レオニー/Leonie
世界的彫刻家イサム・ノグチの母親、レオニー・ギルモアの波乱の生涯を描いた伝記映画だ。ニューヨークで野口米次郎と出会い、イサムを出産し、来日と様々な環境に身を置きながらも息子を愛し続ける母親を演じるのは『マッチポイント』のエミリー・モーティマー、野口米次郎は歌舞伎俳優の中村獅童が演じる。監督は『ユキエ』、『折り梅』の松井久子。>>公式サイト
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ある意味期待通りの作品だったといえるかもしれません。予告編を観た段階で、20世紀初頭のアメリカの様子や、日本の雑踏、家屋といった情景は上手くできていると思っていたのだけれど、実際確かに美しい映像が多かったと思います。光の加減が絶妙だと感じました。同時に中村獅童のあまりにコテコテな日本人像が気になっていたのですが、この人、歌舞伎役者の割りに昭和初期のステレオタイプな日本人男性がどうも馴染みません。結局は若いのかも。ちなみにイサオ・ノグチの名前自体初めて聞く私としては、芸術家の母親レオニーとしてよりも、たった一人日本に渡ってきたアメリカ人女性レオニーという視点でこのドラマを観ていました。物語の展開は大きく分けて3つ。1つは野口米次郎(中村獅童)と出会い編集者として過ごすアメリカ時代、そして2つ目は来日してからの親子の生活、そして最後が帰米してからというものです。
野口米次郎のアメリカでの詩集出版の編集者として雇われたレオニー、物語では彼女の働きで「The American Diary of Japanese Girl」の出版が決まったのが2人の仕事の始めての成功として描かれています。この成功で一気に距離が縮まった2人は極普通に恋に落ち、やがてレオニーは妊娠するのでした。日露戦争による日本人に対する人種差別の強まりが米次郎をして単身帰国させる決意を固めさせるのですが、帰国を告げる米次郎にレオニーが妊娠を告げると「嘘だ!君は僕をこの国に引き止めたいがためにそんなことをいっているんだ!」。実際がどうだったのかは知る由もありませんが、この余りに使い古されたセリフにはちょっとガッカリ。そんなことよりも、具体的に彼がどのような人種差別に晒されたのかを描かなければ意味がないと思うのです。何故なら、それが今度はレオニーが来日した際に逆の立場となって彼女を襲うことになるから。
結局母の実家で後のイサムを産んだレオニー。日本に帰っても相変わらず原稿は彼女の元に届くことが、米次郎が編集者として彼女に信頼を寄せていた証のように思えます。そして1906年(明治39年)、米次郎の誘いでレオニーとイサムは来日。ここで彼女は女は男の3歩後ろを歩くだとか、家では靴を脱ぐだとかいった日本式の洗礼を受けるわけです。彼女が家を出る直接的な原因となったの米次郎に妻がいて自分が愛人扱いされることだったのですが、他の様々な場面でも描かれていたように、要は一個の独立した女性として扱われない、男尊女卑の社会が我慢ならなかったということでしょう。元は教師という彼女のために米次郎は英語を教わりたいという生徒を用意していましたが、実はその3人ともに既に話せる人間、即ちそれは異国の地の彼女を思いやって英語を話せる人間を集めたという米次郎の優しさも、彼女にとっては不本意だったようです。
米次郎は確かに身勝手であり、女性の目から見ると最低と映るかもしれませんが、この時代においては特に際立って悪い男だとは私は思えません。もっともこの役を中村獅童にオファーする制作者サイドも随分と強気だったと思いますが。(笑)本人曰く、この役のオファーが来た時は竹内結子と離婚問題真っ只中だったようでかなり悩んだんだとか。さて、レオニーは家を出た後2人目の子(アイリス)を産みます。この子の父親が誰であるかは描かれていません。ちょっと調べてみても解らないのですが、実際死ぬまで秘密にしていたのでしょうか。後にアイリス本人が聞いても頑なにレオニーは頑なに答えませんでした。生活に困った彼女は、大学時代に知り合った津田梅子(原田美枝子)を訪ねますが、「仕事は差し上げられない。」と断られます。表向きはあなたのような女性はまだ日本では受け入れられないというのがその理由。
つまりそれは「父親のいない子供を2人も抱えている外国人の女性」という意味なのですが、ここで津田は最初に「日本語は?」と聞いています。レオニーは滞在5年にして全く日本語がしゃべれませんでした。これは明らかに覚える気がなかったからであって、それは即ち日本の文化に溶け込もうとはしていなかったことを意味します。最初から数年で帰ることを想定して日本に来た訳ではないでしょうし、彼女ほど聡明な人が覚えられないはずがありません。津田の断った背景にはそういう部分もあるのではないかと思うのです。ただし、事ほど左様な頑固さ加減がある意味イサム・ノグチを育てたのだというのが物語の流れでした。即ちレオニーの頑固さは別に日本人や日本にだけ向けられたものではなく、先に書いたとおり娘であるアイリスにすら頑として父の名を言わなかったことからも解ります。印象深かったのがイサムの恩人に対するシーン。
アメリカに一人帰国したイサムを保護し医学校にまで通わせてくれた大恩ある人間に、彼女は会うなり「イサムは医学校を辞めさせます」と言ってしまうのでした。ここからは彼の芸術家としての才能を花開かせることが自分の使命であり、そのためなら何だってするという強烈な覚悟と自負が感じられます。つまり彼女の生き方は独立した一個の女性として男性と対等にといった考え方とはまた別のように思えるのです。終盤気がつくとイサムが学校を辞めて、いつの間にか芸術家として認められる存在になっていたりと、急ぎ足な点は否めませんが、レオニーを主人公とした物語としてはその時点では既にやるべきことをやり切ってしまっていたということなのかもしれません。日本には「若い頃の苦労は買ってでもしろ」なんて言葉がありますが、買った苦労を全て子供のために使ってしまったのが彼女だったように思えます。
個人的おススメ度3.0 今日の一言:話自体はそんなに面白いものでも… 総合評価:60点
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『レオニー』予告編
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» レオニー [映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜]
評価:★★★★☆【4,5点】
鑑賞前の個人的不安要素は、鑑賞後にはすべて消えていた。 [続きを読む]
受信: 2010年11月25日 (木) 19時29分
» レオニー [あーうぃ だにぇっと]
10月24日(日)@TOHOシネマズ六本木ヒルズ スクリーン2。
東京国際映画祭の特別招待作品上映で鑑賞。 [続きを読む]
受信: 2010年11月25日 (木) 21時10分
» レオニー [シネマDVD・映画情報館]
レオニー
スタッフ
監督・脚本: 松井久子
キャスト
エミリー・モーティマー 中村獅童 原田美枝子 竹下景子 柏原崇 中村雅俊
劇場公開日:2010-11-20
[続きを読む]
受信: 2010年11月25日 (木) 22時07分
» レオニー [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。英題:Leonie。松井久子監督、エミリー・モーティマー、中村獅童、原田美枝子、竹下景子、柏原崇、中村雅俊、吉行和子、クリスティーナ・ヘンドリックス、メアリー・ケイ ... [続きを読む]
受信: 2010年11月25日 (木) 22時19分
» 『レオニー』 [ラムの大通り]
(英題:Leonie)
----レオニーって人の名前だよね。
だれのこと?
「彼女は、天才彫刻家イサム・ノグチの母親」
----えっ。外国人っぽい読み方と思ってはいたけど、... [続きを読む]
受信: 2010年11月25日 (木) 23時32分
» レオニー [やっぱり邦画好き…]
レオニー役に抜擢されたのは、『マッチポイント』『シャッター アイランド』などに出演し、アメリカと母国イギリスで「若き演技派」と注目されているエミリー・モーティマー。レオニーが愛した男、野口米次郎には歌舞伎界のみならず、映画、TVドラマ、CMなど幅広く世界へ向け活躍し続けている中村獅童...... [続きを読む]
受信: 2010年11月26日 (金) 00時12分
» レオニー [象のロケット]
1901年、アメリカ・フィラデルフィアの名門女子大を卒業したレオニー・ギルモアは、ニューヨークに滞在中の日本人詩人ヨネ・ノグチ(野口米次郎)の編集者となる。 ヨネの詩や小説は一躍米英文壇の脚光を浴びるが、彼は自分の子を妊娠したレオニーを残して日本へ帰国。 レオニーは3歳になった息子を連れ日本を訪れるが、既にヨネには正式な妻がいた…。 彫刻家イサム・ノグチの母の生涯。 ... [続きを読む]
受信: 2010年11月26日 (金) 07時55分
» レオニー [風に吹かれて]
ある母の生涯公式サイト http://www.leoniethemovie.com彫刻家イサム・ノグチ(1904-1988)の母の生涯を描いた映画監督: 松井久子 「ユキエ」 「折り梅」1901年のニ [続きを読む]
受信: 2010年11月26日 (金) 14時45分
» 「レオニー」みた。 [たいむのひとりごと]
100年前の明治時代、まだまだ未熟な日本を訪れたひとりのアメリカ人女性:レオニーの半生が描かれた作品。ニューヨークで出会った日本人男性と愛し合い、子を授かった矢先”戦争”を切っ掛けにレオニーの人生は波... [続きを読む]
受信: 2010年11月26日 (金) 17時14分
» レオニー [ダイターンクラッシュ!!]
2010年11月23日(火) 16:15~ TOHOシネマズプレミアスクリーン 料金:0円(フリーパス) パンフレット:未確認 『レオニー』公式サイト フリーパス22本目。 1900年初頭、主人公のレオニーは、ニューヨークに来ていた野口ヨネなる日本人詩人の編集者となり、そのうちに恋仲になり懐妊するが、日露戦争と同時に、黄禍論で日本人パッシング発生、「僕ちゃん、国に帰る。」と、妊婦を置き去りにヨネ(婆さんみたいな名前だが、米次郎が本名だ。)は日本に帰ってしまった。 レオニーは、母親の住むカリフォ... [続きを読む]
受信: 2010年11月26日 (金) 19時07分
» レオニー [Diarydiary!]
《レオニー》 2010年 日本/アメリカ映画 -原題 - LEONIE 彫刻家イ [続きを読む]
受信: 2010年11月26日 (金) 21時57分
» レオニー [悠雅的生活]
何が幸せなのかは、死ぬときにわかるものよ [続きを読む]
受信: 2010年11月27日 (土) 09時57分
» レオニ―(2010)◆◇LEONIE [銅版画制作の日々]
世界的に有名な彫刻家、イサム・ノグチの母・レオニ―・ギルモアの物語を映画化。イサム・ノグチの展覧会に今から4年前に滋賀県にて開催さ... [続きを読む]
受信: 2010年11月27日 (土) 17時31分
» レオニー [心のままに映画の風景]
1901年、ニューヨーク。
レオニー・ギルモア(エミリー・モーティマー)は、日本から来た詩人、野口米次郎(中村獅童)出会い、編集者として彼の英詩を手伝うようになる。
やがて恋に落ちた2人だったが...... [続きを読む]
受信: 2010年11月27日 (土) 19時40分
» レオニー [とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ver]
松井久子監督が、世界的彫刻家イサム・ノグチの母レオニー・ギルモアの生涯を映画化した作品だ。松井監督は、製作・脚本も自ら取り組んでいて「マイレオニー」という支援団体の援助を受けながら数年をかけて完成させた。レオニーという主人公をエミリー・モーティマーが、イ... [続きを読む]
受信: 2010年11月28日 (日) 05時24分
» 「レオニー」異国の地で育て旅をさせた先にみた実践に勝る勉強なしの天才教育 [オールマイティにコメンテート]
11月20日公開の映画「レオニー」を鑑賞した。
この映画は世界的彫刻家イサム・ノグチの母親である
レオニー・ギルモアがイサムを産んで、
日本でイサムを育てそしてイサムが ... [続きを読む]
受信: 2010年11月28日 (日) 23時25分
» レオニー/エミリー・モーティマー、中村獅童 [カノンな日々]
世界的彫刻家である日系アメリカ人のイサム・ノグチの母であるレオニー・ギルモアを描いたヒューマンドラマです。イサム・ノグチの名前はなんとなく聞き覚えがある程度でましてや ... [続きを読む]
受信: 2010年12月 1日 (水) 23時32分
» 『レオニー』(2010)/日本 [NiceOne!!]
原題:LEONIE監督・脚本・制作:松井久子出演:エミリー・モーティマー、中村獅童、原田美枝子、竹下景子、クリスティーナ・ヘンドリックス、メアリー・ケイ・プレイス、柏原崇、山野... [続きを読む]
受信: 2010年12月 3日 (金) 06時08分
» レオニー [C'est joli〜ここちいい毎日を〜]
レオニー10:日本◆原題:LEONIE◆監督:松井久子「折り梅」「ユキエ」◆出演:エミリー・モーティマー、中村獅童、原田美枝子、竹下景子、クリスティーナ・ヘンドリックス、メアリ ... [続きを読む]
受信: 2010年12月 3日 (金) 17時29分
» 『レオニー』お薦め映画 [作曲♪心をこめて作曲します♪]
明治の外国人女性の一代記。隣の芝生は青い。自分は平凡な人生を送っていると思っている方は、その幸せを噛みしめて欲しい。困難でも妥協せず自分流にという方は彼女の生き方を参考にして欲しい。お薦め作品だ。... [続きを読む]
受信: 2010年12月 3日 (金) 20時54分
» 突き進む母〜『レオニー』 [真紅のthinkingdays]
LEONIE
1901年、ニューヨーク。平凡な人生を嫌い、自然と芸術への強い憧憬を持つ
レオニー・ギルモア(エミリー・モーティマー)は、ヨネ・ノグチ(中村獅童)という
名の詩人と出逢う。
...... [続きを読む]
受信: 2010年12月 6日 (月) 20時42分
» 力作「レオニー」 [再出発日記]
松井久子監督の前二作はDVDになっていない。全国での上映運動で制作費を回収するという手段を取っており、実際それによって同時期上映の「フラガール」よりも多い入場者を獲得す... [続きを読む]
受信: 2010年12月11日 (土) 21時43分
» 「レオニー」 [【映画がはねたら、都バスに乗って】]
彫刻家のイサム・ノグチの母、レオニーの物語。
20世紀初頭、ニューヨークで日本の詩人と出会い、その子を生んで日本に渡ってくる。
でも、この詩人が不誠実な男で、日米で腐れ縁みたいになっていくんだけど、それで...... [続きを読む]
受信: 2010年12月18日 (土) 23時26分
» レオニー [迷宮映画館]
彫刻家イサム・ノグチを育てた母の物語。 [続きを読む]
受信: 2010年12月20日 (月) 08時32分
» 『レオニー』『ルイーサ』をギンレイホールで観て、ぴんと来ない男ふじき☆☆,☆☆ [ふじき78の死屍累々映画日記]
婆さん二本立て。
◆『レオニー』
五つ星評価で【☆☆どうもレオニーに共感できず】
『オナニー』、それは観るしかない。
ん? 違うじゃん。
という訳でつまんなかった ... [続きを読む]
受信: 2011年5月 8日 (日) 00時49分
» 天国のレオニー [Akira's VOICE]
「レオニー」
「天国の日々」 [続きを読む]
受信: 2011年8月10日 (水) 10時39分
» レオニー(DVD) [パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ]
日本人の父とアメリカ人の母の間に生まれた芸術家イサム・ノグチの母レオニー・ギルモア。20世紀初頭を生き抜いたその波乱の生涯を、日米両国を舞台に描く。出演は「シャッターア ... [続きを読む]
受信: 2012年2月 8日 (水) 19時39分
» 映画評「レオニー」 [プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]]
☆☆☆(6点/10点満点中)
2010年日本=アメリカ映画 監督・松井久子
ネタバレあり [続きを読む]
受信: 2012年2月20日 (月) 10時56分
» 『レオニー』 ('12初鑑賞29・WOWOW) [みはいる・BのB]
☆☆☆-- (10段階評価で 6)
3月3日(土) WOWOWシネマの放送を録画で鑑賞。 [続きを読む]
受信: 2012年3月13日 (火) 20時47分
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