ネコを探して
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ネコと人間は相思相愛なのだ! |
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ネコ好きとしては『ネコを探して』なんてタイトルが付いていたら観ないわけには行きません。しかし本作は単に可愛いネコが登場するという話ではなく、ネコと人間の関係からその時代、場所での人間そのものを見つめなおすという話でした。原題は『LA VOIE DU CHAT』つまり「ネコの通り道」という意味。実はこのタイトルがそのままというか、観終わるとなるほどと至極納得できるものなのです。それは、本作の話の流れがそのタイトル通りだから。監督のミリアム・トネロットその人が、飼いネコのクロを探してその痕跡を辿る、即ち「ネコの通り道」を辿ると時空を越えた様々な場所に行き着くのでした。面白いのは行く先々に色んな猫たちが待ち受けていること。それは水俣病に冒されたネコ、駅長ネコ、鉄道を守るネコ、自分の生活を撮影するネコ、宿泊客をもてなすネコ、介護ネコ―。


そして特に本作では日本が重要なキーワードになっています。それはヨーロッパで悪魔の化身と呼ばれていたネコが彼の地で人々に受け入れられるようになった要因の一つに日本人の果たした役割が大きかったから。夏目漱石の「我輩は猫である」や安藤広重の描いた猫がそんな役割を果たしていたとは初耳で、驚きと共にちょっとばかり誇らしい気持ちが湧いてきます。さて、ここでは作中で紹介された様々な猫の中でも特に私が印象深かったネコたちに関して書いてみたいと思います。まずはなんといっても水俣病のネコたち。イキナリ登場されたのは患者の男性でした。言うまでもなく水俣病の原因は、チッソの出した工場排水によるメチル水銀。食物連鎖によって引き起こされた人類史上最初の病気ですが、ネコたちは人間より一足早く発症し、その危険を人間に報せていたのでした。


しかし、人間はそのサインに気付く事はなく、今もって多くの方々が苦しむ水俣病が発覚することになります。漁港で売り物にならない魚を貰っていたネコたちが発症し、平衡感覚を失って崖から落ちるとは…。元来その驚異的なバランスが特徴のネコたちにとっては皮肉以外の何ものでもありません。経済大国日本を築く陰で今もって負の遺産は残っている、それを忘れてはいけないし日本以外で現在急激な経済発展を遂げているBRICs諸国などはこの事実を他山の石としないで欲しい、そう思わずにいられません。さて、次に印象深かったのはイギリスで鉄道を守るネコたち。国鉄時代は倉庫の中身や重要な配線をネズミから守るためにネコを飼っていたんだそうです。ここで面白かったのは、あくまでペットとしてではなく“職員”としてということ。したがって給料はエサ。(笑)


抱っこして撫でたりはしないけれど、ネコたちのプロフェッショナルな仕事ぶりと、その存在に癒されたと語る鉄道マンが多いのでした。しかし民営化と同時にそれをエサ代はムダとされ切り捨てられ、200匹のネコたちが解雇されます。日本での事業仕分けではありませんが、机上の計算だけで合理性を追求するとこういう結果にならざるを得ない訳で。しかしそこに働いているのは生身の人間やネコであって機械ではないのです。その程度の余裕も失ってしまった社会、そんな社会で活き活きと暮らすことが出来るでしょうか。きっとネコは「勝手にするがいいさ。」と思っているのかもしれませんが。アメリカのミネソタ州には部屋とネコを借りられるホテルがありました。ネコカフェならぬネコホテルですね。ネコを抱いている時のお客さんの表情はもう一様に満面の笑み。


それは観ている私たちが嬉しくなってくるほどです。少し前に愛猫を亡くした女性は、愛猫と同じ赤毛のネコを抱きながら笑みを浮かべていました。死んでしまった直後に別のネコ?同じくネコを飼っている私からしたらそんな風にも思ったのですが、彼女もご主人に「それは裏切りだ」といわれたそうです。でもそのままでは押し潰されてしまいそうな心を、別のネコとはいえ愛猫を思い出させる赤毛のネコに癒してもらうことは今の彼女にとって必要なことなのでしょう。しかしここで考えなければならないのか、こうしたネコを使ったビジネスに関して。ここで作品は再び日本に舞台を移すのですが、それは日本がフランスを凌ぐペットビジネス大国だから。それにしてもネコに服を着せ靴を履かせといった馬鹿げた行為を喜んでいる愚かな日本人の何と多いことよ。


以前『犬と猫と人間と』という作品でも紹介しましたが、我が国では年間20万頭以上の猫が殺処分されています。その意味でこの国には自分を含め本当の意味での猫好きはいるのだろうかと思ってしまう気持ちが拭いえません。ペットショップで大金を払って血統書つきのネコを買う。ネコが好きなのか、血統書つきのネコを飼っている自分が好きなのか。犬でも同じことですが、安易な命の売買がもたらす結果を我々は嫌と言うほど観てきているのではないでしょうか。クロを追いかけることはそのまま人間の行いを見直すことに、ひいては自分自身を振り返ることに他ならない。ネコたちとこれからも良い関係を続けていきたいからこそ、今一度本作を観て考えてみて欲しいのです。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:素朴なアニメーションが素敵です
総合評価:75点
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