日本のいちばん長い夏
昭和38年、『文藝春秋』の編集者・半藤一利が行った総勢28名による大座談会。それを文劇士のスタイルで映画化した作品だ。ジャーナリスト、小説家、漫画家、アニメ監督などなど各界から多彩なキャストが一挙大集結し、それぞれが当時の知識人・政治家・官僚・元軍人の役割を演じながら座談会を再現していく。ジャーナリストの鳥越俊太郎や田原総一朗らテレビでお馴染みの顔も登場する。 |
面白い試みの戦争特番だが… |
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木場勝己が演じる演出家が息子夫婦とともに父の墓参りに訪れる。しかしそこで父から戦争の話を全くといってよいほど聞かされていないことに気付くのだった…。最初は木場勝巳自身が監督した作品かと思いきやそうではなく、監督はあくまでも倉内均。しかしながら彼は劇中の文士劇を演出する監督という役割であり、その文士劇自体がまた本作そのものでもあるという何とも混乱するような設定になっている。もっともそのこと自体は話の流れそのものに影響があるわけでもない。要はとある演出家が、昭和36年に『文藝春秋』誌上で行われた、太平洋戦争に密接に関わりを持った人々28名を集めた大座談会を再現する様子を映画にしたということだ。
ちなみに本作は公開に先駆けてNHKが2010年7月31日にBShiの『ハイビジョン特集』で放送している。個人的にはこうした戦争を扱った作品は、有料の映画にするのではなく、地上波で普通に放送すべきだと思うのだが…。文士劇というだけあって、座談会のメンバー28名ははいわゆる各界の著名人が演じているのだけれど、これがまあ錚々たる顔ぶれ。ジャーナリストの田原総一朗や鳥越俊太郎、弁護士の湯浅卓、スポーツキャスターの青島健太、アニメーション監督の富野由悠季、脚本家の市川森一、NHKアナウンサーの松平定知、料理評論家の山本益博、漫画家の江川達也……などなど、名前で言われて解らなくても見れば大抵は「あぁ!」と思うはず。
劇中では終戦間際、無駄と知りつつもソ連を通じた和平交渉の裏話や、ポツダム宣言受諾を決める御前会議までの背景を、政府の内部の立場や、軍部としての立場、末端の将兵、民間人などが実際に経験した話を語ることで進めていく。実際にその立場にいなければ解らない情報や現実というのは、教科書からは決して学べない歴史の真実を知りえるという意味において非常に有意義であり興味深い。それぞれの置かれた状況で、考え方の相違はあれども、何とか国体を護持しようと懸命に努力をしていた様子は覗えたのだが、悲しいかなそれが国の方針として一つのベクトルを構成しえていなかったことが赤裸々に明かされていくに到っては、怒りというよりも諦観を覚えるしかなかった。
ところどころに挟まれるドキュメントシークエンスでは、実際のフィルムを見せつつ歴史的事実を整理しながら話は進められていくため、今何に関して語られているのかが解らなくなることはない。これは実に親切な演出だ。更に折に触れて挿入される出演者の文化人たちに対するインタビューでは、彼らが実際に戦争と自分の関わりを話してくれる。これは今現在テレビ等で馴染みの顔ぶれだけに非常に現実感があって面白い。個人的には田原総一朗の話に一番説得力を感じた。他が戦争経験者である父親との関係を話すことが多かったのに対し、彼は終戦時既に11歳、自身が経験し感じたことを話してくれたからだ。海軍に入るつもりが玉音放送を聴いて家の二階で不貞寝したというエピソードは、正に実感が篭っている。
さて、今回の文士劇というスタイル。確かに文字だけで読むよりも強い印象が残るし、それぞれの文化人の素人演技を見るのもそれはそれで面白い。しかし反面、本職の俳優でない分セリフの間の取り方や、掛け合いのタイミングがバラバラになりがちで、とにかくテンポが悪い。従ってどうしても話に乗りにくいし、ともすれば眠くなったりもする。ドラマ仕立てにするというのは、エンタテインメント的な意味合いでは面白い試みではあるが、本当の意味でこの座談会の本質に迫るには、それこそNHKが得意とするドキュメンタリーとして制作したほうが、より説得力や訴求力、深い感動を与えることが出来ただろう。ただし、この時期にこの作品を制作した意義自体が損なわれる訳ではないので、多くの人に見て頂きたい一作であることは間違いない。
個人的おススメ度3.0
今日の一言:「お山の杉の子」が心に響いた
総合評価:57点
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『日本のいちばん長い夏』予告編
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