ソフィアの夜明け
|
| それぞれの現在・過去・未来 |
あらすじ・作品情報へ ![]()
←みなさんの応援クリックに感謝デス![]()
![]()

ブルガリア映画は殆ど聞いたことがないですが、年間の映画製作本数が僅かに7~8本なのだそうだ。そんな寡作なお国の作品ながら昨年の東京国際映画祭で東京サクラグランプリ、最優秀監督賞と最優秀男優賞の三冠を獲得したのが本作。元々社会主義国だったブルガリアは2007年にEUに加盟し、いわゆる資本主義社会の荒波に晒されています。そんな中、先の見えない未来に不安を抱えながら、それを乗り越えようと葛藤するというテーマ自体はそれほど珍しいものではありません。本作の主人公・イツォ(フリスト・フリストフ)もそんな一人。アーティストを目指しつつも、それで食べていける程甘い世界ではなく、ドラッグに溺れ、木工技師として働く傍らにメタドンによる治療を受けている最中です。しかし、本質的な不安を取り除くことが出来ない分、今はドラッグの代わりに酒でそれを紛らわす毎日を送っていました。

このイツォ役のフリストフは本作のクランクアップ直前に不慮の事故で亡くなったそうですが、監督は元々彼をベースに映画を撮ろうと考えていたと語っています。実際劇中に登場する恋人・ニキ役のニコリナ・ヤンチェヴァは本当の恋人。そんな設定も相まってか、ドラマであるはずがまるでドキュメンタリーを観ているかのような気にさせられます。そう、感覚的にはイラン映画『ペルシャ猫を誰も知らない』を観ているような感じでした。さて、イツォには長く会っていないゲオルギ(オヴァネス・ドゥロシャン)という弟がいます。彼もまた毎日に不満を抱く生活を送っていました。ただしかし、イツォと違うのはそれがより具体的ではあるものの、未熟な少年らしい不満だということ。継母の自分への干渉が我慢ならない彼はネオナチのグループへと加入します。これはもう殆ど反抗期とでも言うべき様態なのですが、本人はいたって真剣。

ゲオルギのこの作品に置ける役割は非常に大きく、彼らのグループがあるトルコ人一家を路上で襲撃したことで、その場に偶然居合わせたイツォとゲオルギの再会をもたらし、更にはイツォと一家の娘ウシュル(サーデット・ウシュル・アクソイ)を引合わせることになるのです。突然実家を訪れるイツォ。ゲオルギの行為を咎めに来たのかと思いきや、両親には何も言わずに黙って家を出てゆきます。だだっ広いビル建設予定地、遠くに古びた団地が見える場所で弟を優しく諭すイツォ。まるで未来と過去が交差するかのような場所に立つ2人はゲオルギが昔のイツォで、イツォが未来のゲオルギのようでもありました。「真似するのは頭だけにしとけ。」まるでお前の悩みは全部解っているというような包み込むような口調の言葉には兄貴としての優しさが溢れています。さて、イツォは襲撃されたトルコ人一家の父親を見舞いに病院を訪れるのですが、そこで出会ったのがウシュル。

一目で惹かれあう2人。それは正に運命的な出会いだったのかもしれません。初めてのデートの夜、夢中で喋るウシュルの言葉を笑みを浮かべながら聴いているイツォ。彼女は言います。自分は変わったのだと。悩めるイツォにとっての灯台のような彼女、果たして彼は過去のウシュルであり、ウシュルは未来の彼足りえるのだろうか…。残念ながら彼を嫌ったウシュルの父親が帰国を早めたことで、2人の希望に満ちた逢瀬は2度と訪れることはありませんでした。何も手につかなくなるイツォ。医者で己が不安をぶちまけるも結局は自分で乗り越えるしかない訳で、そんなことは彼自身が一番良く解っています。しかし、優しく手を差し伸べてくれる存在は誰しも必要であり、普通であればそれは両親であったり恋人であったり伴侶であったりするのですが、彼には誰もいなくなってしまったのです。恋人だったニキはむしろ自分のために彼が必要だという存在でしたから。

イツォがソフィアの街を彷徨い、夜明け近くに大通りに姿を現します。この通りはソフィアの目抜き通りで、昼間は路面電車や大勢の人々が行き交う道路。今はたった一人彼だけが歩いている。向かう当てもなくただとぼとぼと前に進むのみ。何とも彼の今を象徴的に描いたシーンです。ところが、突然登場した道端のとある老人から荷物を運ぶのを手伝うように言われるのでした。イツォだけでなく観ている私たちまで、まるで夢の中の世界からいきなり現実に引き戻されたような感覚に陥ります。少なくとも今この時は老人にとって必要とされる存在の彼。もしかしたら老人は未来のイッツォであり、イッツォは過去の老人なのかもしれません。物語は彼がゲオルギのようにキッチリとした立ち直りを見せるまでは描きませんが、しかし、希望の光が見えてきたことは間違いないのではないでしょうか。
個人的おススメ度
4.0
今日の一言:フリストの事故の原因てなんでしょう?
総合評価:80点
![]()
↑いつも応援して頂き感謝です!
今後ともポチッとご協力頂けると嬉しいです♪
『ソフィアの夜明け』予告編
| 固定リンク
















最近のコメント