ヤギと男と男と壁と

ジョン・ロンスン原作のノンフィクション「実録・アメリカ超能力部隊」を基に豪華キャストで描いたコメディムービーだ。ジョージ・クルーニー、ユアン・マクレガー、ジェフ・ブリッジス、ケヴィン・スペイシー、スティーヴン・ラングといったハリウッドを代表する錚々たる面々が出演している。監督は『かけひきは、恋のはじまり』でプロデューサーを務めたグラント・ヘスロヴ。
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ネタは面白いがストーリーはイマイチ

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９４分という、今時珍しくコンパクトなこの作品。それでも長さを感じてしまったのは一重にお話の目的が非常に解りにくいからです。そもそもメインの出演者を見れば『マイレージ・マイライフ』のジョージ・クルーニー、「スターウォーズ」シリーズのユアン・マクレガー、『クレイジー・ハート』のジェフ・ブリッジス、『アメリカン・ビューティー』のケヴィン・スペイシーと、それぞれが主役クラスの超一流俳優ばかり。これで期待するなというのが無理というものじゃありませんか。原作の「実録・アメリカ超能力部隊」は未読ですが、アメリカだけでなくソ連や日本ですら軍がエスパー兵士を育てていたなんて話は別にそう珍しいものではありません。だからもっと本当にせよインチキにせよ超能力を使うシーンが出てくるかと思いきや、どうも勝手が違う…。

ローカル新聞の記者ボブ（ユアン・マクレガー）は奥さんに逃げられたショックからイラク戦争の取材をしに向かうのだけれど、入国前のクウェートで出会ったのがリン（ジョージ・クルーニー）。一緒に旅をすることになったこのリンが、かつて合衆国超能力部隊“新地球軍”のメンバーだったのでした。『マイレージ・マイライフ』のあのスタイリッシュなライアンが、鼻の下に口ひげを蓄えたスーパー怪しいおっさんに…。リンは一応超能力が使えるとは言っているが、これまたあからさまに眉唾もの。客観的にみて１２０％怪しいのに素直に信じて着いていくボブのお人よしっぷりにユアンの甘いマスクが良く似合うわけで。旅の途中では“新地球軍”創設からリンが入隊し除隊するまでの回想シーンが挿入されます。ロン毛で口ひげのジョージはカッコ悪くて面白い。

実はここに本作ストーリーのテーマが隠されていて、それが即ち“ラブ＆ピース”の精神ということらしい。そもそもなんでそんな突拍子もないことになってるのか。それは“新地球軍”創設者のビル（ジェフ・ブリッジス）が６年に渡って世界を旅して回った結果見つけたものだったのです。というより、単純に当時の若者の間で流行ったヒッピー文化にかぶれただけじゃないかという噂もありますが…。ただその思想にハマッたリンはあっという間にビルに次ぐ部隊ナンバー２の実力者にのし上がり、なんと！遂にはにらんだだけでヤギを殺すことが出来るように！もっともだからどうだって話なんですが…。殺すだけなら銃を使えばいいですしね。この後、途中から入隊してきたラリー（ケヴィン・スペイシー）とビルの対立が昂じて、とある事件から彼は軍を除隊の憂き目に…。

さて、ここまでの回想シーンは極普通に滑稽な昔話として理解できるのですが、ただそれが現在とどう結びついてくるのかがとても解りにくい。本作では結局クウェートに向かうリンの目的は明確に語られないまま終わるので、ここは状況から個人が推測するしかありません。結論から言うと、どうも現在も超能力部隊はあるのだけれど、そこではイラクの人々やヤギを使って、超能力覚醒の実験が行われているらしい。それを知ったビルが何とか彼らを解放しようと（超能力で？）ビルを呼び寄せたと見受けられます。要はビルの存在を感じ取りながらビルの元へと向かうリン、その旅にボブが便乗して取材しているということ？ちなみに原作の「実録・アメリカ超能力部隊」はノンフィクション。つまりボブは原作のジョン・ロンスンが自らを重ねた存在と言えるのかもしれません。

旅の道中、随所に用意されているベタな小ネタは一々ここには書かないけれど結構面白くて大笑いできます。実際試写会場もどっと沸いていました。中でも“新地球軍”の兵士たちが“ジェダイ戦士”を名乗っていたのだというエピソードは「スター・ウォーズ」シリーズでオビ＝ワン・ケノービを演じていたユアンを意識したネタなのは言うまでもありません。ただあんまり同じ事を繰り返すとちとクドいのですが…。いずれにしろ、ラストシーンを観るまではここに書いたような推測もできませんから、ネタが途切れて中だるみするとすぐに睡魔が…。あとは、この素晴らしい出演者たちの野暮ったい役柄を気に入るか否かというところでしょう。個人的にはあまり好みではありません。

個人的おススメ度2.5
今日の一言：スティーヴン・ラングの壁抜け挑戦が笑える
総合評価：54点

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『ヤギと男と男と壁と』予告編