ふたたび swing me again
かつてはらい病と呼ばれ、50年以上もの隔離生活を強いられたジャズマンが、人生の最後にかつての仲間たちに再会するための旅に出る、やり残した夢を実現するために…。主演は『シュアリー・サムデイ』 の鈴木亮平と財津一郎の若手ベテランコンビ。バンドメンバーに藤村俊二、犬塚弘、佐川満男といったベテランが、ミュージシャンの渡辺貞夫も出演している。監督は塩屋俊。>>公式サイト
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映画の冒頭でハンセン病に関する簡単な説明が出ます。そう、この作品は単なるジャズ映画ではなく、ハンセン病で50年以上にも渡って隔離されたとあるトランペッターが、その人生の最後にやり残したことを為すために、旅に出る様を描いたロードムービーでした。もとはらい病と呼ばれたハンセン病、その病状から社会的差別を受け、あまつさえその患者を隔離することを許した法律「らい予防法」。この法律は1953年に制定されましたが、1998年に「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」が起こされ、2001年に原告全面勝訴の判決が確定しています。そう、私の世代だけではなく、今20代の若い人たちにもこれは歴史ではなく記憶。病に苦しみ、差別に苦しみ、挙句の果てには患者の家族までもが差別を受ける。都会はともかく、判決確定から約10年が経過しても、地方では今だ誤った認識による差別が存在することを作品は描いています。
主人公の貴島大翔(鈴木亮平)はジャズにハマっている大学生。彼女とも順調で、特にどうということもない極普通のありがちな大学生です。そんな彼の家庭にある日死んだと言われていた祖父・健三郎(財津一郎)が帰ってくることに。そこで父・良雄(陣内孝則)は健三郎がハンセン病で隔離されていたことを告げるのでした。序盤の象徴的なシーンだったのは、大翔が現代の若者らしくその病に関して無知なこと。彼女に無邪気に祖父のことをしゃべるのですが、車で送り届けた時に映る彼女の家が古いお屋敷であり、それはまさにハンセン病に対する誤った差別が厳然と残っていることのメタファーです。実際問題、決まっていた姉の結婚が流れたり、大翔が振られたりといった差別が起こり始めるに到っては、母・律子(古手川祐子)が健三郎を家に閉じ込めておこうとする気持ちも解らなくもありません。もちろん決してそれを肯定してはいけないと思いますが。
健三郎の世話を頼まれた大翔が何気なく見せた1枚の古いレコード、それはかつて健三郎が病に倒れる前に結成していたバンドのもの。このレコードの影響で自分もトランペットを始めたのだという大翔、50年の月日を越えて祖父と孫の絆が繋がった瞬間です。同時にそこに挟まっていた1枚の古い写真を見て、健三郎は当時の仲間との約束を思い出すのでした。それは神戸にある老舗のジャズクラブ「SONE」でのステージでライブをすること。かくして大翔は、かつてのバンドメンバーを訪ねる旅に付き合うことになります。徐々に打ち解けていく2人、あれだけ気難しい健三郎にしても孫ともなるとやはり可愛いものなのなんだろうと思って観ていたのですが、彼の大翔への想いは私たちが想像しているよりずっと大きなものだったのです。即ちそれはバンドのピアニスト・野田百合子(MINJI)通称ユリッペと健三郎の悲しい恋がもたらした50年後の結果でもあったから。
相思相愛で結婚し、健三郎のハンセン病が判明した時、ユリッペのお腹には大翔の父・良雄がいたのです。しかし健三郎の入院後、ハンセン病患者と接触した彼女は屋敷の離れに隔離され、愛する息子を抱きしめることも出来ず…。要するに健三郎は音楽、愛する妻、そして愛する息子、果ては人間関係も含め全てを奪われたのです。百合子の墓が実家の墓ではなかったことに疑問を抱いた大翔に対してつぶやくように言う「そういう時代だったんじゃ。」は余りにも大きくて重いのでした。しかし私が観ていて最も悲しかったのは、同じ患者仲間とともに場末のスナックを訪れるシーン。心無い客が「国の金で飲めるんだから良いご身分だ。俺もらい病になりゃよかった。」と言い放つのです。裁判の勝訴により患者には賠償金が支払われています。それを揶揄したものですが、いきり立つ大翔に対して健三郎は「もうええ。もうええんじゃ。」と逆になだめるのでした。
彼らは社会から蔑まれ差別されることに慣れてしまった…。いや慣れはしないでしょうけれど、このくらいの嫌味は今まで数え切れないほど経験してきた、というより全てを失ってきた。だからこそその程度ではもう動じないのです。余りに悲しく切なすぎるじゃないですか。さて、健三郎と大翔が訪ね歩くかつてのバンドメンバーたちにも当然ながら50年の歳月は流れています。痴呆症のはずが、あの古い写真を見て記憶を取り戻すタツ(犬塚弘)、孫と暮らし健三郎が隔離された後の百合子の様子を教えてくれたマサル(佐川満男)、今では大会社の会長を務めているユキオ(藤村俊二)。男たちの想いはどれだけ年月を経ても色褪せることなく、昔以上にその輝きを増しているのが嬉しいところ。そして、実際にこの役を演じている俳優も、超の着くベテランたち揃いで、それ故にその人生経験から紡ぎ出している登場人物のセリフは有無を言わせない説得力を持って響きます。
クライマックスの演奏シーンへの導入は中々に憎い演出ではありますが、嬉しいのが「SONE」の曽根田オーナー役として渡辺貞夫が登場すること。音楽に無知な私ですら知っているほどの超大物サックスプレイヤーが登場し、尚且つその圧倒的なパフォーマンスを披露してくれる。これは実際凄かった!バンドのメンバーではご存知クレイジーキャッツのベーシスト犬塚弘だけが楽器が出来るものの、後のメンバーは全て演技。個人的には財津一郎のトランペットは中々真に迫るものがあったけれど、藤村俊二のトロンボーンはちょっと頂けなかったかな…。とはいえ最初にも書いたとおり、単純に音楽映画ではない以上これで十分だと思います。健三郎が大翔に渡したトランペット、それは文字通り健三郎の命のようであり、百合子の下に旅立つ彼は、皮肉にもこれでようやく50年以上前に失った全てを取り戻したことになるのでしょう。
個人的おススメ度4.0 今日の一言:地味だけれど秀作です… 総合評価:80点
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『ふたたび swing me again』予告編
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» 【映画】ふたたび swing me again [★紅茶屋ロンド★]
<ふたたび swing me again を観て来ました>
製作:2010年日本
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ヤプログさんのご招待で観て来ました。いつもお世話になってます!
ジャズを愛する大学生の大翔は、死んだと聞かされていた祖父が生きていて、帰ってくると知らされる。
なぜ生きていることを隠していたのかと父を問いただすと、祖父は50年前、ハンセン病にかかり、遠い島の療養所で治療していたのだという…。
初めて会う祖父に戸惑いながらも、接する大翔。
そして、祖父が自分の尊敬するジャズバ... [続きを読む]
受信: 2010年11月10日 (水) 17時10分
» 『ふたたび swingmeagain』(2010)/日本 [NiceOne!!]
監督:塩屋俊出演:鈴木亮平、MINJI、財津一郎、青柳翔、藤村俊二、犬塚弘、佐川満男、渡辺貞夫、古手川祐子、陣内孝則試写会場 : 九段会館公式サイトはこちら。<Stor... [続きを読む]
受信: 2010年11月10日 (水) 18時28分
» ふたたび swing me again [象のロケット]
神戸。 大学のジャズサークルでトランペットを吹いている大翔(ひろと)は、死んだと聞いていた祖父・健三郎がハンセン病療養所で生きていることを知らされる。 仮退院し50年ぶりに外の世界へ出た健三郎は「人生でやり残したこと」を果たすために、かつてのジャズバンド仲間たちを訪ねる旅に出た。 健三郎の身体を心配する大翔も同行することになったのだが…。 社会派音楽ヒューマンドラマ。... [続きを読む]
受信: 2010年11月11日 (木) 17時27分
» ふたたび swing me again [シネマDVD・映画情報館]
ふたたび swing me again
スタッフ 監督: 塩屋俊
キャスト 財津一郎 青柳翔 陣内孝則 古手川祐子 鈴木亮平 MINJI 犬塚弘 藤村俊二 佐川満男 渡辺貞夫
劇場公開日:2010-11-13
[続きを読む]
受信: 2010年11月14日 (日) 05時00分
» 『ふたたび swing me again』・・・音楽の力 [SOARのパストラーレ♪]
ハンセン病を患ったことでジャズへの夢を一度は断たれたトランペッターが、仲間との約束を果たすべく50年の時を経て憧れのジャズクラブ“ソネ”に帰ってくるまでの物語。 [続きを読む]
受信: 2010年11月14日 (日) 20時34分
» ふたたび swing me again/鈴木亮平、財津一郎 [カノンな日々]
50年ぶりに仲間たちと再会するために旅に出た元ジャズ・トランぺッターの老人と孫の物語を描いたロードムービーです。主演は『シュアリー・サムデイ』の鈴木亮平さん。財津一郎さんをはじめ出演されてるベテラン俳優さんたちは藤村俊二さん以外はよく知らないのですが、いず....... [続きを読む]
受信: 2010年11月14日 (日) 22時55分
» 『ふたたび』をシネマート新宿2で観て、ちょっと微妙に感じる男ふじき☆☆☆ [ふじき78の死屍累々映画日記]
五つ星評価で【☆☆☆美談だけど、NOIZEが入る】
存在も知らない(死んだと伝えられていた)祖父は
ハンセン氏病患者で50年近く、隔離生活を送らされてきた。
祖父と再会し、かっての仲間を探す旅に出る祖父と孫のロードムービー。
美談である。
さ....... [続きを読む]
受信: 2010年11月18日 (木) 00時50分
» ふたたび swing me again [映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子公式HP]
公式サイト孫と祖父の旅に寄り添うのは、二人が共に愛するジャズの調べ。展開はベタだが、真摯な姿勢で作られている作品だ。ジャズが盛んな街、神戸。長く療養所で暮らした78歳の貴島健三郎は、50年前、ジャズバンドに青春を捧げていたかつてのジャズ仲間を探すために、大学....... [続きを読む]
受信: 2010年11月18日 (木) 23時56分
» ●「ふたたび swing me again」 [月影の舞]
21日、日曜日。
映画「ふたたび swing me again」を観る。
香川県の大島ロケ作品。
冒頭シーンには、
香川県人なら誰でもわかる「屋島」が映る。
そして、海に向かってトランペットを吹いてる
哀愁漂う男のシルエットと静かなジャズのメロディで幕開け。... [続きを読む]
受信: 2010年11月23日 (火) 09時13分
» ふたたび swing me again [『映画評価”お前、僕に釣られてみる?”』七海見理オフィシャルブログ Powered by Ameba]
人生でやり残したこと、ありませんか?
全てを失った男が、再び歩き始めた。
指に馴染んだトランペットと
出会ったばかりの孫を連れて──
ハンセン病により50年以上もの隔離生活を強いられたジャズトランペッターが孫... [続きを読む]
受信: 2010年12月 1日 (水) 01時12分
» ふたたび swing me again [墨映画(BOKUEIGA)]
「お帰り」
【STORY】(goo映画様より引用させていただきました。)
ハンセン病の療養所を50年ぶりに出た、貴島健三郎、78歳。
そんな彼を迎えた貴島家。ジャズを愛する大学生の大翔には祖父が生きていたことは初耳で、初めて会う祖父との接し...... [続きを読む]
受信: 2010年12月14日 (火) 07時44分
» 『ふたたび swing me again』 [Cinema + Sweets = ∞]
モバイルGAGAでもらった観賞券があったので、先週観てきました。更新が遅くてスミマセン。。。
やっぱりテーマや出演者が渋めなので、客層も中高年の方が中心になってましたが、地味ながらも素敵な作品でした。
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かつてステージ・デビューを目前にし... [続きを読む]
受信: 2010年12月21日 (火) 20時42分
» ふたたび swing me again [パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ]
50年ぶりにかつてのバンド仲間と再会するため、孫と共に旅に出る男の姿を描くロードムービー。監督は「0(ゼロ)からの風」の塩屋俊。出演は「白椿」の財津一郎、「シュアリー・サ ... [続きを読む]
受信: 2010年12月25日 (土) 15時55分
» ふたたび [ゴリラも寄り道]
ふたたび SWING ME AGAIN コレクターズ・エディション [DVD](2011/06/02)鈴木亮平、MINJI 他商品詳細を見る<<ストーリー>>50年前ジャズバンドに青春を賭けていた男たちは、
今やそれぞれの人生の...... [続きを読む]
受信: 2011年7月 4日 (月) 07時47分
» ふたたび~Swing me again~ [映画!That' s Entertainment]
●「ふたたび~Swing me again~」
2010 日本 GAGA、松竹 111分
監督:塩谷俊
出演:鈴木亮平、MINJI、青柳翔、藤村俊二、犬塚弘、佐川満男、渡辺貞夫、古手川祐子
陣内孝則、財津一郎
<評価:★★★★★☆☆☆☆☆>
<感想>
今なぜハンセン氏病だった老トランペッターの話なんだろう。
話としては悪い話ではないのでけちをつけるつもりもないけど、映画と
してどうか、といわれると、ご覧の★の数となる。
なんなんだろう、物語性が希薄なのかなあ。
主... [続きを読む]
受信: 2012年1月22日 (日) 11時25分
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