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2010年7月20日 (火)

樺太1945年夏 氷雪の門

Photo 金子俊男の『樺太一九四五年夏・樺太終戦記録』を映画化した1974年の作品。しかし当時はソ連の圧力により極短期間に僅かな劇場で公開されたのみで幻の名作と言われていた。終戦後に樺太に侵攻したソ連軍の前に、最後まで電話交換業務を続けた9人の乙女たちが自ら命を絶つ瞬間までを描く。監督は村山三男。藤田弓子や二木てるみ、丹波哲郎、南田洋子ら日本を代表する俳優が出演している。
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「負けた国に国際法はない」だと?

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この作品を観て何も感じないとしたら、その人はもう日本人ではない。そう言い切れる作品だった。先の大戦での沖縄での悲劇は数多くの映画やドラマで語られているが、当時は日本領であった樺太での物語は今まで殆ど目にする機会が無かった。この作品は、9人の樺太・真岡郵便電信局の乙女たちが、終戦後のソ連の侵攻が迫る中で最後まで電話交換業務を続けた上自決したという悲劇を描いている。1974年に製作されたにも関わらず、その内容のため、ソ連の圧力により公開を予定していた東宝系劇場が手を引き、結果極僅かな劇場で超短期間上映しかされなかったという。いずれにしても恥ずかしながら北海道は稚内公園にあるという「氷雪の門」とその脇に佇む「九人の乙女の像」に関して私は全く知らなかった。作品はその象の碑文である「みなさん、これが最後です。さようなら、さようなら」という、9人の乙女たちが自決する前の最後の言葉から始まる。

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終戦の数日前ということを考えると、本土では大空襲で焼け出され、沖縄は玉砕、広島と長崎には原爆が落とされ、もはや日本が壊滅状態であったはずなのだが、スクリーンに映し出される様子は実にのどかな風景。言われなければ樺太だとは全く解らない。登場する多くの電話交換手が関根律子役の二木てるみや坂本綾子役の藤田弓子、仲村弥生役の木内みどりと、私が物心ついた時には既におばさん役として認識していた女優の若くて美しい姿を観ると、これが今から36年前に作られたのだと妙に納得してしまった。ちなみに若かりしで言うならば、若林豪や丹波哲郎、黒沢年男、赤城春恵、田村高廣 、南田洋子などなど、既にお亡くなりになった方、今も活躍されている方含めてそうそうたる面々が出演している。世代によって受け止め方は違うにせよ、「ああ、こんなところにこんな人が!」的な発見は多いだろう。

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簡単に言ってしまうと、物語は終戦直前にソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して南樺太や千島列島、満州国などに侵攻してきたのが発端。当然日本は反撃にでるが、ご存知のとおり8月15日には玉音放送で終戦が告げられることとなる。日本軍は自衛のための交戦は続けることを許可するのだが、いずれにしたところで多勢に無勢、一方的に蹴散らされていく。印象深かったというか、悔しかったのが丹波哲郎扮する鈴本参謀長がソ連軍に対して降伏しているのだから侵攻をやめよと非難しに行ったシーンだ。そ知らぬ顔をして上からの命令だと嘯く相手に国際法を守れと詰め寄ると「負けた国に国際法はない。帰れ。」と強弁されてしまう。結局のところ現代に到るまで、敗戦国だからこそ蒙っている不利益は有形無形で多々あるのだが、もしかしたらこれはその最初の事例と言っても良いのかもしれない。

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しかし100歩譲って侵攻までは勝者の論理で諦めるとしても、無抵抗な避難民たちを皆殺しにすることなど許されるはずもなく、平和ボケしている私などからすると、これは本当にあったことなのかとさえ思ってしまった。もちろん、日本とてアジアで同じことを少なからずしている訳で、ソ連人がそれをしないことの方が不思議なのかもしれないけれど。スクリーンでは、真岡郵便局電信局の交換手たちの家族が必死で非難する様子や、夫の戦場での様子などがパラレルに描かれていく。結局樺太は放棄し本土引き上げが決定するのだが、交換手の女性たちは残って業務を続けることを希望するのだった。それは行方不明の家族を待っていたり、病の母親がいたりと理由は様々だけれども、何より彼女たちは樺太で生まれ樺太で育ったからだ。そして自分たちの仕事に誇りを抱き、その職場で彼女たちなりに戦っていたからなのだ。

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家族たちの無事を祈りながらも最後の最後まで業務を続ける乙女たち。何故逃げないのだと欧米人は思うかもしれない。決して命を粗末にしているわけではないのだ。しかしこの辺は日本人のメンタリティとしかいいようがないだろう。家族の無事を願い、それでも与えられた己が責任を果たすことに美徳を感じ、生き甲斐を感じるのが日本人の感性なのだ。まさに郵便局の下にまでソ連兵の足音が迫ってきた時、律子は唯一繋がっている回線で石碑の文言「みなさん、これが最後です。さようなら、さようなら」という言葉を残し、そしてその場の9人全員が自決する…。村山監督を始め殆どがお亡くなりになられているこの作品、当時の助監督だった新城卓氏が偶然にも発見したフィルムを元に上映に漕ぎつけてくれたそうだ。彼女たちの魂が伝わる貴重な作品に再び日の目を観させてくださったことにただただ感謝するのみである。

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36年前は観たくても殆どの方に観るチャンスすらなかった作品が、今回は少ないとは言えども全国で公開される。観るも観ないも今度は私たち自らの手に委ねられたのだ。出来うるならば、多くの方々にこの作品に携わった全ての方々の想い、そして何より、本当は生きたかったのに死を選ばざるを得なかった9人の女性たちの想いを感じ取って欲しいと思わずにいられない。

個人的おススメ度5.0
今日の一言:九人の乙女の像、いつか行きます。
総合評価:95点

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