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2010年6月 1日 (火)

BOX 袴田事件 命とは

Box 1966年に起きた「袴田事件」、実際にまだ袴田死刑囚は45年近い長きの間を拘置所の中で恐怖におののきながら生きている。本作はその裁判を担当した3人の裁判官の内の一人で、納得が行かないまま判決を下してしまった熊本裁判官の苦悩を描き出している。主演の裁判官を『いけちゃんとぼく』の萩原聖人、袴田巌役を『蟹工船』の新井浩文が演じる。監督は『禅 ZEN』の高橋伴明。
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現在進行形です。事件を風化させないで!

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過去に死刑判決確定後に再審無罪を勝ち取ったのはいわゆる四大冤罪事件(免田事件、財田川事件、島田事件、松山事件)だけ。しかし今年に入って足利事件で無期懲役判決を受けていた菅家さんが再審無罪となったように、世の中の冤罪事件への感心が高まって来ています。しかし、本作に描かれる袴田事件はそもそも最初から、現在の極一般的な常識に照らし合わせたらどう考えても冤罪としか言いようが無い事件。2007年、この袴田事件の地裁判決を下した3人の裁判官の一人、熊本典道氏が「私は無罪を確信していた」と語ったことから、本来は全会一致の原則であるはずの判決に、不服を持った裁判官がいたことが明らかになりますが、本作はその熊本元裁判官を主人公に彼の目線で描かれた作品となっています。

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裁判官のシンボルは「真実をくもりなく映し出す」と言われる八咫鏡(やたのかがみ)が用いられていますが、劇中ではいかに濁った目でこれほどの事件を見つめ判断してきたのかが描かれていました。もちろん作品は袴田事件を冤罪であるという立場から製作されていますから、これをそのまま鵜呑みにして元裁判官や警察官、検察官を批判することは、結局彼らが辿ってきた道を繰り返していることになってしまいます。しかしそれにしても、よりによって死刑のかかった判決を多数決で決めるとは呆れてものが言えません。私は死刑制度は絶対に必要だと思っています。しかしだからこそ、例えどれだけの時間を費やそうとこのような安易な判断を許してはいけないとも思っています。

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萩原聖人演じる熊本裁判官をみていると、司法の大原則「疑わしきは罰せず」すなわち推定無罪を貫くことがいかに困難なことなのかが良く伝わってきました。例えば、日本の刑事裁判の有罪率は99%と言われていますが、その原因の一つが自白至上主義。この事件でも袴田さんがいかに自白に追い込まれていくのかを克明に描いています。劇中の犯罪心理学者の先生は、人は一定以上の圧力を与えられ続けると、たとえ死刑という結果がわかっていても目先の解放に逃げてしまうと言っていますが、同じことを足利事件の菅家さんが実体験として話しておられたのを思い出しました。即ち「今は認めて楽になりたい。裁判官に後でちゃんと話せば解ってくれるだろう。」そう考えてしまうと。

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しかしその“後で”の裁判官が全く頼りにならない。やはり少しでも早い取り調べの全面可視化が実現されることが必要だと改めて感じました。さて、最初に書いた通り、熊本元裁判官の目線で描かれている本作では、彼が事件の供述調書を読むのに合わせ、袴田死刑囚の様子が映し出されてゆきます。したがってここに映し出される内容はあくまでも調書の映像化であり真実かは解りません。更に死刑確定後の拘置所内の彼の様子(死刑執行への恐怖から精神が不安定な状態になっている)ももちろん実際に見ることなど出来ませんからあくまでイメージ映像です。しかし、獄中から彼が出している手紙は紛れもなく本物であり、そこに綴られている心情は察するに余りあるものでした。

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毎朝刑務官の足音が遠くから聞こえてくる。緊張感が極限まで高まり、自分の房の扉を通り過ぎるとまた一日生き延びたとホッとする。袴田死刑囚はそんな毎日を45年近く今現在も続けているのです。私は同情の余地のない明らかな死刑囚に対しては、むしろその恐怖を死ぬまで続けてもいいとすら思っています。しかし彼はそうではありません。ある時は狂気に満ちた表情、ある時は魂が抜けたかのような表情、新井浩文はそれら袴田死刑囚の心理をどのように想像し演じたのか…。無論本当にその気持ちを理解することなどできない事は承知の上でしょう。ただ、彼がもともと持っている人間臭さがリアリティある演技に繋がっていたのは事実です。取り扱っているテーマとしては非常に重く重要であり、現在の司法制度に一石を投じる作品であるのは間違いありません。

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しかし、作品としてちょっと気に入らなかったのは、後半になるに連れ熊本元裁判官の心情表現に傾き過ぎた作りになっている点でした。熊本氏が自分の判断にどれほど苦しまれてきたのかは非常に良く解ります。何しろ裁判官の職を自ら辞した程ですから。しかし熊本氏はご自分のブログでも「僕のことなんかどうでもいいんです 袴田君が1日も早く自由になってくれることが大切なんです それだけです。」と書かれています。背後に袴田死刑囚の幻が現れるといった演出は明らかにやり過ぎで、この事件が現在進行形で続いている現実であることを薄める効果になりかねません。熊本氏の心情はもう死刑確定後は不要、その分を前半の事件の描写や起こった出来事を描くのに使うべきでした。

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細か過ぎるほどの細かい丁寧な描写の積み重ね、それが見る人の心に真実を映し出し、この事件の、袴田死刑囚の再審無罪を勝ち取るための力になるのではないかと思うのです。私は静岡の出身です。ですからこの事件のことはこの映画を観るまでもなく知っていましたし、あらましも基本的には解っていました。しかし、そうではない多くの方々に事件を知ってもらうには、ちょっと演出手法がずれていたのではないかと感じました。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:この作品にエンタメ要素は不要でしょ。
総合評価:71点

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『BOX 袴田事件 命とは』予告編

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