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2010年9月14日 (火)

終着駅 トルストイ最後の旅

Photo ロシアの偉大な作家にして思想家であるレフ・トルストイの晩年を描いた伝記映画。夫婦愛、人類愛の相克の内で苦しみながら遂には最後の旅に出るまでを、若き秘書の目線で描き出す。主演は『Dr.パルナサスの鏡』のクリストファー・プラマーと『クィーン』のヘレン・ミレン。共演に『つぐない』のジェームズ・マカヴォイ、ポール・ジアマッティらが出演している。監督はマイケル・ホフマン。
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ソフィアは本当に悪妻だろうか?

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その名を知らぬものなどいないであろうトルストイ、正確にはレフ・トルストイ。彼の最晩年を描いたのが本作です。とはいえトルストイと言えば『戦争と平和』などに代表される作家だと言うことぐらいしか知りません。実は彼は思想家としても活躍しており、そのキリスト教的な人間愛や道徳観を体現するトルストイを信奉する人々をトルストイ主義者と呼ぶらしい。そんな彼らとトルストイはヤースナヤ・ポリャーニャという場所で、自分たちだけのコミュニティを作り暮らしていたのでした。トルストイの高弟チェルトコフ(ポール・ジアマッティ)が新しい個人秘書としてワレンチン(ジェームズ・マカヴォイ)をコミュニティに派遣するところからストーリーは始まります。簡単に言うと、チェルトコフたちはトルストイ主義に基づいて、トルストイの持つ著作権や遺産をロシア国民に委譲させようとします。

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トルストイ本人もそれに同意するのですが、妻ソフィアはそれに猛反対し、あの手この手を使ってそれを阻止しようとする、その様子が延々と描かれます。ソフィアは一説には世界三大悪妻の一人と言われているそうですが、個人的にはこの一面を持ってそこまで決め付けてしまうのはいかがなものかと思うのですが。ただ帝政ロシア時代の伯爵夫人という、基本的には飢えとは無縁な環境にあって、トルストイの著作権による収入までも手放さない彼女は庶民から見たら怨嗟の対象になったとしてもおかしくないでしょう。しかし、だからと言って完全にトルストイvsソフィアになってしまわない所が面白い所。トルストイはソフィアを完全に愛しているのです。ソフィアの態度に怒って寝室を訪れたトルストイが、彼女のおどけた可愛らしさに結局は笑顔を浮かべてふざけ合うシーンなどは、見ていてとても仲睦まじいものでした。

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最後まで観ると解るのですが、クリストファー・プラマーの演技が素晴らしいのは、トルストイが己の理想とソフィアへの愛の間で揺れ動く葛藤、この振れ幅を序盤は大きく、しかし次第に自分の理想に傾倒していく様子を観ている側にはっきりと解らせてくれること。例えばチェルトコフの用意した権利委譲書にサインをするシーン、し終わった後は不快そうにペンを投げ出すといったように、細かい部分で彼の苛立ちが見て取れるのです。そうした一連の行為に激怒するソフィア。しかしトルストイは言います。「ここには飢えた者などおらん。」と。即ち彼にしてみたら、贅沢などしなくても構わない、質素に生活さえできれば、後は民衆の為に心静かに自分の仕事に集中出来れば良いと考えていたんですね。だからこそ仕事の集中をかき乱すソフィアに段々と我慢できなくなっていきます。一方で本当は愛し合っているのに次第に距離が開いていく2人を間近に見ているワレンチン。

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この青年は、トルストイが姦淫を嫌ったが為にいまだ童貞というほど彼に心酔していました。ところが、コミュニティで出会ったマーシャ(ケリー・コンドン)という女性と初体験!一気に彼女に惹かれてゆきます。ソフィアに関係を見抜かれたワレンチンはそれを隠そうとするものの、トルストイ主義という理想とマーシャへの愛という現実の狭間で揺れる彼の心が表情に表れていて面白い。そしてそれは皮肉にも心酔するトルストイ自身が抱える悩みとも等しいもので、更には現実問題としてトルストイ、ソフィア双方に好かれ、両者の間で揺れる彼自身の存在とも等しいのでした。ジェームズ・マカヴォイ自身は、クリストファー・プラマーとヘレン・ミレンという本作でアカデミー賞にノミネートされた名優2人に挟まれながらも、揺れる気持ちに戸惑う青年をキッチリと演じていて、彼がここまで存在感を発揮するとは思ってなかっただけにちょっと驚き。

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彼は伝記映画では『ジェイン・オースティン 秘められた恋』などにも出演していますが、案外落ち着いた歴史モノ系のが得意なのかもしれません。そして1910年、我慢の限界に達したトルストイは82歳にして家出をすることに。これがタイトル『終着駅 トルストイ最後の旅』の意味するところです。粗末な列車に隠れるようにして揺られるトルストイは途中体調を崩し、アスターポヴォという駅で静養することに。少し意外だったのはこの段階で新聞にはトルストイの家出の記事が載り、まもなく新聞記者たちが駅に集まってくること。コミュニティに閉じこもっている世界では、彼が世間的にどう見られているのかは観ている私たちには解らないだけに、改めて当時のトルストイの置かれた立場を認識したのでした。ついでに言うと、エンドロールで実際のトルストイのモノクロ映像が出てきたのですが、よもや本物の動いている映像が見られるとは思いもよらず。映像は偉大だ…などと別な意味でも感心感動です。

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さて、ワレンチンからの電報でソフィアがかけつけるも、最初は会わせてもらえず、ようやくいまわの際になって会うことが許されます。もはや言葉を発することも出来ないトルストイですが、彼の話したいことをキッチリと口にするソフィア。少なくとも彼の作品の一番の理解者であり、彼の気持ちが一番解るのは彼女だったのではないかと思わせるワンシーン。ヘレン・ミレンは夫に激怒しながらも一途な愛を貫く真っ直ぐな女性を力強く演じてきましたが、彼女自身はひょっとしてソフィアを悪妻だとは考えていないのではないでしょうか。少なくとも彼女の演技からは怒りの大きさ以上に夫に対する大きな愛情を感じました。

個人的おススメ度3.5
今日の一言:これでドイツとロシアの合作なのね…
総合評価:76点

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『終着駅 トルストイ最後の旅』予告編

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受信: 2010年10月20日 (水) 22時43分

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受信: 2010年10月23日 (土) 11時02分

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受信: 2010年10月29日 (金) 21時05分

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受信: 2010年11月 4日 (木) 07時25分

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受信: 2010年11月 6日 (土) 23時15分

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受信: 2010年11月26日 (金) 17時20分

» 終着駅 トルストイ最後の旅/The Last Station(映画/DVD) [映画を感じて考える~大作、カルトムービー問わず映画批評]
[トルストイ] ブログ村キーワード大作家と“世界三大悪妻”と名高い妻ソフィヤとの知られざる愛の物語。終着駅 トルストイ最後の旅(原題:The Last Station)製作国:イギリス/ドイツ ... [続きを読む]

受信: 2011年2月23日 (水) 16時01分

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☆私は東京の23区外に住み、忙しく、もっぱらシネコンでしか映画を観れなくなっているのだが、  たまに、シネコンが「シネ魂」を見せてくれて、メジャー流通に乗らないミニシアター系の作品をひょっこりと公開してくれたりする。  『終着駅−トルストイ最後の旅−』が...... [続きを読む]

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受信: 2011年4月 8日 (金) 10時45分

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受信: 2011年10月 5日 (水) 09時28分

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