ではなくナタリーの側の人間だということ。実はこれは重要な意味を持っていました。即ち物語の後半への隠された布石になっていたのです。

二人からの影響で徐々に変わりつつあるライアン。ナタリーを連れての出張の合間に妹の結婚式用にたのまれた妹夫婦の写真パネルを持ち歩き、各地の名所でそれを使って写真をとるのですが、旅行用カバンからちょっとはみ出たパネルは彼の変化の象徴であるかのようでした。さて、結局ナタリーのアイディアが通り全ての出張はなくなります。ライアンはといえば妹の結婚式にアレックスと共に出席し、いよいよ二人の仲もより親密に…。生き甲斐だった出張もなくなり、今までの自分の生き方について自問自答するライアン。そして出した答えが「バックパックに入らない人生の荷物」を背負ってみようということでした。しかし！息せき切って向かったシカゴのアレックスの家で彼が見たものは…。

（ここからネタバレ含む）
何とアレックスには夫も子供もいたのでした。彼女曰く「家に来られたりしたら困る。」とか「お互いに割り切っていたはず」とか「あなただって現実からの逃避だった」とか…。まあ全てその通りですが、アレだけ美しくて素敵に見えていたヴェラ・ファーミガが、それだけに余計腹立たしく見えてしまう…。割り切った関係というには余りに心が通じ合っているかのように見えたのはヴェラの演技力が素晴らしいのか、はたまたアレックスの演技力が素晴らしいのか。（苦笑）しかし皮肉です。ライアンは元々こういう関係、こういう相手が“気楽な関係”だと自らも望み、そうして生きてきたのですから。

しかしよく考えてみると現代ではむしろライアンのような生き方をしている人はそう特別ではありません。極端に言えば、生身の人間、生身の異性と付き合うよりもパソコンのモニターを眺めているだけ、必要なものはそこから全て揃う、突き詰めるとそれが引きこもりというわれる状況です。必要最低限の他者との関係だけで生きていける社会、それは便利ではあるかもしれないけれど、本来人生はもっと充実して楽しいもの。他人との能動的でポジティブな関わりが、一人の時よりもその人生を何倍にも充実させてくれるのだと、そんなことを本作は教えてくれているようでした。

個人的おススメ度4.0
今日の一言：ノミニー３人で回す芝居は見応えアリ
総合評価：77点

↑いつも応援して頂き感謝です！
今後ともポチッとご協力頂けると嬉しいです♪