おのぼり物語
カラスヤサトシの同名漫画の実写化。大阪から上京してきた売れない漫画家・片桐聰がなれない東京でくじけそうになりながらも夢を追い求める姿を描いた青春ドラマだ。主演はミュージカルで活躍する井上芳雄。共演に肘井美佳、八嶋智人。監督は本作が長編デビュー作となる毛利安孝。哀川翔、江口のりこ、チチ松村、水橋研二ら豪華かつ個性的なゲストにも注目だ。 |
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カラスヤサトシの漫画はよく読んでいる訳ではないけれど、あの独特の絵が何だか見ているだけで愉快で楽しくなってきます。いきなり余談ですが、最近では週刊少年マガジン連載で私の好きな『もうしませんから』(西本英雄)というルポ漫画の中にも結構登場してくれたり。その本人が大阪から上京して来て、まだ全然売れない頃を描いた『おのぼり物語』という漫画を実写映画化したのがこの作品です。ちなみにミュージカルを観た事が無い私は、この作品の主人公・片桐聰を演じる井上芳雄がその世界では有名だということは全く知らず、この作品でその存在を認識しました。実は映画も『ハミングライフ』と『夢のまにまに』に出演しているようですが主演は初めて、とはいえ舞台俳優として一流の方だけにその演技は流石に上手いですね。
ところで今は「おのぼりさん」と言って最近の若い人は解るのかな…。ざっくりいうと、地方から上京して来て都会に慣れていない人間をからかった表現として使われます。かく言う私も22年前は「おのぼりさん」でした。本作では聰が住んでいるアパートから見える田無タワーを東京タワーと思い込んでいたりする辺りが「おのぼりさん」なのですが、そもそも私と違うのは彼の場合、売れないとはいえプロの漫画家として仕事のために上京してきたという点。ところが、その連載がスタートして間もなく、雑誌は休刊に…。とりあえず他の出版社に原稿を持ち込むも「面白くない」と一刀両断。売れっ子への道は遠いのだけれど、それそのものは漫画家の下積みシーンとしてはトキワ荘の昔から良くあるお話です。ここで負けるもんかと一念発起、漫画家として一人前になる夢に向かって邁進する……なんて都合のいい話はあるわけも無く、聰は極普通に心が折れそうになるのでした。
まあ、なれない土地でいきなり無職になれば生活の心配も含めて不安になるなというのが無理な相談です。そんな彼の支えになったのが3人の人物。つまり本作を整理すると、カラスヤサトシが世に出るまでに彼を支えた3人の人物と彼との関わりを描いた作品と言う事が出来るでしょう。その内の一人が大阪時代の高校の同級生で“先輩”こと野島由美子(肘井美佳)。彼女はカメラマンになるのが夢で、聰より一足先に上京し働いていました。いつだって元気に聰を励ます由美子だけれど実は彼女もカメラマンとして全く芽が出ないジレンマと戦いながら生きています。この由美子は傍から見ていても聰に好意を寄せていますが、聰はそれに気付かない…。この辺の微妙な心の距離感の表現が実に上手く、近づいたかと思うと遠ざかり、遠ざかったかと思いきやまた接近する。個人的にはいい加減彼女の気持ちに気付いてあげろよ!と言いたくなるのですが…。
いや、正確には彼も薄々気づいてはいたのでしょう、しかしこのときの聰は自分の事で一杯一杯なんですね。結局由美子はカメラマンの道を諦めて大阪に帰ってしまいますが、酔い潰れた聰にキスをする様子を引き戸の飾りガラス越しに見せる演出は、彼の事を好きだという彼女の気持ちを、我々観客にすら最後まで素直に見せないという、彼女の健気な意地を表しているかのように見えました。さて、聰を支えたもう一人の人物、それは彼の担当編集者である小野(八嶋智人)。必ず喫茶店で打ち合わせをするのだけれどこれがまた面白い。聰はアイスコーヒー、小野はビールを飲むというのが定番スタイルなのだけれど、これが小野は一度だって聰の作品を評価する発言をしないのです。「全然つまらない」、「まあこれでいいや。」とか。しかし決まっていうのが「片桐君は今にきっと忙しくなると思うんだよね。根拠は無いんだけど。」という台詞。
最初は「何を適当なこと言ってんだ。」と思っている聰も、会うたびに同じことを言われるとなんだかその気になってくる訳で。小野のよく解らないけどそう確信している表情は、八嶋智人が演じることで説得力150%増しです。相変わらず個性的な役どころが上手い俳優さんですね。それでは聰を支えた3人目の人物とは誰なのか。それは彼の父親でした。そもそも漫画家になることに反対だった父、そんな父がガンで倒れたのです。しかも余命は後僅か。父の命のトウソクの火が燃え尽きようとするのとは正反対に、漫画家カラスヤサトシの命の炎はここから勢い良く燃え上がり始めるのでした。三者三様にいずれも「頑張れ!」と心から応援してくれる存在。そうした自分の事を陰に日向に支えてくれた人々への感謝の気持ちが溢れた作品だったと思います。エンドロール後のカットからはもう「おのぼりさん」な感じがしなかったのですが、どのぐらいの時間が過ぎたのでしょうか?
誇示的おススメ度3.5
今日の一言:幾らなんでもゆっくりすぎかな。
総合評価:69点
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『おのぼり物語』予告編
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