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2010年8月27日 (金)

セラフィーヌの庭/Séraphine

Photo フランスに実在した女性画家セラフィーヌ・ルイが画家として花開くも不遇な晩年を過ごす半生を描いた伝記ドラマだ。2009年のセザール賞で作品賞をはじめ7部門を獲得。特に主演のヨランド・モローは主演女優賞のほかに、アカデミー賞に最も強い影響を与えるといわれるLA批評家協会賞の女優賞を授賞している。監督はマルタン・プロヴォスト。
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彼女にとって本当に良かったのか…

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絵画に関しては全く解らないので素朴派と言われても人生で初耳。当然ながらセラフィーヌ・ルイという名前も本作で初めて聞いた程だ。とはいえ伝記映画好きとしてはやはり観ておきたい作品ではある。もっとも大まかに言うと、実話をどのように脚色しつつまとめたのかは解らないが、ストーリー展開そのものはそんなにエキセントリックなものではなかったと思う。それより何より、セラフィーヌ役を演じたヨランド・モローが素晴らしい。そう、正しく天才なのだ。天才とバカは紙一重と昔から言うけれど、どう考えたって普通じゃない、だけれどもギリギリ普通の生活を営めるだけの一般性は持っている、この微妙なライン上を見事に表現し切っている。彼女の演技を観るだけでも十分にこの作品を観る価値があると思う。

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セラフィーヌは家政婦をしながら生計をたて、それで得た僅かなお金を全て絵を描くことにつぎ込んでいる。面白いのは彼女は自分が使う絵の具を自分で作っているところだ。もちろん自分好みの色が出せるというのが一番の理由なのだろうけども、そうすることで絵の具代を節約できるというのもあったんじゃないだろうか。肉屋さんでさばいた肉の血を盗んだり、教会の蝋燭を灯す油を盗んだり、はたまた自然の草木を採ってきたり。そうして描かれた彼女の絵は繊細にして大胆、何だか絵からざわざわと触れ合う音がしてきそうで、絵の事など何も解っていない私でも思わず魅入ってしまう。ちなみに彼女たちは素朴派と呼ばれるが、それは正式な教育を受けないで絵を描いていた当時の作家を総称してそういうのだとか。

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つまり彼女たちは、画家を職業としていないため、誰かがその絵を世に出してあげなければ有名になることはないという訳。セラフィーヌにとってのそれはドイツ人画商のヴィルヘルム・ウーデ(ウルリッヒ・トゥクール)だった。この人、どこかで観たようなと思っていたのだが、後で調べたら『アイガー北壁』で新聞記者のヒロインの上司役で出ている人だった。もっとも今回はこの時よりかなり重要な役だけれど。ウーデが彼女の才能を見出し、絵を描くことに専念するように進めるのだが、物語を観ていると果たしてそれは彼女にとって本当に幸せだったのかどうか疑問に思えたのも事実。いや、もちろん彼女自身は自分の絵を認めてくれる人がいることはこの上ない歓びだったろうし、画材に窮する事もなくなったのは間違いないのだけれど。

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しかし、それがために戦争でウーデと別れる事になった後も、ひたすら彼の言葉を守って絵を描き続けるのだ。その入れ込み具合は狂気すら感じられる。最初は絵を描く時に綺麗な歌声が聞こえていたのに、それも全くなくなった様子は、何だか心にゆとりがなくなってしまったように感じられた。戦後ウーデと再会を果たし、彼は正式に彼女のパトロンとなるが、これで彼女の絵は徐々に世に知られるようになっていく。しかし順風満帆に見える裏側で、この辺りから彼女の行動がおかしくなっていくのだ。やたらと高価な家財道具を買い入れるあたりはまだましで、家やウェディングドレスまで買い始める。それは天才画家でありながらも家政婦として働くことで辛うじて保たれていた外界と自分のバランスが崩れてしまったかのように思えた。

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最初はウーデがお金を渡しても受け取らなかったのに、彼が世界恐慌で財政的に苦しいと言っても、「もっと絵を売ればいいのに。」とまで言い出す始末なのだ。止めを刺したのは彼女の個展の延期だった。マリア像に自分の個展が開かれることを報告した彼女はその約束が守れないことで自壊していく…。結局セラフィーヌは精神病院に入れられてしまうのだけれど、ラストシーンで彼女は彼女のこよなく愛した自然の中に身を置いている。もしかしたらようやく彼女にとって心の安らぎが得られたのかもしれない、大木の木陰に座る彼女は自然と一体化しているように見えたから…。ところで、セラフィーヌ・ルイの絵は日本に1点だけあり、それは世田谷美術館に収蔵されているのだそうだ。興味のある方はコチラからどうぞ。

個人的おススメ度3.5
今日の一言:岩波ホールは段差つける改装しようよ…
総合評価:70点

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『セラフィーヌの庭』予告編

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