ナイト・トーキョー・デイ
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『エレジー』で素晴らしく鮮烈な作品を見せてくれたスペインの女流監督イザベル・コイシェの作品です。世間的にはどうも評価が低いようですが、まあ確かにそれも無理ないとは思わせる作品でした。個人的にはこの手の映像表現はとても好きなのですが、外国人の目、というよりコイシェ監督の目を通じて描かれた東京ならぬTOKYOの情景は、例えば場所そのものは日本であってもどこか何かが違うと思わせる絵作りで、それがちょっと違うのじゃないかと受け取る人もいるのではないかと思うのです。どことなく『エンター・ザ・ボイド』のギャスパー・ノエ監督が描くTOKYOに繋がるかのような描き方でもありました。もっともさすがにノエ監督ほどまでにはトンデませんけれど。


何しろ初っ端から寿司の女体盛り。全くどこからこんなろくでもないことを聞きつけてきたのか。それとも監督は一度実際にやってみたかったんでしょうか?(笑)「人肌に乗せられた寿司など生暖かくて食えたもんじゃないだろうに…。」と思いきや、その辺は大物実業家・長良(中原丈雄)が全くそのままの台詞を言ってくれたり。彼が外国人を接待しているというのがこのオープニングのシーンです。一方で主人公のリュウ(菊地凛子)は築地のマグロ市場ではたらく女。コントラストの強い映像で映し出すマグロの解体シーンは当然寿司との繋がりを意識しているのでしょうけども、なるほど親日家のコイシェ監督の持つ日本のイメージはこういうところにもあるのかと思わされます。


それにしても菊地凛子のクッキリとした目鼻立ちと長い黒髪は、コイシェ監督の映像に良くフィットしていて、その存在そのものが監督の中の日本人を体現しているようにも思えました。最近のニュースではスパイク・ジョーンズ監督とお付き合いしているとのことですが、確かにミスユニバース・グランプリの森理世のような欧米人の好む東洋人顔ですしね。さて、ところが凝った映像とは裏腹にストーリー自体は意外とありがちで単純。最初に登場した長良の娘は自殺するのだけれどその夫・スペイン人のダビ(セルジ・ロペス)だけが普通に生活を続けている。それは当たり前の事だけれどそれが気に入らない長良、彼の部下はボスの気持ちを忖度して殺し屋にダビの暗殺を依頼します。


その依頼する相手がリュウ。そう、彼女は表の顔は築地市場で働く女、裏の顔は殺し屋という女なのです。一見おおっ!という設定ですが、この後ターゲットのダビに近づいたリュウは彼を愛してしまい殺せません。依頼をキャンセルすると部下は自分でダビを殺そうとするも、ダビを庇ったリュウが代わりに撃たれて死ぬ。ただそれだけ。ですからいわゆる殺し屋の物語を期待すると肩透かしを食らいます。むしろこの作品で観るべきはは、その極簡単なストーリーの流れをコイシェ監督がどのように表現するか。例えばユニークなことに本作はとある録音技師(田中泯)が語り部となって話を進めていきます。録音技師は彼女に密着し録音する中で彼女に関して様々な情報を語るのでした。


それはリュウがラーメンをすする音だったり他愛もないおしゃべりだったり。更にそうした彼女に関わる音だけでなく、映像には様々なノイズが乗ってきます。リュウが街を移動することは即ち映像やノイズも含めた監督自身のTOKYO巡りとも言えるのかもしれません。行く先がただの飲み屋だったり、花やしきだったりと言うところに日本人が興味の対象とするのとはまた違った目線が感じられて面白い。リュウはダビに誘われて、彼が昔妻と定期的に来ていたというラブホテルに入るのですが、そこは何と電車の中を模した部屋。当然ながらそこで繰り広げられる2人の情交。ただし私はこのシーンの菊地凛子の計算尽くな、いかにもアートでございといった芝居があまり好きになれませんでした。


セルジ・ロペスが菊地凛子の体にむしゃぶりつく芝居は、本来人間が持つ獣性や衝動、もっと言えばこんな部屋でプレイすることのアブノーマル性を表現できているのですが、それに対する彼女は気取り過ぎに思えます。もっとも『エレジー』を観た時にも感じたのですが、コイシェ監督の描くセックスシーンはエロスよりも限りなく美を感じるもので、思えばダビと老教授デヴィッドの荒々しさも共通しています。ただ菊地凛子には申し訳ないけれど、彼女をペネロペ・クルスと比べるのは流石にちょっと辛いものがありますが…。いずれにしても東京の現実に飽きた私たちにとっては、この作品のTOKYOの現実は新鮮な驚きとなって映るのではないでしょうか。
個人的おススメ度3.0
今日の一言:オッシー迷惑かけ過ぎ。
総合評価:64点
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『ナイト・トーキョー・デイ』予告編
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