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2010年10月 6日 (水)

ヘヴンズ ストーリー(レビュー前編)

Photo 『感染列島』や『サンクチュアリ』の瀬々敬久監督が送る全9章、4時間38分にわたる超長編作品。それぞれの身に降りかかる殺人事件をキーに多くの人間が絡まりあいながらも生きていく様子を丁寧に描いた意欲作だ。『掌の小説』の寉岡萌希、『笑う警官』の忍成修吾、『かずら』の長谷川朝晴、『必死剣 鳥刺し』の村上淳、佐藤浩市、柄本明など、20人以上の多彩で豪華な俳優が出演している。
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永遠の憎悪がもたらすものは…

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元々3時間のつもりだったのが、撮影していくうちに脚本が代わり、徐々に長くなった結果がこの4時間38分なんだそうな。『愛のむきだし』の3時間57分より40分近く長いこの作品は、全9章仕立てで、20人以上に及ぶ登場人物が10年に渡って複雑に絡み合った作品。生と死、幸福と不幸、因果応報、殺し殺される…それぞれの登場人物の身に降りかかった事件、そしてその時の感情、時の経過、そんなものをリアルかつ丁寧に描き出して行くとこの位の時間になってしまうのも仕方ないのだと思う。もちろんやろうと思えばばっさばっさカットして、当初の予定通りの3時間以内に納めることは瀬々監督ほどの人なら可能だったハズ。しかし監督は敢えてそれをしなかった。何故だろう?監督のインタビューを読んでいたらその理由が解ったのでした。どうやらこの企画は2006年頃からずっと暖めていたらしい…。

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しかしそれを製作会社に持ち込むのではなく、自主制作映画時代に知り合った人たちに協力してもらい敢えて自主制作映画のスタンスで撮ろうと決めたんだそうです。自分の撮りたい物を撮りたいように撮る。まるで若松監督の言葉を聞くかのようですが、一切の妥協を許さないその姿勢が商業映画としては稀に見る長尺映画となったのです。はっきりいって観終わった後は相当に疲れます。ですがだからといって観ている最中に話に疲れることはありません。9章仕立てという構成のせいでもありますが、それよりもスクリーンの中で息づく俳優の生命は、一切のケレン味を廃したその演出によって、観客により身近な存在となり、私たちの目の前で確かに生きているのです。普通こんなにも多くの人生を俯瞰する機会はあまりありません。だからこそ面白い。という訳で、全編を辿るのは不可能ですから、私が特に強く感じたことをつらつら書き綴ってみたいと思います。

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物語はサト(8歳:本多叶奈)の両親が何者かに殺されるというショッキングな事件から始まります。犯人は自殺していました。全く泣きもしない彼女。そんな彼女は祖父(柄本明)に引取られる際にテレビでとある人物の記者会見を見ます。「法律が許しても、僕がこの手で犯人を殺してやります」泣きながらそう語ったのはトモキ(長谷川朝晴)でした。聞いた瞬間サトの感情は爆発し失禁してしまいます。犯人への復讐を宣言するトモキはサトにとってのヒーローとなった瞬間でした。それがハッキリするのは第4章に入ってから。実はその前章でトモキは片耳の聞こえないバンドマンのタエ(菜葉菜)と知り合い、結婚し娘がいます。何とか事件から立ち直り小さいながらも幸せな家庭を築いている彼を見たサトは失望するのでした。サト(寉岡萌希)はこのとき16歳。しかし気持ちはあの幼い時のままなのです。復讐を忘れたトモキを炊きつけて、彼を再び修羅の道へと戻す彼女。

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トモキの「家族を殺された人間は少しでも幸せを願っちゃダメかな」という問いに「ダメだと思います。」と冷徹に答える彼女からはとてつもなく大きな心の闇を感じますが、私は同時に悲しくなりました。トモキの事件はいうまでもなく実際の「光市母子殺害事件」がモデル。実際の事件の被害者の本村さんはこんな風にも語っています。「遺族だって回復しないといけないんです、被害から。人を恨む、憎む、そういう気持ちを乗り越えて、また優しさを取り戻すためには……死ぬほどの努力をしないといけないんです」と。トモキもまたこの小さな幸せを手にするために死ぬほどの努力をしたのでしょう。翻ってサトはどうだったのか。幼心に聞いた「この手で殺してやります」の言葉、彼女の心に作られたヒーローは、彼女が回復する努力を重ねる妨げになったのかもしれません。

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センセーショナルな言葉をベースにして、少女の想いを代弁させる形で、やっと取り戻しつつある優しさを捨てさせるシーンを描く残酷さに、これを実際の本村さんが観たらどう感じるだろうと思わずにいられませんでした。いずれにしても復讐の輪廻は始まってしまうのです。さて、このように本作の軸となるストーリーはこの2人によって構成されますが、実は他に2つのストーリーが存在し、そこの登場人物とも密接な係わり合いを持ってきます。その内の1つが第2章で登場するカイジマ(村上淳)。警官でありながら裏の副業が殺人代行業という彼。その息子ハルキ(栗原堅一)は第4章でサトとの接点ができます。「いやもう諦めて死んでくださいよ。」なんて、人を殺すのに変に生真面目なカイジマのセリフが彼の異常さを際立てるのだけれど、実は人間なんてそんなものかもしれません。

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『悪人』で表現されていたように、人間なんて相対的に、タイミング的に、そして本質的に善人でも悪人でもあり、それが“普通”というもの。一見おかしなカイジマも息子のハルキを愛する優しい父親であり、自分の責任においてとある母娘に賠償金を支払い続けていたりするのです。復讐の輪廻の代行者とその家族、しかし皮肉にもこのストーリーには本作唯一の生命の誕生が描かれているのが面白いところでした。カイジマが賠償金を払っている母娘の娘はカナ(江口のりこ)、彼女こそある意味では本作の象徴的な存在になり得るのです。即ち彼女だけが命を奪うことと、命を生み出すことの両方を担っているから。演技派江口のりこは相変わらず無愛想で可愛げのない女を演じると実に上手いけれど、彼女の我が子を見つめる聖母の表情は本作中で誰よりも最高の笑顔なのでした。(続く)

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『ヘヴンズ ストーリー』
第1章 夏空とオシッコ
第2章 桜と雪だるま
第3章 雨粒とRock
第4章 船とチャリとセミの抜け殻
第5章 落ち葉と人形
第6章 クリスマス☆プレゼント
第7章 空に一番近い町1復讐
第8章 空に一番近い町2復讐
第9章 ヘヴンズ ストーリー

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『ヘヴンズ ストーリー』予告編

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