信さん・炭坑町のセレナーデ
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懐かしさと共に淡々と過ぎる時間 |
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派手さはない、目新しさもない、しかし主演の小雪が出演したヒット作『ALWAYS 三丁目の夕日』と同じく昭和30年代のしみじみとした日本的な良さ(それは人であったり町であったり)が感じられる作品でした。もっともこれは『ALWAYS 三丁目の夕日』の時も言われていたことですが、実際にその時代をその場所で生きていた方々にとっては私たち若い世代が感じる情緒というより、あくまで経験上の懐かしさを感じることが多いようです。この時代としてはいささか美人でスタイルが良過ぎるけれど、何故か案外はまっている小雪は今回バツイチで子持ちの辻内美智代という役。物語は彼女の息子・守(池松壮亮)が過去の回想を語りかけると言うオーソドックスなスタイルで進んでゆきます。




最初島に着いた時には守(少年時代:中村大地)も小学生。都会の上品なお坊ちゃまが、腕白な島の子に目を付けられると言うのはある意味お約束な展開です。絡まれている守を助けたのが“信さん”こと中岡信一(少年時代:小林廉)。島一番のガキ大将で悪さばかりしているこの少年、ここから先長きに渡っての親友となる守との出会いは運命的ですが、ここで本人的にはもっと運命的な出会いをすることになります。それが守の母である美智代との出会い。一目会ったその日から――ではないですが、ガサツな自分の母親・はつ(大竹しのぶ)と違って美人で優しくて都会的な彼女に彼は一目惚れするのです。彼にしたら理想の母親像であり、理想の女性像だったのでしょう。まったく彼女を見つめる目がまるでハートになってしまっている信さんは可愛らしいやら面白いやら。




ただ面白いのは信さんだけでなく美智代の方も同じ。年上女性を好きになる小学生は珍しくありませんが、小学生の男の子に惹かれるアラサー女性と言うのはかなり珍しいのではないでしょうか。ともあれ信さんと彼の妹・美代(金澤美穂)も含め守はドンドン逞しく島の子として成長していきます。彼らが元気に遊ぶ様子に絡めて炭坑町の活気ある様子が描かれますが、中でも中尾ミエ演じる駄菓子屋のおばちゃんがまた実に味のある存在。福岡の女性、炭坑町の女性らしくサバサバした太っ腹なおばちゃん、これは我々が普通に中尾ミエに抱いているイメージと見事に一致します。しかし昔はこんなおばちゃんが近所に沢山いて、誰の子でも等しく褒めたり怒ったりする。地域ぐるみで子供を育てていたものですし、私自身もよくそんなおばちゃんに怒られたり褒められたりしたものでした。




同じ時期には守は在日朝鮮人の子故にいじめられていたリー・ヨンナムとも友達になります。差別のない守の行動は気持ちの良いものですが、このエピソードは実は単純に守の優しさを表すだけではありませんでした。それは信さんの父親(光石研)が事故で亡くなった辺りから明らかになってきます。信さんは亡き父に代わって小学生ながら新聞配達を始め、家にお金を入れる生活を送るようになるのでした。即ち彼は小学生にして人よりも早く大人にならざるを得なかったと言う訳です。実は同じことがリーにも言えて、苛烈な虐めの中でも父からの「決して日本人に手を出してはいけない。」という命令を守っている彼は、守などよりもずっと大人だったのでした。やり返せと憤る守にたいして、彼はもし自分がやり返したらどんな結果をもたらすことになるのか解っていたのです。




ただ、2人に比べて守が恵まれた環境で育ったのは別に彼の責任では無い訳で。とはいえ、美代が守に出している再三のサインに気がつかないのには、見ているとこちらがやきもきしてきます。(苦笑)こうして淡々と守の日常を描いた毎日は過ぎて行くのですが、時代は高度経済成長期、当然ながら石炭産業は斜陽の一途です。リストラされる炭坑夫もいれば、信さんのように新に炭坑夫になるものもいるのですが、思えば彼の父親が炭坑のおかげで肺を病んだのに、その仕事に息子が就いた時点でなにやら先の運命が決まってしまったように感じます。俗にいう死のフラグが立っているとでもいうのでしょうか…。小さな離島の炭坑町で守が信さんと過ごした数年間の想い出を唯淡々と綴ったこの物語、誰しも心の中にこんな懐かしい想い出の1ページがあるのではないでしょうか。
個人的おススメ度3.0
今日の一言:小雪さん老けなさすぎ…
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『信さん・炭坑町のセレナーデ』予告編
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