第82回アカデミー賞
『ハート・ロッカー』が6冠獲得! |
作品賞:『ハート・ロッカー』
イラク駐留アメリカ軍の爆発物処理班の兵士たちを描いた戦争映画だ。『ハートブルー』『K-19』のキャスリン・ビグロー。主演は「28週後...」のジェレミー・レナー、共演にガイ・ピアーズやレイフ・ファインズが出演している。次の瞬間に何が起こるか解らない極限の緊張感で手に汗握る展開に引き込まれる。
<マーク・ボール>
ありがとうございます。夢のようです。わたしたちはこの夢を、望んだ通りの才能たちと作り上げることが出来ました。ここに今、立っているということは、本当に想像すらしなかったことです。わたしたちの想像を超える評価を与えてくれたアカデミー協会には本当に感謝したいと思います。そして、お父さん、お母さん、ありがとう!
<グレッグ・シャピロ>
アカデミー協会の方々に感謝します。あまりに非現実的過ぎて恐縮してしまいます。役者陣とスタッフからは信じられないくらいに助けられました。もちろん、我らが勇敢なキャスリン・ビグロー監督にも!
<キャスリン・ビグロー監督>
この映画のために尽力してくれたロブとパトリックにもう一度感謝の気持ちを贈ります。彼らは本当にわたしたちを助けてくれました。世界中でユニフォームに身を包んでいるすべての男女、軍隊だけでなく、爆発物処理班の消防士や救命士のみなさん、あなたたちがわたしたちのためにいてくれているように、わたしたちもあなたたちのためにここにいます。ありがとう。本当に、ありがとう!
監督賞:キャスリン・ビグロー (『ハート・ロッカー』)
とても素晴らしい他の候補者たちと肩を並べること、わたしが尊敬し、またインスピレーションを与えてくれた歴代の製作者の一員となることは本当に特別なことです。そしてアカデミー賞のメンバーにも感謝します。本当に一生に一度の瞬間ね!
マーク・ボールがいなければ、わたしはここに立っていなかったでしょう。この脚本のページに並ぶ言葉のために、彼は自身の命を危険にさらしてまで、脚本のアイデアをつかみ、勇気ある脚本を書きました。そして、この脚本に命を吹き込んだ、素晴らしい役者たちと共に働くことが出来たわたしは何と幸運なのでしょう。
わたしは、監督の秘訣(ひけつ)は協力にあると考えています。そしてこの作品で、わたしのクルーは本当に素晴らしい協力者たちばかりでした。撮影中のわたしたちを温かく迎えてくださったヨルダンの皆さんにも感謝したいと思います。そして、わたしはこの賞をイラクやアフガニスタンだけでなく、世界中で命を危険にさらしている軍の皆さんにささげます。そして彼らが安全に帰宅できますように。ありがとう!
とスピーチした監督。女性監督としての初受賞でもあります。
主演男優賞:ジェフ・ブリッジス (『クレイジー・ハート』)
アカデミーのみんな、ありがとう! ママ、パパ、見てくれ! 僕をこんなグルービーな仕事に向かわせてくれてありがとう! 両親はショービジネスをとても愛していました。だから、(この賞は)わたしにと同時に両親に対してへの名誉でもあるのです。
それから、映画やカントリーミュージックの知識と、俳優に自信を付けさせてくれる能力を備えた素晴らしい監督、スコット・クーパーに感謝します。イェーイ、スコッティ! ありがとう! それに素晴らしいキャストを集めてくれたことにも。君たちが全身全霊を込めてくれたのは本当に素晴らしいことです。最高の音楽を実現し、素晴らしいミュージシャンをこのパーティーに参加させてくれた素晴らしいチームにも感謝します。みんなありがとう!
最後にわたしのゴージャスな妻に感謝します。僕らは結婚して33年になります。本当に素晴らしい家族に恵まれました。3人の娘、イザベル、ジェシー、ヘイリー、君たちがいなければわたしはここに上がっていなかった。本当にありがとう!
とスピーチしたジェフ・ブリッジス。出演作『クレイジー・ハート』は日本公開未定。うーん、早く観たい所です。
主演女優賞:サンドラ・ブロック (『幸せの隠れ場所』)
今夜ここにおいでの皆さんからノミネートいただいたこと、アカデミーに感謝します。ギャビー(ガボレイ・シディベ)、愛しているわ。あなたは最高よ! 言葉では言い表せません。キャリー、あなたの優美さと品位、美と才能には、気分が悪くなるわ(笑)。ヘレン、あなたは家族みたいで、あなたのことをどう思っているか表す言葉がありません。そしてメリル、わたしがあなたのことをどう思っているかよくご存じね? あなたは本当にキスがお上手!
わたしがこの幸運に恵まれたことに、感謝すべきたくさんの人々がいます。これは一生に一度のことだとよくわかっています。わたしにこの機会を与えてくださったテューイ家の皆さんに、今までとは違うことをする機会を与えてくれ、この映画を作らせてくださったことに感謝します。ジョージ・クルーニーは数年前、プールに突き落としてくれました。今でも恨んでます(笑)。
感謝したい人々がたくさんいますが、時間が足りないので、わたしにとってこの映画の持つ意味、つまり子どもたちを大事にするすべての母親、そして他の人より優れた人になるのに人種も、宗教も、階級も、色の違いも、性的傾向も関係ないのだ、と娘たちに説いてくれた母、ヘルガ・ブロックに感謝します。ありがとう!
とスピーチ。何とラジー賞の最悪主演女優にも選ばれて初の史上初の2冠獲得だとか。サンドラ姉さんすっごい綺麗です!
助演男優賞:クリストフ・ヴァルツ (『イングロリアス・バスターズ』)
オスカー像をペネロペから受け取るなんて、スーパービンゴだね(笑)! わたしはいつも新大陸発見を目指して行くべきだと思っていました。そんな時、探検を企画しているクエンティン・タランティーノを紹介されたんです。彼は、脚本をわたしの前に置いて「これが目的地だが、わたしたちはあっちから行くつもりだ」と言いました。
ブラッド・ピットがわたしの入隊を助けてくれ、ダイアン・クルーガーやメラニー・ロランらみんなが、わたしが落ち着くのを助けてくれました。ユニバーサルとワインスタインカンパニー、ICM、それに怖いもの知らずの探検家であるクエンティンが、彼独特のかじ取りでこの船を大成功に導きました。そのおかげでわたしは今ここにいるのです。これは皆さんへの歓迎表明であり、どんなに感謝してもしきれません。ありがとう!
とスピーチ。『イングロリアス・バスターズ』の物語の主人公はランダ大佐だといっても差し支えない名演技でした。
助演女優賞:モニーク (『プレシャス』)
まず政治的なことではなく、パフォーマンスそのものを評価してくださったアカデミー協会に感謝します。わたしの代わりにすべてに耐えてくださったハティ・マクダニエルに感謝します。この映画を取り上げてくれ、タイラー・ペリーとオプラ・ウィンフリー、あなたたちがこの作品にかかわってくれたから、世界中がこの映画を観てくれたんだと思います。わたしたちの弁護士として尽力してくれたアンダーソン&スミス法律事務所のリッキー・アンダーソン、ありがとう。わたしの番組のネットワークであるBETのみんな、わたしの映画「プレシャス」の仲間たち、本当にありがとう! 素晴らしい夫シドニー、あなたには一般受けする仕事ではなく、正しい仕事をすることの大切さを教えてもらいました。ベイビー、あなたが正しかったわ! 神の祝福あれ。
とスピーチ。出演作の『プレシャス』は4月24日(土)日本公開。これまた楽しみな一作です。
脚本賞:『ハート・ロッカー』
脚色賞:『プレシャス』
撮影賞:『アバター』
編集賞:『ハート・ロッカー』
美術賞:『アバター』
衣装デザイン賞:『ヴィクトリア女王 世紀の愛』
メイクアップ賞:『スター・トレック』
視覚効果賞:『アバター』
録音賞:『ハート・ロッカー』
音響編集賞:『ハート・ロッカー』
作曲賞:『カールじいさんと空飛ぶ家』
主題歌賞:『クレイジー・ハート』の“The Weary Kind”
長編アニメーション賞:『カールじいさんの空飛ぶ家』
外国語映画賞:『瞳の奥の秘密』(アルゼンチン)
長編ドキュメンタリー賞:『The Cove』
短編ドキュメンタリー賞:『ミュージック・バイ・プルーデンス』
短編実写賞:『The New Tenants』
短編アニメーション賞:『ロゴラマ』
アカデミー賞受賞結果をみて―
『ハート・ロッカー』と『アバター』の一騎打ちのように報じられていたが、事前の英国アカデミー賞、ゴールデングローブ賞などを見ると至極順当といったところか。この二作、どちらも甲乙付けがたい傑作だ。ただ異なるのは作品の方向性に過ぎない。圧倒的な技術力を存分に活かし、文字通り3D新時代の幕開けとなった映画史に残る作品『アバター』。一方『ハート・ロッカー』は現在進行形の戦争、それもあまり目立たない爆弾処理班の兵士を描いた作品で、戦争の現実を鋭く描いている。その驚異的な緊張感ある映像表現は、3Dならずとも我々を戦場に連れて行ってくれた。
2010年3月2日時点の情報では米兵で4380人、英兵で179人もの人間が命を落としている。平和ボケしている日本人が考えるより、米英国民にとってイラク戦争ははるかに身近な問題なのだ。今回は圧倒的な技術力・表現力よりも、その戦争の今を切り取った作品がアカデミー会員に支持されたということなのだろう。どちらが良い悪いではなく、私は今回の結果から、このようなある種両極端とも言える作品が同時期に生み出されるハリウッドの力の凄さ、底の深さに改めて驚かされた。キャスリン・ビグロー監督、ジェームズ・キャメロン監督、そしてノミネートされた監督と作品に心から賞賛を贈りたい。
さて、主演男優賞のジェフ・ブリッジスに関しては作品を観ていないので語る言葉を持ち合わせない。私の中では圧倒的にモーガン・フリーマンの好演が印象深いのだが、それをも凌駕するということなのだろう。作品を心待ちにしたいところだ。
主演女優賞のサンドラ・ブロック。『スピード』以来、良い女優ではあるものの今一つぱっとせず、何と今回アカデミーノミネートは初めてだ。しかし見事にマージャンで言うところの「リーチ一発ツモ」であった。しかもラジー賞最低女優賞と2冠というオマケつき。同時受賞は初めてだそうだがそりゃそうだろう。
DVDを台車に積んでラジー賞の表彰式にもきちんと出席し、「映画を見て気が変わったら教えてね。来年(2011年)、賞をお返しします。」とウィットに飛んだ切り返しを見せてくれるあたり、流石はサンドラ姉さんではないか!
アカデミー主演女優賞はここ3年、ヘレン・ミレン(英)、マリオン・コティヤール(仏)、ケイト・ウィンスレット(英)と外国勢が獲っており、更にメリルは上手いけれども作品的にそこまでのものはなく、キャリー・マリガンは個人的には大好きなのだが、演技的にはサンドラの方が良かった。
という訳で、今回はこんなチャンスはもう二度と来ないというほどのチャンスだったのだ。改めてサンドラ・ブロックにおめでとうと言いたい。
助演男優賞のリストフ・ヴァルツに関してはもう誰も文句なしだろう。第62回カンヌでも男優賞を獲っている。(余談だが女優賞は私の好きなシャルロット・ゲンズブールだ。)『イングロリアス・バスターズ』では実質主人公と言っても差し支えないぐらいの好演を見せてくれた。ランダ大佐にホンモノの勲章が与えられたということだ。助演男優賞のモニークに関しては作品を観ていないためここではコメントを控えたいと思う。だが、ジェフ・ブリッジス同様ノミネートだけでも素晴らしい演技であることは間違いない。益々作品が楽しみになるというものだ。
その他まとめて申し訳ないが、一点だけ。脚本賞は個人的にタランティーノ監督にあげてほしかった。確かに『ハート・ロッカー』も優れていたとは思うが、『イングロリアス・バスターズ』のあの絶妙な構成はそれ以上だったと思う。私はこれまでのどちらかというとコアなファン層に向けた作品が一皮向けて、タランティーノらしさを残しながらも、より多くの人々に楽しめる内容に仕上がっていたと確信している。それと『ザ・コーヴ』。観ていないものをどうこうは言えないが、しかし少なくとも町の人々は怒っている。一つの文化を自分たちの価値観のみで否定した映像が評価されるのは到底納得いかない。日本公開は恐らくないであろうが(3/9追記:夏公開予定だそうです。)、あっても彼らを利するような作品を日本人ならば観てはいけないと思う。
さて、これから録画していたアカデミー賞でアレックとスティーブの司会振りを楽しみたいと思うのでこの辺で。場合によっては加筆はあると思うが悪しからず…。
<鑑賞後追記…>
いやぁ、アレック・ボールドウィンとスティーヴ・マーティンのコンビが思ったより良かった!特にスティーヴは自分の庭に帰ってきたように実に活き活きとしゃべっていたのがとても印象的だ。途中であきらかに『パラノーマル・アクティビティ』を意識した2人のネタもあり、それが更にその後の伏線にもなってたり。アレだけのベテランだけにキツメのジョークも嫌味にならないところがまた面白い改めて観ていて『カールじいさんの空飛ぶ家』の2冠は素晴らしいものだと改めて実感。作曲賞であの優しい音楽が流れただけでまた思い出して涙してしまった。それにしても丁寧に観ていくとアカデミー賞にノミネートされるということがどれだけ大変なことか。一生に一度のチャンスの人だって沢山いるのだ。
まあ中には3度も4度も受賞している人もいたが…。そしてそのノミネートしている作品はどれも素晴らしいのだ。観ていない作品も、ダイジェストを観ているだけでもう日本公開が待ち遠しくて堪らない。が、たとえどんなに良質な作品でも2年も待たないと日本に来ないものもあったりする現実はちと悲しい。ここは配給会社さんに何とか頑張ってもらいたいものだ。最後に。映画番組に長年携わっている先輩の言葉を思い出した。「アカデミー賞はノミネートに価値がある。結果は会員の好みでしかない。」確かにそうだと思う。
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