ヘヴンズ ストーリー(レビュー後編)
復讐の輪廻そして許しへ |
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さて、メインストーリー以外の2ストーリーの内もう1つ。それはトモキの家族を殺したミツオの話で本編で言うと第5章にあたります。そこで登場するのが人形作家の響子(山崎ハコ)。若年性アルツハイマーの診断を受け、ショックを受けた彼女の耳に偶然飛び込んできたのがミツオが無期懲役になったというニュース。「これから生まれてくる人間にも、僕の事を覚えておいて欲しい」彼のこの言葉が気になった恭子は、弁護士の元を訪ね、彼に手紙を渡すのです。そしてアクリル板越しとはいえ運命的な出会いをする2人。落ち葉舞う季節、恭子の病は進行していたが傍らには彼女を介護するミツオがいました。アルツハイマーで自分が自分でなくなっていく、自分が生きた証ごと全てが消えていく恐怖と、ミツオが抱える何かが等しいものなのかは私には解りません。
ただ響子はそこに通じ合うものを感じたのでしょう。彼を養子にしたのはその証です。彼女は人形作家という役ですが、劇中に登場する人形を実際に作ったのは安藤早苗さんという人形作家の方。舞台挨拶で安藤さんは演者である山崎ハコさんに片想いしていて、実際に登場した人形を作っているうちに本人の顔に似てしまったんだ語っていました。想いの強さが人形を本物に近づける。しかし劇中の恭子は図らずも人生の最後に自分と言う人形を作ることになり、そんな人形のような彼女を世話するミツオがいる。なんとも皮肉としか言いようがありません。ところで私は知らなかったのですが、演じているその山崎ハコは本職は歌手だそうで。これはちょっと驚きです。強烈な存在感を放っていて、本職の忍成修吾を圧倒する芝居。
映画に出るのが初めてという訳ではないそうですがセリフのある役は初めてなんだとか、とてもそうは思えません。いずれにしても社会復帰しようにも受け入れられないミツオにとって恭子はオンリーワンの存在となってゆきます。恭子の容態は日に日に悪化していく。そんな恭子を連れてミツオはかつて「雲上の楽園」と呼ばれた場所を訪れます。今はもう廃墟と化した鉱山の町の団地、社会に受け入れられないミツオは恭子と2人でここで新しい世界を築こうとしていたのでした。しかしそんな2人を追ってきた2人がいました。トモキとサトです。2人はミツオがちょっと目を離した隙に恭子を浚い、そしてミツオを殺そうとトモキが襲い掛かる。追い詰めて取っ組み合いになる2人、その時サトが叫びます!「この人死んでる!」恭子は息を引取っていたのでした。
ミツオの絶叫が誰もいない廃墟にこだまする…。恐らく恭子はトモキやサトが何もしなくても死んでいたでしょう。しかし、問題はそこではなく、ミツオにとってかけがえのない人が死んでしまったということ。ミツオとて恭子の命が風前の灯だったことは解っていたはず。しかしこれで理不尽だとは解っていても怒りの矛先を向ける先が出来た訳です。つまりトモキにその気はなくとも、本人を殺すよりもっと酷い復讐、それは彼にとってかけがえのない妻と子供が殺されたのと同じことをミツオやり返したことになっているのです。何と言う完璧な復讐の輪廻でしょうか。なるほどここまで完璧な復讐のシンメトリーを完成させるためにはそれぞれの登場人物の想いの深さを描き出さねばならず、長尺になるのも納得です。その場から町に逃げ戻り、トモキの住む団地で隠れるように過ごす2人。2人を団地の外から見張るミツオ。
面白いのはこの様子がつい先程までと完全に攻守交替している点。「雲上の楽園」にいるミツオたちを見張るトモキたちの図とよく似ています。ただしトモキの団地は廃墟と化した鉱山の町の団地が再生したかのようであり、これはもしかしたらタエとの新しい家族を持つことで辛うじて再生しかけたトモキの象徴だったのかもしれません。いずれにしても事ここに到っては決着をつけるにはもはや方法は一つしかないのは自明の理です。即ち復讐の輪廻を断ち切るためには双方が死ぬしかありません。恐らくそれは双方ともに解っていたはずです。第9章「ヘヴンズ ストーリー」はサトの両親が死んでから10年後の世界、しかしそこまでの8章と異なり死んだはずの恭子やミツオやトモキ、更にはサトの両親も登場するある種幻想の世界でありそれは文字通り「ヘヴンズ ストーリー」。
それを観ながら私はサトはこの10年で何を得たのだろうかと考えていました。力のない少女が両親を殺された、しかも犯人は自殺している。憎むことすら出来ない彼女にとって、擬似復讐を達成させてくれたトモキ。しかしそのトモキも今はもういない。彼女の存在はある種悪魔的ともいえると思うのです。自分が犯人を許さない、許せない、憎み続けるという無間地獄、この世界にトモキをもっと言えばミツオや恭子、更には何の関係もない多くの人たちをも巻き込んだのですから。しかし全てを失った彼女が唯一許されるのがこの世界でした。母親に抱きしめられるサト、それは「もういいのよ。」と彼女の心を解き放ち、同時に彼女が人を許せるようになった瞬間なのだと思うのです。この作品、きちんと理解するにはあと2,3回観たほうが良いのでしょうけども、中々そこまで時間が取れるかどうか…(苦笑)
『ヘヴンズ ストーリー』
第1章 夏空とオシッコ
第2章 桜と雪だるま
第3章 雨粒とRock
第4章 船とチャリとセミの抜け殻
第5章 落ち葉と人形
第6章 クリスマス☆プレゼント
第7章 空に一番近い町1復讐
第8章 空に一番近い町2復讐
第9章 ヘヴンズ ストーリー
個人的おススメ度4.0
今日の一言:レビューまで長くなった…
総合評価:78点
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『ヘヴンズ ストーリー』予告編
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