es[エス]/Das Experiment
スタンフォード大学心理学部で1971年に実際に行われた衝撃的な実験をベースに作られたドイツ映画。看守側と囚人側に分かれて行われる監獄実験は密室の中で人間が凶暴化していく様子を描いている。2010年にはハリウッドリメイク作品『エクスペリメント』が公開された。主演は『バーダー・マインホフ 理想の果てに』のモーリッツ・ブライブトロイ、監督はオリヴァー・ヒルシュビーゲル。 |
緻密な脚本が自然でリアルな実験を演出 |
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先ごろ本作のハリウッドリメイク作品『エクスペリメント』が公開されたのを機に、オリジナルも鑑賞。両方観て感じたのは、映画として人物の心理描写や脚本の緻密さはオリジナル作品の方がダントツに上だけれども、最終的に観客が感じるカタルシスはハリウッドリメイク版の方が上ではないかということ。今回はどうしても比較論になってしまうと思うので、リメイク版を観ていない方はこちらを参照して下さい。高額収入で人を集め、看守側と囚人側に分け、その状態をビデオカメラで24時間監視する監獄実験という設定は当然ながら同じです。しかしリメイク版では余りに定められたールールを無視し過ぎな看守側とそれを無視する実験者の存在が、監獄実験ストーリーそのものを破綻させていました。ところがオリジナルを観てみると、そこが先ず全然違う。
例えば、被験者は看守側・囚人側を問わず、実験者の教授(エドガー・セルジュ)たちと何度も面接し、あまつさえ看守側に到っては夜になったら帰宅が許されているではないですか。(それで実験に成るのかという疑問はあるけれど。)しかも、違反行為に対しては随時指示が入る。従って被験者たちは自分たちが実験中であることを意識しやすい環境に置かれている、つまりこれが「監獄実験」であることを観ているものにリアルに感じさせてくれるのです。しかしリメイク版は実験者が出てくるのは最初だけ。看守側も囚人側も完全に施設に閉じ込められ、ルールでがんじがらめに縛られています。外界との繋がりを完全に断たれたある種異様な環境では実験のイメージよりもゲームのイメージを強く感じさせるものでした。
結局実験そのものは教授が劇中で語るとおり囚人タレク(モーリッツ・ブライブトロイ)と看守ベルス(ユストゥス・フォン・ドーナニー)の主導権争いに発展していくという流れは同じ。実に上手いと感じるのは、2人を中心に看守側と囚人側がお互いに対する憎しみを募らせていく過程です。ハリウッドリメイク版では、ある瞬間からベルス役にあたるバリスの狂気が一気に頂点に達してしまい、やってる行為が殆どリンチ状態になってしまいます。しかしオリジナルのベルスは本当に少しずつ、いつの間にか看守側のリーダーに納まってしまった。その過程に強引さがまるでなく、観ている私たちも自然に彼をリーダーとして観てしまうように仕向けられてしまう、この脚本の流れが秀逸なのです。暴力行為は禁止だというルールを簡単に破って殴り倒すようなことはしません。
「囚人をコントロールするには屈辱を与えることだ」というセリフは両作品に登場しますが、オリジナルを見ていると、なるほど囚人の中にちょっとづつ屈辱と、そして同時に恐怖が積み重なっていく様子が解るのです。裸にするのも、単に1回裸にしたところでそう屈辱的ではないでしょう、そこに裸のまま獄舎の前で長時間立たされたりといった細かい処罰を加えることで初めて裸にされることへの恥辱と恐怖が湧いてくるのです。そもそもタレクが反抗的な態度をとる理由もまたオリジナルとリメイクでは説得力に大きな違いがありました。リメイクでは高収入を得て恋人の待つインドへ行く資金にしたいからということと正義感でした。しかしオリジナルでは、実験の記事を新聞社が更に高額で買い取ってくれるということのほかに、タレク自身が記者としての功名心があります。
どちらの理由ももちろんアリなのですが、映画的なドラマチックさを含むのはリメイク版であり、反面オリジナルはとにかく自然。こういう部分一つとってもハリウッド的なドラマチックさと、本当に実験のリアルさという、最終的に映画として完成させるベクトルの違いが現れていました。まあリメイク版のフォレスト・ウィテカーの余りの狂気は、それだけ観たら役者としての上手さを感じるのですが、双方観るとちょっとやり過ぎで、却って作りすぎに見えなくもありません。さて、オリジナルとリメイクの最も大きな違いは、先に書いたとおり実験者と接触できるかどうかということ。この差がラストに向けて両作品に大きな違いをもたらします。なんとオリジナルでは看守たちは暴走し、教授の助手を勝手に囚人にしたり、あまつさえ女性の助手をレイプしようとするヤツまで出る始末。
挙句に教授を空気銃で撃ってしまったり。こうなるともう収拾がつきません。実験云々ではなくて単なる犯罪ですから。大騒動の内に囚人たちが逃げ出すのは両作品とも同じですがオリジナルは基本的には囚人たちはとにかく脱出第一。個人的にはココまででかなりフラストレーションが溜まっているんで、リメイク版の如く囚人たちが看守たちを襲い叩きのめすぐらいのカタルシスは得たいところではありますが、それはリメイク版のタレク役・トラヴィスが正義感ある人間という設定だから成立するわけで、より現実に即した本作の場合はタレクとベルスの殴り合いシーンが精一杯でしょうし、実際問題としてもそんなところでしょう。他にも恋人の存在理由であったり、タレクの同房で実は空軍少佐のシュタインホフの存在など、全てが矛盾なくきちっと練りこまれているところに、本作の映画としての完成度の高さを感じました。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:タレクってキアヌに似てない?
総合評価:76点
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『es[エス]』予告編
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