君を想って海をゆく/Welcome
イギリスにいる恋人に会うためにイラクから4000キロを歩いてフランスにたどり着き、更にドーバー海峡を泳いで渡ろうとするクルド人難民の青年と、偶然に彼をコーチすることになった中年男の交流を描いたヒューマンドラマ。主演は『すべて彼女のために』のヴァンサン・ランドン、共演に新人フィラ・エヴェルディが出演している。フィリップ・リオレ監督が難民政策に鋭く切り込んだ問題作だ。 >>公式サイト |
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移民・難民問題は非常にデリケートで難しい。そもそも日本のように移民の受け入れ自体が極僅かで、それもどんなルールなのかすら一般人には全くわからない様な国に住んでいる身としては、たとえフランスがどのように厳しい移民政策を取っていたとしても、基本的にはそれに対して何かを言える立場にはないように思う。早い話がフランスから言えば「それでもお前らよりは遥かに受け入れてるよ。」というわけ。しかし一方で日本もドンドン人口は減少していることを考えると、将来的には本格的な移民の受け入れをするという選択肢も考えなくてはいけない時期に来ている。なればこそ私たちは、折角フィリップ・リオレ監督が提示してくれた移民問題の現実をしっかり観て、自分たちがもしそうすることになった時のための糧としなくてはいけないのかなと思うのです。
この物語に登場するのはイラクのクルド人難民・ビラル(フィラ・エヴェルディ)。イギリスに移住してしまった恋人のミナ(デリヤ・エヴェルディ)に会うために、イラクからフランス最北端カレまで陸路4000キロを歩いてやって来たのでした。しかし目の前に横たわるのはドーバー海峡。最初はトラックでの密入国を試みるも見つかって失敗。そこで彼は泳いでイギリスに渡ろうと考えます。しかし満足に泳げないビラルは、プールでクロールを学ぶことに。そこで出会ったのがコーチのシモン(ヴァンサン・ランドン)でした。物語では2人が交流を重ねるうちに、最初は難民に対して懐疑的だったシモンの心境がいつしか変化し、やがてビラルを「私の息子だ」とまで言うようになっていく姿が描かれています。
それにしても、初めて見聞きするフランスの難民対策は、これが今までアメリカ映画で観てきた不法移民対策より更に厳しいように見えました。住む所もない難民たちにボランティアが食事を配る様子は、それこそ日本でも良く観られる光景ですが、フランスではそれは犯罪行為にあたるのです。密入国は犯罪、犯罪者を支援するのも犯罪という至極正論ではあるものの、自国民にもここまで厳しいという事に驚きを禁じえません。シモンは今でこそ冴えない水泳のコーチですが、元々大会で金メダルを獲るほどの選手でした。特に生活に困っている訳でもない彼が何故犯罪者になる危険を冒してまでビラルを助けようと思ったのか。それには彼の別居中の妻マリオン(オドレイ・ダナ)の存在が大きかったように見えます。実は彼女は教師の傍ら、難民に対するボランティアをしていたのでした。
物語の最初のほうで、シモンがマリオンとスーパーでばったり鉢合わせするシーン。そこでは難民を追い出そうとする店員にクレームをつけるマリオンとそれを黙ってみているシモンという図がありました。「黙って見てるのね!」と怒るマリオン。そんな事件があった後に、泳ぎを習いに来たビラルと出会ったのです。彼を助けるシモンの心中には、「俺だって黙ってみてるだけじゃない。」という対抗心や、「これで俺を少しは見直してくれるだろう」といった気持ちがあったのではないか、彼の態度の端々にはそんな様子が見え隠れしました。まあきっかけは多少不純であっても、結果として彼を助けたことは間違いない訳ですが、即ちそれは警察から見ても全く同じこととなります。シモンは隣人の通報によって警察に連行されてしまうのでした。
警察が部屋に立ち入る時に隣人の家のドアの前に敷かれている玄関マットがアップになりますが、そこに書かれていたのが本作の原題である「WELCOME」。直接的には警察官に対する歓迎とシモンに対する嫌味でしょうが、これはビラルたち難民に対する痛烈な皮肉なのは言うまでもありません。一方ビラルの最初の挑戦は、途中で漁船に救われる形で頓挫します。捕まった彼の手の甲にマジックで書き込まれた812の数字にアウシュビッツを思い起こさせられました…。本来ならここで無茶は止めてもう一度何か方策を考えたい所でしたが、そうはさせない出来事が起こるのでした。それは恋人ミナに結婚話が持ち上がったこと。クルド人家族では父親の言うことは絶対だそうで、彼女は商売的に成功している従兄弟との結婚、簡単に言えば家族のための政略結婚をするように命じられるのです。
ミナの「もう来ないで」という悲痛な叫びは、ビラルをドーバー海峡へ再び向かわせてしまうのでした。別に政治的何かがあるわけでもなく、ただ単に若者らしく愛した女性に会いたい一心でここまで来ただけなのに…。残念ながらビラルは渡り切るまであと一息のところで、沿岸警備隊に追われて逃げ惑い力尽きます。そして、その事実をミナに報せにイギリスに渡ったシモンを前に、彼女は泣きながらも彼の差し出したビラルの指輪(元はシモンがあげたものだけれど。)を受け取りません。結局命を落としたビラル、父親の命令を受け入れるミナと余りにも不条理な結末です。鑑賞後に思い出しましたが、脱北者を描いた『クロッシング』でキム・テギュン監督は4年に渡る綿密な取材を元に作品を作り上げました。
本作も同様にフィリップ・リオレ監督の綿密な取材を元に描かれたことを考えれば、ビラルたちの物語は事実ではないけれど真実ではあるのでしょう。フランスの移民政策は、現在では国連の差別撤廃委員会でも問題になっているほど。作品としては当然サルコジ大統領への批判が含められているのだと思いますが、最初にも書いた通り、だからといって日本に、日本人にそれを言う資格は今の所ないと思っています。それよりも十分な議論も尽くされないまま、1000万人の移民を受け入れるなどという構想を実現しようとすることの方が危険極まりない。先人の苦労やミスに学んで何が日本にとってよりベターなのかを考えるきっかけとなる作品にすべきだと思います。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:邦題はある意味そのまんま…
総合評価:74点
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» ウェルカム(UNHCR難民映画祭) [★試写会中毒★]
満 足 度:
★★★★★★★★☆☆
(★×10=満点)
UNHCR難民映画祭にて鑑賞
監 督:フィリップ・リオレ
■内容■
フランス北部のとある海辺の町、
17歳のクルド人難民の青年が熱心に水泳教室に通っている。
彼は英国に... [続きを読む]
受信: 2010年12月24日 (金) 19時18分
» 『君を想って海をゆく』(2009)/フランス [NiceOne!!]
原題:WELCOME監督:フィリップ・リオレ出演:ヴァンサン・ランドン、フィラ・エヴェルディ、オドレイ・ダナ、パトリック・リガルド、ティエリー・ゴダール鑑賞劇場 : ヒューマン... [続きを読む]
受信: 2010年12月29日 (水) 18時06分
» 君を想って海をゆく [ダイターンクラッシュ!!]
2011年1月2日(日) 16:10~ ヒューマントラストシネマ有楽町2 料金:1000円(Club-C会員料金) パンフレット:700円(買っていない) 『君を想って海をゆく』公式サイト フランス。 イラク難民のグルド人の少年。 ロンドンに家族ごと移住している彼女に会うために密出国を図るも失敗。 ドーバー海峡を泳いで渡らんと決心。水泳教室に通い始める。 水泳教室のコーチ。元金メダリスト。別居中の教師である妻と離婚。事情が不明だが、嫌い合っている訳で無いようだ。 その妻。不法滞在の難民に飯... [続きを読む]
受信: 2011年1月 3日 (月) 21時55分
» 君を想って海をゆく/ヴァンサン・ランドン [カノンな日々]
劇場予告編の短いあらすじだけでも何か心にグっとくるものがありぜひ観たいと思っていた作品です。イギリスの住む恋人に会いに行くためにドーバー海峡を泳いで渡ろうとするクルド ... [続きを読む]
受信: 2011年1月 6日 (木) 00時15分
» 君を想って海をゆく [象のロケット]
2008年2月、17歳のイラク国籍のクルド人難民ビラルは、ドーバー海峡を挟んでイギリスを臨むフランス最北端の都市カレにたどり着く。 カレの港では多くの難民が住居を持たずに生活していた。 恋人の待つ対岸イギリスへの密航に失敗したビラルは、市民プールの水泳コーチ・シモンにレッスン料を払い、クロールの練習を始めるのだが…。 実話から生まれた社会派ヒューマンドラマ。... [続きを読む]
受信: 2011年1月 6日 (木) 02時01分
» 『君を想って海をゆく』は人によっては短編映画だよ。 [かろうじてインターネット]
今回は『君を想って海をゆく』の感想です。
観に行った映画館はヒューマントラストシネマ有楽町。相変わらず有楽町は団塊世代の街なのでしょうか、ここらの映画館は相変わらず初老の方が多め。夫婦...... [続きを読む]
受信: 2011年1月17日 (月) 00時28分
» 君を想って海をゆく WELCOME [映画の話でコーヒーブレイク]
先日2010年を振り返って、好きな映画10本を選び本作も入れましたがタイトルが間違っておりました。
「君を想って海をわたる」ではなく「君を想って海をゆく」でした。
正月早々の大チョンボ、rose_chocolatさんからご指摘いただき修正いたしました
この映画のストー...... [続きを読む]
受信: 2011年1月26日 (水) 00時49分
» ドーバー海峡冬景色 フィリップ・リオレ 『君を想って海をゆく』 [SGA屋物語紹介所]
本日はフランスのアカデミー賞と言われるセザール賞に10部門ノミネートされた社会派 [続きを読む]
受信: 2011年1月30日 (日) 20時25分
» 「君を想って海をゆく」 [ヨーロッパ映画を観よう!]
「Welcome」2009 フランス
シモンに「ガスパール/君と過ごした季節(とき)/1990」「すべて彼女のために/2008」のヴァンサン・ランドン。
ビラルにフィラ・エヴェルディ。
マリオンにオドレイ・ダナ。
ミナにデリヤ・エヴァルディ。
監督、脚本は「パリ空港の人々/1993」「マドモアゼル/2001」「灯台守の恋/2004」のフィリップ・リオレ。
17歳のクルド難民ビラルは、イラクから3ヶ月の間歩き続けようやくフランスの最北端カレにたどり着く。対岸の英国ロンドンへ渡るため... [続きを読む]
受信: 2011年1月31日 (月) 22時21分
» 国境の高い波〜『君を想って海をゆく』 [真紅のthinkingdays]
WELCOME
17歳のクルド難民ビラル(フィラ・エヴェルディ)は、ドーバー海峡を望むフラ
ンス最北端の街・カレに徒歩で辿り着く。密航に失敗した彼は、恋人の待つロン
ドンへ泳いで行こうと、...... [続きを読む]
受信: 2011年2月12日 (土) 17時04分
» 〜『君を想って海をゆく』〜 ※ネタバレ有 [〜青いそよ風が吹く街角〜]
2009年:フランス映画、フィリップ・リオレ監督&脚本、ヴァンサン・ランドン、フィラ・エヴェルディ、オドレイ・ダナ、デリヤ・エヴェルディ、ティエリ・ゴダール、オリヴィエ・ラブルダン出演。... [続きを読む]
受信: 2011年2月16日 (水) 23時59分
» 『君を想って海をゆく』 [シネマな時間に考察を。]
愛のために泳ぎゆけば、国の不寛容さえ越えられる。
信じて疑わなかった倫敦までの距離に、
いちるの望みと一途な信念とが夢の架け橋を繋いでゆく。
国の思惑に追随しない、人としての思いやりをなぞって。
『君を想って海をゆく』 WELCOME
2009年/フランス/110min... [続きを読む]
受信: 2011年3月 2日 (水) 21時51分
» 君を想って海をゆく [キノ2]
★ネタバレ注意★
フィリップ・リオレ監督によるフランス映画です。
本国では、公開5週で100万人の動員を記録し、第35回セザール賞では、作品賞・監督賞・主演男優賞・助演女優賞・新人男優賞・撮影賞・脚本賞・編集賞・作曲賞・音響賞の10部門にノミネートされたそうです(残念ながら受賞はナシ。この年は“UN PROPHETE”という大物とぶつかってしまったらしく、受賞はほとんどこの映画にとられてる模様。そんな映画がなぜか本邦未公開(哀))。
2008年12月、イラク国籍のクルド難民ビ... [続きを読む]
受信: 2011年3月19日 (土) 23時24分
» 君を想って海をゆく [迷宮映画館]
素晴らしい作品なのに、なぜにこの邦題を・・・。 [続きを読む]
受信: 2011年5月15日 (日) 21時12分
» 君を想って海をゆく [あーうぃ だにぇっと]
6月5日(日)@ギンレイホール。
昼の部13:30からの回で鑑賞。
空席がかなりあり空いている。
ギンレイの最近の演しものは不人気だ。
今年にはいり、混んでいたのはミレニアムくらい。
もう少しお客の入りそうな演目が必要か。... [続きを読む]
受信: 2011年6月 6日 (月) 20時59分
» 『君を想って海をゆく』をギンレイホールで観て、平均ふじき☆☆☆ [ふじき78の死屍累々映画日記]
五つ星評価で【☆☆☆悪くないけど普通】
フランスまで逃げてきたイラク難民が
イギリスにいる恋人に会うために
ドーバー海峡を泳いで渡ろうとする。
彼はフランスの水泳教師に ... [続きを読む]
受信: 2011年6月18日 (土) 13時06分
» 「君を想って海をゆく」感想 [ポコアポコヤ 映画倉庫]
偶然にも前日「est-Ouest」日本タイトルは「イースト/ウエスト 遙かなる祖国」を見たばっかりだったんです。奇しくも両方とも実話ベースの話で、無謀にも海を泳いで渡り他の国へ!という内容・・・。
... [続きを読む]
受信: 2011年9月 4日 (日) 10時47分
» 君を想って海をゆく(DVD) [パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ]
恋人の待つロンドンを目指し、英仏海峡を泳いで密航しようとするクルド難民の少年と、彼に泳ぎを教える元水泳選手の間に芽生える絆を描くヒューマン・ドラマ。監督は、「パリ空港 ... [続きを読む]
受信: 2011年12月31日 (土) 00時56分
» 映画評「君を想って海をゆく」 [プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]]
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年フランス映画 監督フィリップ・リオレ
ネタバレあり [続きを読む]
受信: 2012年2月28日 (火) 10時54分
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