クリスマス・ストーリー/Un conte de Noël
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風変わりな一家のおかしな物語 |
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『しあわせの雨傘』と並んでこの冬のカトリーヌ・ドヌーヴ作品として楽しみにしていた本作。『隠された日記 母たち、娘たち』とあわせるとここのところ立続けに3本も公開されると言うのも珍しいかも。しかも注目すべきはドヌーヴだけではありません。『潜水服は蝶の夢を見る』のマチュー・アマルリックやアンヌ・コンシニ、ドヌーヴの娘・キアラ・マストロヤンニ、『キングス&クイーン』のジャン=ポール・ルシヨンとエマニュエル・ドゥヴォス『ユキとニナ』では諏訪敦彦と共同監督も務めたイポリット・ジラルド、『夏時間の庭』のエミール・ベルリングといった豪華なキャスティングにはそれだけで心浮き立つものを感じます。物語はクリスマスを中心にして展開されるヴュイヤール家の家族を描いたもの。端的に言ってしまうとこの家族、みんなどこかしらおかしいのです。


元々ジュノン(カトリーヌ・ドヌーヴ)とアベル(ジャン=ポール・ルシヨン)夫婦には4人のこどもがいるはずでしたが、長男のジョゼフは幼くして白血病を患います。ジョゼフを救うために夫婦は子供を作り、生まれた男の子はアンリ(マチュー・アマルリック)と名付けられましたが、残念ながら骨髄は不適合。ジョゼフは亡くなってしまうのでした…っというのが先ずはプロローグ。この設定は『私の中のあなた』と同じですが、違うのは結局役立たずに終わったアンリをジュノンがずっと嫌っていること。そりゃおかしいだろうと思うのですが、何せ面と向かって「あなたが嫌い。」と言い切って憚らないのだから仕方ない。聞いてるだけだと凄く嫌な母親に聞こえてしまうでしょうが、これをドヌーヴが演じると全然嫌な人に見えないから困ったものです。


年齢を重ねてますます気品を漂わせる彼女の演技は、往年のファンならずとも思わず引き込まれてしまう魅力があります。アンリを嫌っているのはジュノンだけではありません。姉のエリザベート(アンヌ・コンシニ)もそうでした。物語序盤では借金のかたに父親の工場や家屋敷まで売らせようとするアンリに代わって、彼女が借金を支払うかわりに彼を家族から追放するというシーンが描かれます。まあ確かに観ているだけでもロクデナシなのは解るのですが、どうも借金そのものが彼女が彼を家族から追放した原因ではないらしい。彼女は自分の息子ポール(エミール・ベルリング)が心の病を患っていることすらアンリのせいにする始末で、むしろその憎しみ方は尋常ではありません。正直いうと、私は度が過ぎる彼女の嫌い方が非常に不愉快でした。


ところが神様は意地悪と言うか皮肉屋というか…。ある日ジュリアがジョゼフと同じ白血病であることが解り、しかも兄弟たちが血液検査をした結果、よりによって適合するのがアンリとポールだけということが判明するのです。おかしなもので、アンリがポールに会うことすら嫌っているエリザベートを尻目に、一族の嫌われ者と友達が誰もいない孤独な少年という似たような境遇の2人に骨髄の適合者という共通点が加わって心を通わせていく様子が不思議に心地良かったり。ユニークだったのがジュリアが骨髄移植を受けた場合と受けない場合に関して、余命を計算で割り出そうとするシーン。これはエリザベートの旦那のクロード(イポリット・ジラルド)が優秀な数学者だという設定を活かしているのですが、家族が揃いも揃ってなにやってんだと。(笑)


微分だか積分だか知りませんが、割り出された数字は、移植を受ければ1.7年は大丈夫……ってそれ短くないか?なにやらやけに悲観的な数字しか並ばないのに、当のジュリアは移植の副作用である皮膚炎が嫌だから受けないなどと言い出す始末。すったもんだの挙句、1月1日に骨髄移植を受けることに決まるのでした。余談ですがフランスは元日でも普通の日と同じなのだなと改めて実感。さて、かくもおかしなこの一家。一見まともに見える三男イヴァン(メルヴィル・プポー)とシルヴィア夫妻(キアラ・マストロヤンニ)もやっぱり変。そもそもシルヴィアはイヴァンの従兄弟のシモン(ローラン・カペリュート)の事が好きだったらしいのだけれど、シモンの方もシルヴィアを愛していたのだというのです。それはいい、結婚前ならどうなりと。


ところが、今になって燃え上がる恋心、一晩をともにしたベッドに子供たちが母親を起こしに来ると、ドアの向こうで見ているのは夫のイヴァンじゃないですか。にこりと笑って立ち去るケヴィンだけれど、この“にこり”はシルヴィアを信用しているからなのか…。それにしても自分の妻が従兄弟と裸でベッドをともにしたのを目の当たりにして、何も起こらないと言うのがもはや私の理解の範疇外だったりします。そもそもアンリは一家の中でもおかしなヤツで通っていたらしいけれど、私から言わせてもらえれば他の家族とどこが違うのか。一番まともなのは父親のアベルぐらい。全くおかしな連中だと思いつつも、華やかなクリスマスの夜の晩餐、深夜のミサと欧米のクリスマスの過ごし方は、日本とは違う家族の団欒を強く感じさせてくれる素敵な情景です。

しかし家族で見ていた映画が『十戒』とはこれがまた皮肉。一体この一家はいくつ破ってるんだろう。ふと気がついたのは、ここまで何とはなしに本当の家族の数日間を切り取ったかのように物語に入り込んでいる自分がいたということ。そう、クリスマスの夜に語り継がれていく、とある家族の喜怒哀楽を盛り込んだ現代版の寓話だと考えたらしっくり来るのではないでしょうか。デプレシャン監督のタクトによる豪華俳優陣の競演は、クリスマスの夜に奏でられるオーケストラの演奏にも似た魅せる作品だったと思います。
個人的おススメ度3.5
今日の一言:マチューさんおデコ大丈夫?
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『クリスマス・ストーリー』予告編
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