パリ20区、僕たちのクラス
2008年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝いた作品。移民の子弟がい多いパリ20区にある中学校を舞台に、様々な子供たちとその担任との間に起こる出来事を1年間に渡って追いかけたドキュメンタリー風ドラマだ。本作の原作である「教室へ」の作者、フランソワ・ベゴドーが主演を務めている。監督はローラ・カンテ。24人の生徒たちはいずれも演技未経験ということに驚かされる。>>公式サイト
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まずこれがドキュメンタリーでないことに驚かされる作品。フィクションと言うことはそこに多少なりとも脚色が存在するはずなのだけれど、そういった部分を全く感じさせないのです。理由の一つには生徒たちの存在があるでしょう。聞くところによれば、生徒役の24人はオーディションで選ばれたとはいえ、演技に関しては全く未経験だとか。この作品の場合は、その未経験な部分と今正にリアルタイムで思春期を生きる彼らが放つ子供らしい空気感が真実味を持たせていました。それにしても本作を観ると、今まで数々のフランス映画やテレビ等の映像から受けていたフランス人やフランスという国に抱いていたイメージの根源を垣間見た気がします。つまり、言うまでも無くその国の国民を形作るのは教育であり、実際にどんな教育を受けていて、学校でどのような日常を送っているのかは非常に興味深いものがあるから。
クラスの様子はぱっと見たところ、アメリカなどでも良く見られる風景です。服装は自由で、アクセサリーも自由。授業中にガムを噛み、教師に対してもやたらとフランクな語り口。最近の日本では学級崩壊が叫ばれた久しいものの、基本的に日本人とは何と勤勉で規律を守り重視する国民性なのかとつくづく感じます。もっともフランスとてアメリカ同様に多くの移民を受け入れており、クラスにも白人・黒人・黄色人種、具体的にはアフリカのマリ出身だったり中国出身だったりと、そもそもの価値観や宗教が異なる子供たちがいる以上、画一的な決め事で縛るのは難しいのかもしれません。担任のフランソワ(フランソワ・ベゴドー)は国語の教師。彼は生徒たちが吹っかけてくる意見に対して一々論理的に答えていくのですが、それには単純に専門教科以外にも人間として幅広い知識を必要とする訳で、あちらの教師の懐の深さがうかがえました。
多彩な個性の集合体である教室には、当然のことながら優等生もいれば劣等性もいます。しかし、彼らの発想や発言は常に自由であり、時として勉強は出来なくともハッとさせられるのでした。例えば自己紹介文を書いてくるという宿題。字も上手くかけないスレイマンという生徒は、デジカメで自分や家族、身の回りの友人を写真に撮ってきます。フランソワはそこに簡単なキャプションをつけるように指導するのですが、正にこれこそ豊かな発想力というもの。自己紹介文を書かせる目的は、自分と自分を取巻く環境を客観的に見直すことであり、それを皆に説明することでお互いの理解を深めることでもあります。従って必ずしも文章である必要はありません。日本だったら、手抜きしないできちんと書いて来いとでも言われるのではないでしょうか。
もちろん何でも自由勝手に解釈してよいわけではありませんが、事の本質を把握してどのようにそれを達成するのかを自分で考えること、日本の教育に足りない点の一つがこんなシーンに見受けられました。それにしても、自由や権利、平等に対する意識は、例えそれが子供であっても非常に高いのがいかにもフランスらしいです。驚かされたシーンの一つに成績評定会議がありました。教師が集まり全ての生徒の成績評定を議論するその席に、生徒代表の2人を同席させるのです。しかも発言まで許される…。これは流石に日本人的には考えられませんし、それが本当に生徒の為になるのかは疑問でした。案の定というか、この2人の参加者から生徒の成績が外に漏れることになります。そしてそれが原因でフランソワのクラスに問題が起こり、自己紹介文の宿題で素晴らしい発想をしたスレイマンは懲罰会議にかけられ退学となってしまいます。
ここにも私はフランスらしさを垣間見た気がしました。実際スレイマンの起こした問題行動は教師への暴言、無許可で教室からの退室、そして退室の時たまたま彼のバッグが女子生徒にあたり軽い怪我をさせてしまったというもので、日本であれば退学はあり得ないでしょう。そもそも中学生は義務教育ですし。つまり、日本人から観たら過剰なまでの自由、そこには代償として責任や義務が付随しており、今回の場合それは学校のルールを守ることであり、クラスの秩序を守ることだった訳です。たとえ子供であろうとも、一人前の権利と自由を当然の如く与える教育、それがもたらす自由闊達な議論、彼ら教師と生徒のやり取りが必ずしも良いことだと私には思えません。しかし、今の国際社会上で自分の意志を強固に表明することが余り無い日本人としては、それの気概を自然と養う教育の一つのあり方ではあるのかもしれません。
個人的おススメ度4.0 今日の一言:ホント生意気なガキたちだ… 総合評価:74点
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『パリ20区、僕たちのクラス』予告編
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» 近日公開 アンチ金八先生映画 『パリ20区、僕たちのクラス (Entre les Murs)』 [yohnishi's blog (韓国語 映画他)]
カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した作品。パリ20区の移民の子弟の多い地区の中学校における、理想主義に燃えた教師の奮闘と生徒とのやりとりをドキュメンタリーかと見まがうタッチで描いた作品。原題は『Entre les Murs』で直訳すれば「壁の間で(英訳ならbetween the walls)」となるが、なぜか日本人のブログやWeb上での紹介では「壁の中で」と訳しているケースが多い。公式な邦題は『パリ20区、僕たちのクラス (公式英題は The Class)』に決まった。原題は、教室内...... [続きを読む]
受信: 2010年6月15日 (火) 23時51分
» 『パリ20区、僕たちのクラス』(2008)/フランス [NiceOne!!]
原題:ENTRELESMURS/THECLASS監督:ローラン・カンテ原作:フランソワ・ベゴドー出演:フランソワ・ベゴドー観賞劇場 :岩波ホール公式サイトはこちら。<Story>パリ20区の中学校... [続きを読む]
受信: 2010年6月20日 (日) 08時29分
» 映画:パリ20地区 多民族国家ならではの教育現場に直面する、教師の苦闘 [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
久々の岩波ホール。
オリベイラの新作は見逃してしまったが、次の作品がパルムドールを獲得してから、丸2年待たされた今作ということで、さっそく駆け付けた。
ほぼ全編、この映画は原題通り「教室」という場でのみで展開する。
ところがこの教室、密室というにほど遠い「カオス」に溢れかえっている。
世界のあらゆる人種がぐちゃぐちゃに入り乱れ、正に「メルティング・ポッド」状態。
パリ20地区は、まさにそういう状況の地区らしいことがわかる。
肌の色、宗教、生活レベルがまちまちの人たち、しかもそれは子供たちなので... [続きを読む]
受信: 2010年6月21日 (月) 05時51分
» *『パリ20区、僕たちのクラス』* ※ネタバレ有 [〜青いそよ風が吹く街角〜]
2008年:フランス映画、ローラン・カンテ監督、フランソワ・ベゴドー原作&脚本&出演、ローラン・カンテ、ロバン・カンピヨ脚本、24人の生徒たち出演。 [続きを読む]
受信: 2010年6月27日 (日) 00時54分
» 『パリ20区、僕たちのクラス』 教育の場に登場したのは? [映画のブログ]
上海といえば、黄浦江(こうほこう)に沿って林立する高層ビル群が有名だ。
日本とは建築基準が異なるためか、東方明珠電視塔(とうほうめい... [続きを読む]
受信: 2010年7月 2日 (金) 02時59分
» 『パリ20区...』のローラン・カンテ監督作品『人事 (Ressources humaines)』 [yohnishi's blog (韓国語 映画他)]
『パリ20区、僕たちのクラス』が結構面白かったので、ローラン・カンテ監督、これ以前にどんな作品を撮っていたのだろうと情報を漁ってみたら、フランスで、『パリ20区、僕たちのクラス』のカンヌ映画祭パルム・ドール受賞を記念して、ローラン・カンテ監督作品集DVDボックスが発売されているのを知った。そこでそれを通販で取り寄せてみたのだが、本作はその中の収録作品の一作で監督の1999年の作品。単品DVDでも販売されているようだ。インターンシップで故郷の父が働く工場に来たエリート大学生が、資本のロジッ...... [続きを読む]
受信: 2010年7月10日 (土) 11時04分
» 「パリ20区、僕たちのクラス」:大久保二丁目バス停付近の会話 [【映画がはねたら、都バスに乗って】]
{/kaeru_en4/}{/onpu/}花屋の店先に並んだいろんな花を見ていた〜{/onpu/}
{/hiyo_en2/}って、あんたは、SMAPか。
{/kaeru_en4/}いや、「パリ20区、僕たちのクラス」なんて観ると、「世界にひとつだけの花」じゃないけど、子供もひとりひとりみんな違うんだなあって思ってさ。
{/hiyo_en2/}ひとつのクラスに集まったパリの中学生たちと教師の話なんだけど、白人もいれば黒人も中国人もいるっていうクラスだから、「金八先生」なんかとは雰囲気が全然違うわね。... [続きを読む]
受信: 2010年8月 1日 (日) 10時55分
» 映画「パリ20区、僕たちのクラス」教えること、教えられることについて考える [soramove]
「パリ20区、僕たちのクラス」★★★★素晴らしい!
フランソワ・ベゴドー、24人の生徒たち 出演
ローラン・カンテ監督、128分 、2010年6月12日より順次公開、2008,フランス,東京テアトル
(原題:Entre les murs )
→ ★映画のブログ★
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「パリ20区にある中学校の、ある教室。
母語も出身国も異なる24人の生徒たちと、
彼らと正面から向き合う教... [続きを読む]
受信: 2010年8月 2日 (月) 07時22分
» 『パリ20区、僕たちのクラス』 [シネマな時間に考察を。]
四角い教室に閉じ込められた現代社会の縮図。
教えることと、教えられること。
誰もがせいいっぱい、自己主張。
ぶつかり合って離れあって引き寄せあう。
そんな1日1日が、一度きりの今日となる。
『パリ20区、僕たちのクラス』
2008年/フランス/128min
監督:ロー... [続きを読む]
受信: 2010年8月12日 (木) 12時48分
» パリ20区、僕たちのクラス [映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子公式HP]
まるでドキュメンタリーのような作品だがれっきとした劇映画で、フランスの今を切り取った作品といえる。国語教師のフランソワは、24人の中学生たちに手をやく毎日だ。スラングばかり使う、反抗的な態度をとる、出身国が違うためにケンカが絶えないなど、問題....... [続きを読む]
受信: 2010年8月27日 (金) 00時03分
» パリ20区、僕たちのクラス(2008) [銅版画制作の日々]
ENTRE LES MURS(フランス語)THE CLASS(英語)
笑って、怒って、ぶつかって生きる。教師フランソワと24人の生徒達。数々の賞に輝いた本作、京都でも先週の土曜日から公開されました。京都シネマは、ミスチルの映画はもちろんのこと、キャタピラー、トイレット、すべてが満席・立ち見と盛況でした。そして本作も開場直前に、同じく満席です。何とか座って観れたので助かりました。ドキュメンタリー?最初はそんな気がしました。実は正真正銘のフィクションだそうです。その上驚いたのは先生役のフランソア・べ... [続きを読む]
受信: 2010年9月 8日 (水) 10時24分
» パリ20区、僕たちのクラス [Diarydiary!]
《パリ20区、僕たちのクラス》 2008年 フランス映画 -原題 - ENTRE [続きを読む]
受信: 2010年10月16日 (土) 22時18分
» 「パリ20区、僕たちのクラス」感想 [狂人ブログ ~旅立ち~]
実際に国衙教師としての経験を持つフランソワ・ベゴドーの小説を、本人脚本、主演で映画化。様々な人種が住むパリ20区の中学校を舞台に、ある問題児だらけのクラスを、担任教師... [続きを読む]
受信: 2010年10月26日 (火) 20時23分
» 「パリ20区、僕たちのクラス」 [はぎおの「ツボ」note]
今年は「映画イヤー」と決めて、1本目に選んだのはこちらdarr;
nbsp;
[続きを読む]
受信: 2011年1月10日 (月) 13時06分
» パリ20区、僕たちのクラス [シネマDVD・映画情報館]
パリ20区、僕たちのクラス
監督:ローラン・カンテ
移民が多く暮らすパリ20区の公立中学校。正しい国語を身につけさせることこそ生徒たちの将来の幸福につながると信念を持つフランス語教師のフランソワだったが、様々な出身国を持つ24人の生徒たちが混じり合う新学期の教室で、思いがけない反発や質問に翻弄されてしまう。去年は素直だったクンバは反抗的な態度で教科書の朗読さえ拒否する始末だ。また、自己紹介文を書かせる課題が大きな波紋を巻き起す。...... [続きを読む]
受信: 2011年3月21日 (月) 07時24分
» パリ20区、僕たちのクラス [ダイターンクラッシュ!!]
2011年3月27日(日) 15:05~ キネカ大森2 料金:1000円(Club-C会員料金) パンフレット:未確認 パリ20区、僕たちのクラス [DVD]出版社/メーカー: 紀伊國屋書店メディア: DVD 「パリ20区、僕たちのクラス」公式サイト カンヌ映画祭パルム・ドール作品。 モキュメンタリーな感じで、パリにある問題児の多い学校のフランス語教師と担任しているクラス24人の中学生の中2の1年間を描く。 モキュメンタリーであるし、パルム・ドール採るような映画は感動作というより作家性... [続きを読む]
受信: 2011年3月27日 (日) 21時07分
» パリ20区、僕たちのクラス [C'est joli〜ここちいい毎日を〜]
パリ20区、僕たちのクラス’08:フランス◆原題:ENTRE LES MURS/THE CLASS◆監督:ローラン・カンテ◆出演:フランソワ・ベゴドー、ナシム・アムラブ、ローラ・バケラー、シェリフ・ブナ ... [続きを読む]
受信: 2011年4月19日 (火) 16時08分
» パリ20区、僕たちのクラス [小部屋日記]
ENTRE LES MURS(2008/フランス)【DVD】
監督・脚本: ローラン・カンテ
出演:フランソワ・ベゴドー/ローラ・バケラー/シェリフ・ブナイジャ・ラシェディ/ジュリエット・デマーユ/ダラー・ドゥコゥール
笑って、怒って、ぶつかって生きる。
教師フランソワと24...... [続きを読む]
受信: 2011年5月 7日 (土) 13時00分
» 喪中映画評「パリ20区、僕たちのクラス」 [プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]]
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2008年フランス映画 監督ローラン・カンテ
ネタバレあり [続きを読む]
受信: 2011年5月29日 (日) 13時13分
» 『パリ20区、僕たちのクラス』'08・仏 [虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映...]
あらすじ問題ありの生徒たちに囲まれて、この中学校に来て4年目になる国語教師フランソワの新学年が始まった・・・。感想カンヌ国際映画祭パルムドール受賞『チェンジリング』でも... [続きを読む]
受信: 2011年6月20日 (月) 09時18分
» 『パリ20区、僕たちのクラス』'08・仏 [虎団Jr. 虎ックバック専用機]
『フリーダム・ライターズ』って同じく実話物の映画に、設定は酷似してるんですが全然 [続きを読む]
受信: 2011年6月20日 (月) 09時21分
» 「ミックマック」「パリ20区、僕たちのクラス」仏映画2本立て [国内航空券【チケットカフェ】社長のあれこれ]
ミックマック
「アメリ」「デリカテッセン」のジャン=ピエール・ジュネ監督最新作、「ミックマック」を見ました。
オシャレでおバカでかわいい反戦映画、おもしろすぎてけしからん!って感じです。
ストーリーは、父の命を奪った地雷を作っている軍事会社と、自分の運命を... [続きを読む]
受信: 2011年7月22日 (金) 19時18分
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