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2010年8月15日 (日)

ペルシャ猫を誰も知らない

Photo カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を獲得したイランのクルド人監督バフマン・ゴバディが、テヘランを舞台にとあるミュージシャンカップルを中心に描いた青春音楽ドラマだ。その殆どが実在するミュージシャンたちの音楽シーンを撮影するために、監督は当局に無断でゲリラ撮影を敢行したという。楽曲に併せて流れるテヘランの現実は、あまりにもリアルで、既視感のカケラもない。
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イランの現実をリアルに描いた秀作

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良い意味で意外な面と悪い意味で意外な面、イスラム原理主義国家イランとしての二面性が良く見えた作品だ。丁度2ヶ月前、『Short Short Film Festival'2010』でイラン人のバウマン監督は、本作のゴバディ監督同様に無許可のゲリラ撮影をして逮捕され、その逮捕された経験を『撮影禁止!/No Photography』という作品に描いた。この時にも、イランにおいては表現の自由が著しく制限されているということを感じたものだが、それは映画だけでなく音楽でも同様だ。本作の主人公ネガル(ネガル・シャガギ)とアシュカン(アシュカン・クーシャンネジャード)の2人は本物のミュージシャンで、彼らは実際に無許可ライブを行い当局に逮捕された経験がある。自由な表現を追い求め、イランを離れる決意をした彼らがゴバディ監督と出会い、本作が生まれたのは正に天の配剤というべきだろう。

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物語は2人が経験したままに、彼らが逮捕され釈放されたところから始まる。祖国での音楽活動に限界を感じた2人は、海外で音楽活動をするために偽造パスポートや偽造ビザを手配しようと試みるのだが、そこで便利屋ナデル(ハメッド・ベーダード)と知り合い、出国のための手配を任せるのだった。ナデルは、それらの費用捻出のために国内で2人のアルバム制作やライブを実現させようとあの手この手を試みる。逮捕されたお陰で2人きりとなってしまったバンドメンバーを集める手伝いをするに到っては殆ど彼ら2人のマネージャー状態だ。本作はそんな3人を丹念に追いかけて描いていくのだが、何しろ登場するミュージシャンやテヘランの都会や下町の風景は現実そのもので、言ってみれば脚本があるドキュメンタリーといえる。

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良い意味で意外だったのは、テヘランが思ったよりも近代的な都市であり、アンダーグラウンドとはいえ、我々の社会と同じく様々なミュージシャンたちが存在することを知ることが出来たことだ。いわゆるロックだけでなくヘビメタやラップまであり、個人的にはペルシャ語のラップなどは白眉だと思う。少なくとも音楽に関しては彼らと同じ価値観を共有できるのではないだろうか。劇中で出会うこれらのバンドたちは必ずその場その場でパフォーマンスを見せてくれる。それに合わせたゴバディ監督のまさにミュージックビデオ調の編集は、その映像センスもさることながら、大都市テヘランの光と陰、即ち貧富の差をも明確に映し出していた。しかも、そもそもこれらの映像はゲリラ撮影された光景だけに、そこにフィクションはなく紛れもなくテヘランの現実なのだ。

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それでは悪い面で意外だったのはというと、想像よりもずっと当局の縛りがキツイということだ。表現の自由が制限されるとは解っていたが、CDの制作やライブに許可が必要だったり、果てはバックコーラスが女性3人だと許可が下りないなどという事態はちょっと思いもよらなかった。いかにもイスラム原理主義国家らしい女性蔑視の思想ではあるが…。余談だが劇中に犬を車に乗せていて警察に止められるシーンがある。何とテヘランでは犬も猫も外に連れ出すことは禁止なのだそうだ。タイトルに在るとおり「ペルシャ猫」といえばイランにルーツをもつと言うのが一般的な説にも関わらずそんな差別を受けるとは猫の側もいい迷惑だろう。しかし、実はこの差別はある意味正しい。何故ならこの作品で言うところの「ペルシャ猫」は同様に差別を受ける若きミュージシャンたちを指すからだ。

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物語では残念ながら当局の手入れで偽造パスポートも偽造ビザも手に入らなくなってしまう。ライブの要請は却下されアルバムの制作も出来なくなり、責任を感じたナデルは若者たちがたむろするアパートで酒浸りに…。言うまでもなくイスラムでの飲酒はご法度だ。ナデルを捜しに来たアシュカンが彼を連れ帰ろうとするところに警察が踏み込んでくる。必死で逃げようとしたアシュカンは窓から飛び降り――。実際のネガルとアシュカンは撮影終了4時間後にイランを離れ、今はロンドンで音楽活動をしているという。同様にゴバディ監督もイランを離れた。この3人に共通するのは“自由”な創作活動をしたいということ、我々の社会では当たり前に認められているこの“自由”への渇望が作品を通してヒシヒシと伝わってくる。そして一見タフな市井の人々の心の内にも同じ想いは秘められているに違いない。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:バンドメンバーの語る夢が微笑ましい
総合評価:77点

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『ペルシャ猫を誰も知らない』予告編

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受信: 2010年8月15日 (日) 16時04分

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受信: 2010年8月16日 (月) 08時25分

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受信: 2010年8月20日 (金) 11時59分

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受信: 2010年8月22日 (日) 15時00分

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受信: 2010年8月26日 (木) 01時31分

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受信: 2012年5月29日 (火) 09時04分

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