毎秒[24]の真実
『タイム・オブ・ザ・ウルフ』が完成するまでの2年半の間、ニナ・クストリッツァ、エヴァ・テストールの2人の女性監督がミヒャエルハネケ監督に密着したドキュメンタリー。現場で職人と化している様子や、夫人との移動中におどけて話す様子など、普段は目に出来ない様子を見ることができる。ミヒャエル・ハネケののリアルを映し出している貴重な映像だ。 |
驚くほどに“普通”だったハネケ |
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タイトルはハネケ監督の言葉「映画とは、毎秒[24]の嘘だ。そこに真実 が、あるいは真実のヒントが潜んでいる。」をもじったもの。全編わずか58分の作品です。特にナレーションも無く、ハネケ監督に密着した映像が次から次へと映し出されるのみです。それはロケハンの現場だったり、プレミア上映でのティーチインの様子だったり、『タイム・オブ・ザ・ウルフ』の撮影現場だったり、フランスのテレビ局の取材の様子だったり、はたまた夫人との電車移動中だったり。それぞれのシチュエーションで、ミヒャエル・ハネケの様々な顔が見られて、ハネケ本人がどんな人物なのかがとても良く解ります。ともすれば鬼才と呼ばれ、近寄りがたい大監督のように思われがちだけれども、個人的には「案外普通のおじさんじゃん。」なんて思ったり。
私は仕事でテレビドラマの撮影現場や映画の撮影現場はこれまで何回ともなく観てきています。思ったのが、それらと比べても基本的にはやっていることはまるで変わらなかったということ。実際に撮影が始まると思っていた画にならなかくて、その場にあるもので工夫をしてみたり、或いはきちんと用意が出来ていなくて監督が怒ったり。演出をしたことがある人なら誰でも解ると思いますが、思い描いたイメージと実際の画を重ねあわせていく作業の過程は、大監督ハネケといえども我々と変わらないことに何だか安心感を覚えたのでした。即ちそれは、演出するということはいかに最初のアイディア、イマジネーションが重要なのかと言うことの裏返しでもあるのですが。
ハネケ監督を取材する映像で面白かったのが、取材する側もされる側も映像のプロだという点。当然ながら監督も相手を尊重しますが、そこはやはり作り手同士、「こっちのほうがいいんじゃない?」とか窓枠を指して「これ邪魔だろう。」なんてやり取りからは、取材側が恐縮している様子がよく解りました。言ってみれば、私が黒澤明監督を取材するようなものですから…。パリでの『タイム・オブ・ザ・ウルフ』プレミア上映、ティーチインで監督は観客の質問に丁寧に答えます。しかしそこはさすがフランス。日本で私が何度か経験したティーチインは、本当におずおずと質問をするといった感じですが、フランス人は相手がハネケ監督であろうとも議論を吹っかける勢い。
別にそれでお互いに不快になった様子も無く、相手が誰であっても自分の考えていることをキッチリ言葉にする文化の良さがそこに見えます。ここで監督が言っていたのは、「自分は楽観主義者でも悲観主義者でもなく、現実主義者なのだ。」ということと、「映画の全てを説明することよ良しと思わない。解釈は全て正解だ。」ということ。これはハネケ監督の作品、少なくとも私がこれまで観た3作品全てに共通しています。やはり『白いリボン』のレビューでも書いたとおり、監督は観るわ側にもそれ相応のスタンスを求めているのだと改めて思ったのでした。余談ですが、ハネケ監督ってスマートでカッコいいです。元々テレビ局に勤めていたという部分でもとても親近感が湧きました。
個人的おススメ度3.0
今日の一言:何かドラマDVDの丸秘特典映像みたいだ…
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