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2010年12月20日 (月)

海炭市叙景

Photo 1990年に41歳で自殺した函館出身の作家・佐藤泰志の未完の連作短編集を映画化。海炭市という架空の地方都市を舞台に、そこで懸命に生きる人々の姿をリアルに綴ったオムニバスタイプのヒューマンドラマだ。監督は北海道出身で『ノン子36歳(家事手伝い)』の熊切和嘉。出演は『アウトレイジ』の加瀬亮、『おにいちゃんのハナビ』の谷村美月、『春との旅』の小林薫ら実力派が揃った。
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それでも人は生きていく

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特段ドラマチックな展開が待っているわけでもありません。ただひたすら粛々と、北海道の架空の地方都市・海炭市に生活する市井の人々を描き出した作品でした。人間生きていれば良いこともあるし、悪いこともある。いや、どちらかと言うと悪いことの方が多いかもしれない。でも懸命に生きていかなくてはいけない。小泉改革以来地方の疲弊は激しいといわれるけれど、その実態がこの作品には描かれていると思います。生まれも育ちも大都会で今も東京等に住む人々には、もしかしたら地方で生きるこういった人々の気持ちは解りにくいかもしれません。しかしそういう人々は、ある種の現実を知って欲しいし、私のような地方出身者で今は都会に住むものは故郷に想いを馳せて欲しいし、実際に地方に住む方々には、一生懸命生きている同志がいるのだと感じて欲しい。そんな作品です。作品は全部で5つのエピソードからなるオムニバス仕立てでした。

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タイトル:まだ若い廃墟(公式サイトより)
出演:竹原ピストル、谷村美月

海炭市の恐らくは大きな産業の一つである造船所。進水式で出て行く船を目を輝かせて観ている颯太(竹原ピストル)の姿も今は昔、不況のあおりを喰って新造船事業は縮小。船に全てをかけてきた颯太は解雇されてしまう。組合はスト権がどうだと闘争を展開している中で、彼だけはそれに直接参加せず、先輩を信じ、船を造るという自分の仕事に誇りを持っていた。けれど退職金の割り増しを条件に組合は雇用側と妥結してしまう…。金じゃない、金の問題じゃない!そんな颯太の想いはよく解る。元々金がいいからこの仕事をしていたわけじゃないのだから。大晦日に妹の帆波(谷村美月)と食べる年越しそば。温かいそばをすすっているシーンなのに、漂うのは何ともいえない寂寥感です。

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この2人はこれからどうするのだろう?そう思いながらも観ていると、初日の出を観に行くことに。ロープーウェイで登った山頂からみる初日の出はそれは美しく、そして凄く寒い…。未来に対する希望が見える笑顔の帆波と、未来に対する絶望に暗澹とする颯太の表情が対照的でした。帰り、お金が無くて颯太だけは歩いて山を降りることに。帆波が下でいくら待っても兄は降りてこない…。あまりに救いの無い現実が切なすぎます。何故?お金が無いと神様も見放すの?それとももしかして…思わずよからぬ風にも考えてしまったのでした。颯太がどうなったのか。それはこの先のエピソードを見ていく中で判明します。

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タイトル:ネコを抱いた婆さん(公式サイトより)
出演:中里あき、山中崇

何やら崩れそうな家から、そりをひっぱって出てくる老婆。市場で売り物をするも全く売れる様子も無い。トキ(中里あき)は一人暮らし、いや正確にはヤギ2匹とニワトリ3匹、そしてネコのグレと暮らしている。家の周りは更地になっていた…、そう、簡単にいうと、トキは立退きを拒んでいる老女なのでした。市役所の職員まこと(山中崇)が説得に来ても、いきり立つでもなく、無視するでもなく、しかしきっぱりと断るトキ。スクリーンはそんなトキの生活がただ映し出されるのみです。テレビから流れるのは海炭ドックの一部閉鎖のニュース。世の中がどう変わろうと、頑なに変わることを拒む人は必ずいます。そしてそれもまたお金の問題ではありません。

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その場所で生活を営むこと、それ自体が生きること。トキを見ているとそんなことを感じました。ある日グレが姿を消します。珍しく焦った姿を見せるトキ。田舎でネコを外飼いしていると、必ず1度は経験することですね。しかし、すぐにまたトキはいつもの日常に戻ってゆきます。一日働き、ご飯と汁物とお漬物といった簡単な食事をして寝る。それは全ての虚飾を取り去った、純粋に生きることそのもののようにも見えます。家の周りで工事が始った頃、グレは不意に戻って来ました。トキがずっとこの場所で生きていることを、この場所を動かないことを知っていたかのように。

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タイトル:黒い森(公式サイトより)
出演:小林薫、南果歩

プラネタリウムで働く比嘉隆三(小林薫)と水商売をしている妻・春代(南果歩)の物語です。星が好きでプラネタリウムで働くも、水商売の春代とはすれ違いの毎日。中学生の息子は口もきいてくれない。これまたひたすら孤独としか言いようが無い隆三の姿が同じ男としては堪らなく物悲しいものがありました。具体的に背景は語られないけれど、少なくとも昔は家族3人で星空を観に行き、それに感動する暖かい家庭だったようです。ある日、春代は帰ってきませんでした。お店の娘の家に泊まったというあからさまな嘘。嘘は人をより一層孤独にさせます。一体どうしてこうなってしまったのか。全くその辺は触れられていないので、少しだけでも描いて欲しかったところではあります。

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まあ一般的に想像する限り、最初は隆三の収入の足しにするために働き出したとでもいったところでしょうけど。孤独が猜疑心を生み、遂には春代の店にまで押しかけようとする隆三。本当はこんな事はしたくない。すれば益々春代の心は自分から離れていく。けれどそうせずにはいられない。葛藤する胸のうちがヒシヒシと伝わってきます。ところが、それをあざ笑うかのように酔客とタクシーで消えていく春代…。出演者としては最も豪華と言ってもよいエピソードでしたが、今回の5つの中では唯一説明が不足して背景も観る人の想像頼みになってしまった物語でした。

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タイトル:裂けた爪(公式サイトより)
出演:加瀬亮、東野智美、小山燿

このエピソードと一つ前の「黒い森」そして次の「裸足」は本作の中で人の繋がりがある物語です。小林薫扮する隆三が働くプラネタリウムに毎日来ていた少年がいました。彼の名前はアキラ(小山燿)。父親の晴夫(加瀬亮)は父親の代からのプロパンガス屋。加瀬くん、ついにガス屋さんまで…この人は作品ごとにガラッと違う顔を見せてくれますが、実に上手い役者ですね。見たところ若いときにはヤンチャしてた様子が覗えます。何とかオヤジを越えようと、浄水器のセールスマンを帯同し、お得意さん回りをするものの全く売れず…。父親の言動を見る限り、まだまだ社員に対する影響力もオヤジの方が上のようで、それが余計に彼の苛立ちを募らせているのが良くわかりました。

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再婚した元同級生の勝子(東野智美)は晴夫が不倫していることへの鬱憤、そして日頃の晴夫の言動に対する鬱憤の全てを晴夫の連れ子であるアキラにぶつけていました。上手く行かない家族の典型のようですが、結局不倫も含めて、晴夫の焦りなんだと思うのです。何故そんなに生き急ぐのか…。ホテルを建て替える同級生の男、自由に遊び暮らしている同級生の女、自分だけが小さな町のガス屋で小さくまとまってしまう、オレはこんなもんじゃないんだ。そんな苛立ちは解らないでもありません。しかしどんな理由があっても子供への虐待は許せない。故に勝子を顔面パンチで殴り倒した時にはちょっと溜飲が下がった思いがしたのでした。(苦笑)

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タイトル:裸足(公式サイトより)
出演:西堀滋樹、三浦誠己

前のエピソードに登場した浄水器のセールスマンがこのエピソードの主人公・博(三浦誠己)。実は彼の実家はこの海炭市にありました。父親の達一郎(西堀滋樹)は路面電車の運転手。来る日も来る日も路面電車を運転し続ける、しかも終点まで行ったら反対側の運転席に移動してまた出発を繰り返す。地味で単調な毎日の仕事ですが、地に足をつけて生きるとはこういうことでしょう。到底売れそうに無い浄水器を売り込もうとする博とは対照的です。飲みに出ようとホテルを出た彼は、1万円しか持ち合わせが無かったものの、地元のスナックのお姉さんに誘われ、5000円ポッキリの約束でお店に。これがまた地方の場末のスナック感がもうありありすぎ。(笑)

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ホステスが不細工なのは言うに及ばずなのですが、飾らない彼女たちの存在は何か剥き身の人間を感じさせます。まずい酒にも飽きて店を出ようとしたその時、酔っ払った男が飲ませろと店に入ってきますが、あえなく追い出されるはめに。「金ならあるんだ!」と言うその男。お金が無くても飲める博と、金はあっても飲めない男。結局世の中そんなものなのかもしれません。父親と折り合いが悪いと言っていた博でしたが、墓参りで偶然であった帰りのバスでの短い会話をきいていると、何か吹っ切れたように思えます。今度はきっとゆっくり田舎に戻ってくるのではないでしょうか。

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5つのエピソードには基本的には話としての繋がりはありません。しかし、最初のエピソード「まだ若い廃墟」の海炭ドックの閉鎖であったり、颯太の遭難であったりがそれぞれのエピソードでテレビの中にニュースとして流れることで、全ての話が同じ地域で同じ時期に起こっている、何人もの人生を垣間見ているのだと気付かせてくれます。最後の最後、それぞれの人生が一瞬だけ重なる演出は正に『クロッシング(2010:米)』以上にドラマチック。しかし嫌らしさが全く無い本当の意味での一瞬のすれ違いでした。函館を舞台に撮影されたこの作品、とても寒いです。ともすれば心も寒くなります。しかし生きることってこういうことだという現実が心に染みました。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:本当に寒くてコート被って観てました…
総合評価:80点

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『海炭市叙景』予告編

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