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2010年12月15日 (水)

タイム・オブ・ザ・ウルフ

Photo フランスでは2003年に公開されたものの日本では今回初めてスクリーンで上映されることになった、ミヒャエル・ハネケ監督の8作目。何らかの理由で水や食料が足りなくなったヨーロッパを舞台に、人間の心に潜む悪意を描き出した近未来サスペンスだ。主演は『ピアニスト』のイザベル・ユペール。
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ハリウッドとは一線を画した近未来サスペンス

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日本では劇場初公開ということで行ってきました。ミヒャエル・ハネケ監督の8本目の作品です。当然ながら予告編その他一切の情報がなかったので、先ずは序盤の展開に驚かされました。とある一家、父親・母親・長女・弟の4人家族が別荘らしき所に車で到着、荷物を運び込むあたりは、それこそハリウッドの映画やらドラマで何度も見てきた風景です。ところが、家に入るとそこにはライフルを構えた男が…。強盗?いや、どうやらその妻と息子もそばにいる。何だか解らないけれど、非常に飢えているらしい。父親が男と交渉しようとした時、響き渡る銃声…。え?殺された?いきなり?なんで?余りに唐突で理解不能のプロローグに呆然としつつも、一気に提示された多くの疑問は物語への興味を一気に掻き立てる効果抜群。この後、残された母親と姉弟が僅かな食料と自転車を引きながら街へと向かう展開で、疑問は次第に氷解していくことになります。

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要は何らかの原因で極端な食糧不足に陥ったヨーロッパが舞台になっているらしい。母アンナ(イザベル・ユペール)が娘エヴァと息子ベンを連れてとぼとぼと歩いている様子からは『ザ・ロード』の父子を思い出ださせますが、少なくともリアリティはこちらの方がはるかにあります。ハネケ監督は「自分は楽観主義者でも悲観主義者でもない。現実主義者なんだ。」と自らを称していますが、無人の納屋で夜を明かすシーンはまさに象徴的でした。夜中に目を覚ましたアンナとエヴァはベンがいないことに気付き、持っていたライターで藁に火をともして探し回ります。真っ暗闇の中、本当に藁に灯る炎だけがアンナの顔を照らし出す。通常は真っ暗闇といっても俳優が最低限映る程度のライティングはするものですが、そんなものは一切無し。従って全身は到底映らず、闇にぼうっと浮かび上がるのはアンナの顔だけなのです。

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余計な効果音は必要ありません。漆黒の闇こそ人間の恐怖心を呼び起こす最大のエフェクト。見失った息子を捜す親としての不安、しかし闇がもたらす自分自身への危険に対する不安、観ているものにも、文字通り先が見えない不安が広がると言う秀逸な演出です。結局翌朝ベンは一人の少年と共に見つかります。彼は“列車”を待つためにとある駅舎で寝起きしているらしい。家族はそこに向かうのでした。駅舎には何人かの人間が共に寝起きしています。“列車”がいつ来るのか、何処に向かうのかなど具体的なことは一切解りません。ただ一度だけ、確かに家族の目の前を“列車”が走り去るシーンで、それが実在していることだけは明らかになっています。正にこれは一家の人々の“希望”の象徴に他なりません。お金が役に立たない世界では、モノを手に入れるには物々交換にたよることになります。持てる者は富み、その者が力を持つというのは集団の鉄則。

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この小規模なグループにもそれは当てはまります。一見すると如何にも理解のあるリーダー然とした顔の裏側には、自分本位の強烈なエゴが見え隠れする。アンナは人間の醜悪な部分から子供たちを必死で守ろうとしますが、子供たちは直感的にそれに気付いているのでした。ただ面白いのは、そのグループでトップであっても、より大きな集団に飲み込まれたら結局はそのルールに従わざるを得ないと言う事実。正に弱肉強食です。本作ではある日大量の難民が駅舎に到着することがそれでした。さて、本作を通してみて興味深かったのは、物語の展開に従って中心となる人物が違うこと。この大量の難民が到着するまではアンナ主体で話は進みますが、駅舎に着くと徐々に娘のエヴァが中心へとシフトして行きます。納屋で出会った少年は彼女にだけは心を開いていて、この殺伐とした状況にも関わらず、エヴァの様子はどこと無く恋心すら漂わせるものでした。

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大量の難民たちの流入は、それまで辛うじて保たれていた秩序を破壊します。駅舎の中は立錐の余地も無いほどの人で溢れかえり、物理的にも精神的にもカオス状態。以前はそれでも仮面に覆われていた人間のエゴは、もはや隠すことも無く公然と表に晒される。こいつは以前泥棒だっただの、ヤギが盗まれただの……。この流れの中で何とアンナたちは、父親を殺したあの家族と再会するのでした。狂ったように泣き叫び、人殺しと訴えても何の証拠も無い。「逢った事も無い」と言われればそれまで。しかし、社会秩序が崩壊した世界ではこんな不条理当たり前だということ。一体全体この作品に救いはあるのか…。アンナは大人であり、子供たちのために生きることが心の支えでありまた同時に希望となっています。そしてエヴァは紙と鉛筆を見つけ、死んだ父親に手紙を書くことで、未来に対する淡い希望を自分の中に具現化していました。

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即ち両者とも、自分と言う人間のレゾンデートルを辛うじて保っていたのです。しかし弟ベンは違いました。彼の心の中は絶望が支配していたのです。大好きな父親を失い、人間の醜悪な心をモロに見せ付けられ、しかしそれを許容するにはベンは幼過ぎたのです。燃え盛る炎の前で全裸になり今にもそこに飛び込もうとする彼。それは己の内にも存在する醜悪な人間性を浄化しようとするかのようでもあります。しかし、そんな彼の行動に唯一人気がついたのが、エゴ丸出しで行動していた大人のうちの一人だったことは皮肉。しかし男がベンを優しく抱きかかえて話しかける姿に胸が締め付けられる想いがしました。「お前は勇敢だから考えたんだな…お前なら飛び込んでた…でもやろうと思っただけで十分なんだよ…。」それは、納屋でベンを探していた時、漆黒の闇の中に浮かんだ一筋の藁の炎のごとく、この混沌とした状況の中に見えた一筋の希望でした。

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ラストは“列車”から観る一面緑の風景。流れ行く風景には特別なものは何も映っていません。ベンたちはこの“列車”に乗っているのか?他の人たちは?他のハネケ作品と同じく、全ては私たちの心の中にあります。ハネケ作品2本目ですが、ますます魅せられてしまった自分がいました。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:何がこんなに魅了するのか…
総合評価:79点

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『タイム・オブ・ザ・ウルフ』予告編

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受信: 2010年12月20日 (月) 18時18分

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