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2010年10月 6日 (水)

ヘヴンズ ストーリー(レビュー後編)

Photo 『感染列島』や『サンクチュアリ』の瀬々敬久監督が送る全9章、4時間38分にわたる超長編作品。それぞれの身に降りかかる殺人事件をキーに多くの人間が絡まりあいながらも生きていく様子を丁寧に描いた意欲作だ。『掌の小説』の寉岡萌希、『笑う警官』の忍成修吾、『かずら』の長谷川朝晴、『必死剣 鳥刺し』の村上淳、佐藤浩市、柄本明など、20人以上の多彩で豪華な俳優が出演している。
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さて、メインストーリー以外の2ストーリーの内もう1つ。それはトモキの家族を殺したミツオの話で本編で言うと第5章にあたります。そこで登場するのが人形作家の響子(山崎ハコ)。若年性アルツハイマーの診断を受け、ショックを受けた彼女の耳に偶然飛び込んできたのがミツオが無期懲役になったというニュース。「これから生まれてくる人間にも、僕の事を覚えておいて欲しい」彼のこの言葉が気になった恭子は、弁護士の元を訪ね、彼に手紙を渡すのです。そしてアクリル板越しとはいえ運命的な出会いをする2人。落ち葉舞う季節、恭子の病は進行していたが傍らには彼女を介護するミツオがいました。アルツハイマーで自分が自分でなくなっていく、自分が生きた証ごと全てが消えていく恐怖と、ミツオが抱える何かが等しいものなのかは私には解りません。

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ただ響子はそこに通じ合うものを感じたのでしょう。彼を養子にしたのはその証です。彼女は人形作家という役ですが、劇中に登場する人形を実際に作ったのは安藤早苗さんという人形作家の方。舞台挨拶で安藤さんは演者である山崎ハコさんに片想いしていて、実際に登場した人形を作っているうちに本人の顔に似てしまったんだ語っていました。想いの強さが人形を本物に近づける。しかし劇中の恭子は図らずも人生の最後に自分と言う人形を作ることになり、そんな人形のような彼女を世話するミツオがいる。なんとも皮肉としか言いようがありません。ところで私は知らなかったのですが、演じているその山崎ハコは本職は歌手だそうで。これはちょっと驚きです。強烈な存在感を放っていて、本職の忍成修吾を圧倒する芝居。

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映画に出るのが初めてという訳ではないそうですがセリフのある役は初めてなんだとか、とてもそうは思えません。いずれにしても社会復帰しようにも受け入れられないミツオにとって恭子はオンリーワンの存在となってゆきます。恭子の容態は日に日に悪化していく。そんな恭子を連れてミツオはかつて「雲上の楽園」と呼ばれた場所を訪れます。今はもう廃墟と化した鉱山の町の団地、社会に受け入れられないミツオは恭子と2人でここで新しい世界を築こうとしていたのでした。しかしそんな2人を追ってきた2人がいました。トモキとサトです。2人はミツオがちょっと目を離した隙に恭子を浚い、そしてミツオを殺そうとトモキが襲い掛かる。追い詰めて取っ組み合いになる2人、その時サトが叫びます!「この人死んでる!」恭子は息を引取っていたのでした。

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ミツオの絶叫が誰もいない廃墟にこだまする…。恐らく恭子はトモキやサトが何もしなくても死んでいたでしょう。しかし、問題はそこではなく、ミツオにとってかけがえのない人が死んでしまったということ。ミツオとて恭子の命が風前の灯だったことは解っていたはず。しかしこれで理不尽だとは解っていても怒りの矛先を向ける先が出来た訳です。つまりトモキにその気はなくとも、本人を殺すよりもっと酷い復讐、それは彼にとってかけがえのない妻と子供が殺されたのと同じことをミツオやり返したことになっているのです。何と言う完璧な復讐の輪廻でしょうか。なるほどここまで完璧な復讐のシンメトリーを完成させるためにはそれぞれの登場人物の想いの深さを描き出さねばならず、長尺になるのも納得です。その場から町に逃げ戻り、トモキの住む団地で隠れるように過ごす2人。2人を団地の外から見張るミツオ。

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面白いのはこの様子がつい先程までと完全に攻守交替している点。「雲上の楽園」にいるミツオたちを見張るトモキたちの図とよく似ています。ただしトモキの団地は廃墟と化した鉱山の町の団地が再生したかのようであり、これはもしかしたらタエとの新しい家族を持つことで辛うじて再生しかけたトモキの象徴だったのかもしれません。いずれにしても事ここに到っては決着をつけるにはもはや方法は一つしかないのは自明の理です。即ち復讐の輪廻を断ち切るためには双方が死ぬしかありません。恐らくそれは双方ともに解っていたはずです。第9章「ヘヴンズ ストーリー」はサトの両親が死んでから10年後の世界、しかしそこまでの8章と異なり死んだはずの恭子やミツオやトモキ、更にはサトの両親も登場するある種幻想の世界でありそれは文字通り「ヘヴンズ ストーリー」。

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それを観ながら私はサトはこの10年で何を得たのだろうかと考えていました。力のない少女が両親を殺された、しかも犯人は自殺している。憎むことすら出来ない彼女にとって、擬似復讐を達成させてくれたトモキ。しかしそのトモキも今はもういない。彼女の存在はある種悪魔的ともいえると思うのです。自分が犯人を許さない、許せない、憎み続けるという無間地獄、この世界にトモキをもっと言えばミツオや恭子、更には何の関係もない多くの人たちをも巻き込んだのですから。しかし全てを失った彼女が唯一許されるのがこの世界でした。母親に抱きしめられるサト、それは「もういいのよ。」と彼女の心を解き放ち、同時に彼女が人を許せるようになった瞬間なのだと思うのです。この作品、きちんと理解するにはあと2,3回観たほうが良いのでしょうけども、中々そこまで時間が取れるかどうか…(苦笑)

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『ヘヴンズ ストーリー』
第1章 夏空とオシッコ
第2章 桜と雪だるま
第3章 雨粒とRock
第4章 船とチャリとセミの抜け殻
第5章 落ち葉と人形
第6章 クリスマス☆プレゼント
第7章 空に一番近い町1復讐
第8章 空に一番近い町2復讐
第9章 ヘヴンズ ストーリー

個人的おススメ度4.0
今日の一言:レビューまで長くなった…
総合評価:78点

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『ヘヴンズ ストーリー』予告編

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10月10日(日)@銀座シネパトス。 夫婦50割ふたりで3,600円で鑑賞。 スクリーン1座席数177の観客は20人とちょっと。 2週目の日曜日で稼動15%では厳しい興行なのでは? [続きを読む]

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» 「ヘヴンズ ストーリー」:278分1本勝負 [大江戸時夫の東京温度]
4時間38分という超長尺の映画『ヘヴンズ ストーリー』を観ました。10分の休憩と [続きを読む]

受信: 2010年10月23日 (土) 23時54分

» 『ヘヴンズストーリー』(2010)/日本 [NiceOne!!]
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受信: 2010年10月28日 (木) 06時22分

» 『ヘヴンズストーリー』をユーロスペース2で観て、まず長さについて語るのは正等と思う男ふじき☆☆☆ [ふじき78の死屍累々映画日記]
五つ星評価で【☆☆☆普通。こういう話題は別にこの映画で初めて語られた訳ではない】       何と言っても4時間38分。 まあ、まず長さが話題だよね。 なんで長さが話題になるのかってと、 思った以上に内容が普通だからだね。 でも4時間を越える映画で だれない...... [続きを読む]

受信: 2010年11月 5日 (金) 00時48分

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現在公開中の邦画、「ヘヴンズストーリー」(監督:瀬々敬久)です。ユーロスペースで観賞しました。 ずっと観たいと思っていた映画なのですが、何せ4時間38分という上映時間にビビってこれまで劇場に行けていませんでした。が、同じく長尺の「愛のむきだし」を未だに観れていない(自宅で観る気にならない..)ことを考えると、「劇場で観なかったらこりゃ観ないな」と思い、行ってみることにしてみた次第です。結論から言うと、「観ておいて良かった」と思える作品でした。 この映画、キャッチにもある通り、「罪と罰」を扱ったもので... [続きを読む]

受信: 2010年11月 5日 (金) 11時41分

» ヘヴンズ ストーリー [『映画評価”お前、僕に釣られてみる?”』七海見理オフィシャルブログ Powered by Ameba]
世界が憎しみで 壊れてしまう前に。 からみ合い、つながり合う全9章 4時間38分、全9章からなる不条理からの復讐と再生の物語。 第1章・夏空とオシッコ 第2章・桜と雪だるま 第3章・雨粒とRock 第4章... [続きを読む]

受信: 2010年11月 9日 (火) 00時57分

» 「へヴンズストーリー」 [【映画がはねたら、都バスに乗って】]
久しぶりに、思索する映画を観た。 “思索する”映画? 映画を作りながら、真理を求めて自問自答を繰り返していくような映画。 そんな言い方すると退屈そうだけど、4時間38分、スクリーンに引き込ま...... [続きを読む]

受信: 2010年11月10日 (水) 21時32分

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現在公開中の邦画、「ヘヴンズストーリー」(監督:瀬々敬久)です。ユーロスペースで観賞しました。 ずっと観たいと思っていた映画なのですが、何せ4時間38分という上映時間にビビってこれまで劇場に行けていませんでした。が、同じく長尺の「愛のむきだし」を未だに観れていない(自宅で観る気にならない..)ことを考えると、「劇場で観なかったらこりゃ観ないな」と思い、行ってみることにしてみた次第です。結論から言うと、「観ておいて良かった」と思える作品でした。 この映画、キャッチにもある通り、「罪と罰」を扱ったもので... [続きを読む]

受信: 2010年11月12日 (金) 17時54分

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受信: 2010年11月12日 (金) 17時54分

» ヘヴンズ ストーリー [映画的・絵画的・音楽的]
 近年稀に見る長さの映画だということに興味をひかれて、少し前になりますが、『ヘヴンズ ストーリー』を渋谷のユーロスペースで見てきました。 (1)長時間映画と言えば、クマネズミにとっては、『ユリイカ』(青山真治監督、2000年)の217分とか、『愛のむきだし』(園子温監督、2009年)の237分、『沈まぬ太陽』(若松節朗監督、2009年)の202分などですが、この映画はそれらをもはるかに超える278分の長さです。  途中に休憩をはさむため、特段腰が痛くなることもなく見終わることができました。  とは... [続きを読む]

受信: 2010年11月28日 (日) 21時47分

» 「ヘヴンズストーリー」(2010 ムヴィオラ) 瀬々敬久監督 [事務職員へのこの1冊]
 少なくとも、こんな作品が製作され、公開され、評価され、あまつさえヒットしている [続きを読む]

受信: 2011年3月 5日 (土) 13時00分

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    世界が憎しみで 壊れてしまう前に。 京都シネマにて鑑賞。 残念ながら、初日の監督さんの舞台挨拶には行けませんでした。上映は1日1回。14:50から上映のみ。終了は19:35。何と4時間半強という長さです。「愛のむきだし」以来の長丁場となりました。 ...... [続きを読む]

受信: 2011年6月10日 (金) 00時34分

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受信: 2012年1月 3日 (火) 14時41分

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