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2011年1月 7日 (金)

隠された記憶

Photo 最新作『白いリボン』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した巨匠ミヒャエル・ハネケ監督の2005年公開作品。とあるブルジョア家族に送られてきた一本の奇妙なビデオテープから人種差別や利己心といった人間の醜い本質を浮かび上がらせたサスペンス。主演は『画家と庭師とカンパーニュ』のダニエル・オートゥイユと『夏時間の庭』のジュリエット・ビノシュ。
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嘘も100回言えば本当になる

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ミヒャエル・ハネケ監督らしく例によって今回も答えは観る者に委ねられた作品でした。良く映画サイトなどではこの作品を心理サスペンスといった形で紹介されているけれど、額面どおり言葉を受け取って観ると面食らうかも。そもそもハネケ作品ということで、いわゆるハリウッド的なラストなどハナから期待していなかったけれど、これはボーっと観ていたら「えっ?これで終わり?」っとなってしまうでしょう。しかしハネケの作品はある意味終了してからが本番だと思うのです。観終わって「中途半端で意味解んない」と投げ出してしまうのか、「ちょっとまてよ?あの時のセリフは…」と思い返して考えるのか。この作品もそうで、観ながら感じたこと心に引っかかったことをもう一度冷静に整理して考えてみる、それも様々な要素を繰り返し。その思索こそが実に楽しいと言えるのです。

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物語はとある家の映像から始まります。全く動きがなく、いわゆる定点カメラの映像のようなのですが、実はそれはビデオを再生したものでした。この1本のビデオテープが物語の発端。実はこのテープ、ある日いきなりジョルジュ(ダニエル・オートゥイユ)たち家族の元に奇妙な絵と共に届けられていたのでした。彼はTV番組のキャスターをしており、出版社勤めの妻アン(ジュリエット・ビノシュ)と息子のピエロ(レスター・マクドンスキ)の3人家族です。何度も送りつけられるビデオに加え、学校のピエロの元にまでおかしな絵が書かれたハガキが届く始末。恐怖の色が次第に濃くなると同時に、夫婦の仲もギクシャクし始めてしまうのでした。やがて観ている私たちは、ジョルジュは犯人に心当たりがあるらしいことが解ります。

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めったに行かないという生家で久しぶりに母親と対面したジョルジュは子供の頃の知り合いらしいアルジェリア人のマジッド(モーリス・ベニシュー)に関してしきりに覚えているかと問いただすします。その男が犯人なのか?この一連のシークエンス辺からどうもジョルジュという人間が少しづつ気にかかってくるのでした。この男は何かが引っかかる…。そして本作に2度あるショッキングなシーンのうちの最初が訪れます。一人の子供が生きた鶏の首をはねると、吹き出した血がビシャっと顔にかかり、首がない鶏がひたすら地面でもがきまくる…。そして鶏のクビをはねたナタを手にした子供が自分に向かってきて……目が覚める。(笑)そう、それはジョルジュの夢でした。どうやら彼はマジッドに関しての何かの記憶を封印しているらしい。

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ここでふと思ったのが「嘘も100回言えば本当になる」という言葉。元々は宣伝手法に関する言葉ですが、要は人間は自分の後ろめたさを隠すために自分に対して嘘を突き通すことで、遂にはその嘘が真実だと思い込むことがあるのだということ。ジョルジュはアンに対して、自分のせいでマジッドが施設に行く羽目になったことは告白しますが、その詳細に関しては「6歳の時の嘘なんか覚えてない」と話します。多分これはある意味本当である意味嘘。正確には覚えてないのではなく長い年月自分に嘘の事実を刷り込むことで、嘘が事実だと思い込んでいるのではないか…。そう考えると本作の中にはジョルジュという人間の本質がここかしこに散りばめられているように思えます。それは強い利己主義。結局マジッドを追い出すように仕向けたのも、親の愛を独占したいからではないでしょうか。

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他にも例えば前半の自転車とぶつかりそうになるシーン。どう見ても車の陰から飛び出したジョルジュの非は大きいのに、相手を一方的に悪と決め付けて罵倒するのです。どうも彼は一旦自分の中でこうだと決め込んだらそこで思考停止状態に陥ってしまうようで、他にもビデオテープを送りつけたのが大人になったマジッドだと思い込んだらもう一直線、彼の家に乗り込んで脅迫まがいの言動をつきつけたりもします。、あまつさえ妻が心当たり(マジッドのこと)がいるなら話してくれと必死で頼んでも「出来ない」の一点張り。マジッドと会っている様子が隠し撮りされたビデオが届くと、「君のためを思って嘘をついた」と言う始末。脅されているのが彼だけ、或いは恐怖を感じているのが彼だけならそれもありですが、ことは家族全体に及んだ話なのに。

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結局彼のその根拠のない思い込みは、マジッドの自殺という衝撃的な展開を生みます。このシーンは壮絶の一語。アパートにジョルジュを呼んだマジッドは「ビデオテープは俺が送ったんじゃない」と一言。それに対するジョルジュは「それを言うために私を呼び寄せたのか?」と例によって決め付けて返します。するとマジッドは「これを見せるためだ」と言いながら、おもむろにポケットから取り出したナイフで自らの首をかき切るのです。画面の中のジョルジュと共に観ている私たちも呆然。むろんその昔彼が鶏の首をはねたシーンと重なります。ただ、実は私たちには、マジッドの正確な心の内は解りません。彼もまた自分の哀しい過去の記憶を無意識に隠していたのだと思うのです。むしろジョルジュがそれを暴き出してしまったのかもしれません。

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ラストシーン、ピエロの学校の前の引きの映像。画面左隅でマジッドの息子(ワリッド・アフキ)とピエロが何やら話しあっているのが見て取れます。普通に考えたら彼ら2人が共犯なのでしょう。しかし、固定された映像はもしかしたらビデオかもしれません。それじゃ真犯人は別にいる?ハネケ監督のいつもの論法から言えば論理的な説明はつくのかもしれません。しかしそれよりも、極普通に見える人間が自分でも気付かないうちに罪を犯し、そしてその記憶を無意識の内に嘘で塗り固めて隠そうとしていること、そしてそれは当たり前に存在している事象なのだということこそ、ハネケ監督が言いたいことなのではないでしょうか。即ち人間の醜さとでもいうか…。こうして書きながらまた違った考えが自分の中で浮かんできます。しかしそれがハネケ作品の楽しみ方ではないでしょうか。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:色んな考えが浮かんでは消えていく…
総合評価:82点

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試写で今月観たばかりだけど、 もう気になって気になってハネケ映画際でまたどっぷり漬かって初日の昨日、 2度目を観てきちゃいました。。。。。 観なおしてもあんまり2度のレビューは書かないん...... [続きを読む]

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» 隠された記憶/CACHE /HIDDEN [我想一個人映画美的女人blog]
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受信: 2011年7月30日 (土) 15時10分

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